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『失踪事件』

しかし、ね。●●さん。やっぱり、よしといた方がいいんじゃないかね。


 君はもっと分別がついてると思ってたよ。だって、そうだろう? わざわざ変なところに足を突っ込まなくてもいいじゃないか。


 そりゃあ、君が趣味で本を書いてるのは知ってるよ。知り合いのよしみで参考になりそうなことを教えたりもしたしね。


 でも、君は趣味だろう? あ、いやいや、分かってる。確かに世間に見せてるんだ、完全な自己満足とは言えないかもしれんが。


 それでも、君が書いているのはファンタジーとか、SFとかもっとフィクションだった。え、最近は推理小説を書いてる? いや、フィクションには変わらんだろ。


 え? いや、それは。あー、分かった、分かった。確かに、私から言い始めたことだな。


 ただの世間話のつもりだったんだよ。そんな目を光らせて、メモまで用意するとは思わないじゃないか。


 ん? 待て。今、録音してるのか? おいおい、抜け目ないね、●●さん。


 分かったよ。ただ、私から聞いたと言わないでほしい。外聞に関わるからね。


 えーっと、いつだったかな。確か、去年の秋とかだったか。まあ、職場の同僚、っちゃ変だけど、まあその関連の知り合いさ。んで、軽く飲もうって話になってね。別に大したやつじゃない、仕事の付き合い半分、プライベート半分ってな感じで飲んだだけだ。


 互いに近況を報告し合って、そっから自分とこの仕事の話とかをポツポツ話したわけさ。まあ、大半が愚痴だったが。


 で、たぶん、その時だったかな。最近あった奇妙な話みたいなので盛り上がったんだ。まあ職業柄、方々に出向くからね。面白かった。


 初めのうちは別にたわいもないものだったんだ。クスッと笑えるようなね。


 その話が出たのはその途中だったね。彼が何か思い出したような素振りを見せて、そういえば、と言ってきたんだ。


 ●●少女失踪事件って知ってるかい? ああ知らない? そうかあ。オカルトマニアとかならすぐ食いついてくると思うよ。


 あはは、確かに。君が言うようによくある怪談話かもしれない。その人も酔ってたしね。


 簡単に言えば、とある少女が帰宅時に失踪したっていう話だ。学校帰りのね。


 まあ、便宜的にAちゃんと呼ぼうか。確か……小学2年生、とかだったかな。


 その地域は過疎化が進んでいて、子どもの数も減っていた。何とか学校の維持はできてたみたいだが、かなり遠くから通う必要がある子も多かったらしい。Aちゃんもその一人だった。


 事件が起きたのは下校時だ。Aちゃんは彼女の家から約800m離れた場所で友人と別れ、消息を絶っている。


 まあ、そうだな。上の見立てでも君と同じようなものだったらしい。


 にしても、君はひどく冷静な思考をするね。もっと乗ってくると思っていた。


 ああ、確かに。今の内容じゃあ、変なところはないな。


 Aちゃんは未だ行方不明。持ち物すら、見つかっていない。


 そんなに怪訝そうな顔をしないでくれ。私が内部の情報をばらしただけの無能に見えるじゃないか。


 ん? ああ。彼女自身に変なところは無かったと言っていたよ。問題は家族の方だ。


 Aちゃんの失踪を通報したのは彼女の母親だ。そして、警察の事情聴取を受けて、数時間後に家族全員が姿を消している。


 出来の悪いホラー? まあ、そうかもな。私も同じことを思って、つい尋ねてしまったよ。


 で、彼はなんて言ってきたと思う?

 不謹慎なやつだとさ。自覚はあるけどね。


 それから一家全員、消息が分かってない。

 警察がその後、家を捜索したらしいんだが、界隈で有名になったのはこっちが理由だな。 


 とにかく暗かったらしい。全てのシャッターは降りてるし、カーテンもみっちり閉まってた。それだけなら、ただの戸締りにも見えたんだが、その徹底具合が凄まじくてね。扉とか、窓とかの隙間という隙間にガムテープが貼られてたのさ。何重にも。


 ああ、上も最初はそう思ったらしい。ただ、方向というか、目的が違うんじゃないかと。鏡は全て割られていた。それだけじゃなくて、金属系の反射するものには、徹底して黒いビニールテープが貼られていたそうだ。電球まで抜かれていたからな。


 え、使えない? ええ……って、別にネタのために言ったわけじゃ無かったな。私的にはただの世間話のつもりで始めたんだった。


 いや、いいよ。この話は自由に使ってくれ。さっきの話は調べたら出てくる内容だから、別に問題にはならない。


……悪かったよ。でも、君は知らなかったんだから、情報としては有用だろ?


 はあ、分かった。コーヒーの一杯でも奢ろう。それで満足してくれ。

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