生命の光①
はぁ……。
あ、すまん。
ちょっと最近落ち込むことが多くてな。
え?
俺だって落ち込むことくらいあるさ。
なんなら割としょっちゅう落ち込んでいるぞ。
最近はもうずっとだ。
「サブレ!手を出して!」
「おう」
「ふん!」
ぺちっ
「ふん!」
ぺちっ
「ふんっ!」
ぺちん
ふっ。
可愛い生き物だな。
あれから小野ちゃんは修行を始めたようだ。
練習の合間合間に拳を握っては、教えたジャブとストレートを打っている。
モンスタ◯ファームのウサギみたいだ。
……。
あのウサギみたいにバカみたいなオナラは多分しないと思うけどな。
多分な。
「サブレ」
「ん?」
「どう?」
「おお、ペチペチいってるな」
「強くなった?」
「まだ闘いには行かないほうが良さそうだ」
「くそーーー!」
ぺちっ
「手を怪我しないようにな」
「私もやりたーい」
「美咲ちゃんまで……」
「美咲ちゃんは右手叩いていいよ。私は左手叩く」
「わかったー!」
ぺちっ。ぴっ。
ぺちっ。ぴっ。
ぺちっ。ぴっ。
何をやっているんだ……。
「サブレー!ちょっといいか?」
「アフロ先輩」
「楽しそうなことやってんなあ」
「アフロ先輩、手本を見せてやってください」
「お!良いのか?」
「やはりボクサーといえばアフロでしょう」
「どれ」
……。
「ふんっ!」
ドガァン!
「……」
「……」
「……」
「小野ちゃん」
「はい」
「これがパンチだ」
「首から上が吹っ飛びそうだね」
「ガッハッハ!このくらいのパンチが打てるようになったら小野ちゃんも一人前だな!」
「ぐぬぬぬ!」
「サブレ!ラリーしようぜ!」
「はい!悪いな小野ちゃん、美咲ちゃん、ちょっと行ってくるぞ」
「はーい」
「いってらっしゃーい♪」
「サブレ」
「はい」
「仲良しだな」
「はい」
……。
◇
アフロ先輩とのラリーは楽しい。
俺もこの一年、ほとんど毎日サークルに顔を出していたからか、中学時代の自分くらいは打てるようになった気がする。
それでもまだまだアフロ先輩には勝てなそうだ。
あと一年。
アフロ先輩が引退するまでに、一回くらいは勝ちたいなあ。
「サブレ」
「はい」
「1セットやるか?」
「良いんすか?」
「今日は人も少ないしな」
「お願いします!」
「胸を貸してやろう」
「胸を借ります!」
◇
【サブレ 2 - ⑥ アフロ】
ぐぬぬぬぬ!強すぎる。
そもそもアフロ先輩のファーストサーブが入っちまったらこっちは返すので一杯一杯だ。
サーブをなんとか返したところでボレーに詰めてきてるし……。
それどころか、サービスエースを何本取られたんだ!?
「アフロ先輩」
「ん?」
「アフロ先輩ってインカレとか興味ないんですか?」
「部活は高校まででやり切った感あるからなあ」
「そうなんですか」
「『リプトン』でみんなとやってる方が俺には合ってるよ」
「俺にはありがたい話ですけどね」
「俺もサブレがいるおかげでちゃんと打てるから助かるぞ」
「光栄です!」
「小野ちゃんも美咲ちゃんもラケットにボールが当たるようになったしな」
「さすがアフロ先輩です」
「いや、サブレのおかげだよ」
「俺ですか?」
「サブレもめっちゃ球出ししてくれてるじゃん」
「可愛い女の子に弾出せるなんて、役得ですから」
「はは!そうだな!」
「カズヤが相手だったらそうはいきませんよ」
「あいつは調子に乗るからなあ」
「困った童貞ですね」
「全体練習もさ」
「ふむ」
「今、『リプトン』だと俺とサブレくらいしか練習引っ張れるやついないからな」
「あー。タカマサ先輩とか、恵美子さんは来たり来なかったりですしね」
「うむ。テニスがちゃんとできて、練習参加頻度が高い。そして、男前である」
「ふっ。双肩にかかっているわけですな」
「そういうことだ」
「光栄ですね」
「サブレ」
「はい」
「今日、飲み行くか!」
「……はい!」
アフロ先輩には気を使わせてしまったな。
俺は別に落ち込んでいる様子が外に出やすいタイプではないと思うんだが……。
ふっ。
かなわんなあ。
◇
「いらっしゃいませー」
「予約してないんですけど、4人いけますか?」
「お!アフロくん!いけるいける!そこのテーブル座っていいよ!」
「ありがとうございます!」
「友達?イケメンだね」
「イケメンは引かれ合うんですよ」
「はは!確かにな!何飲む?」
「ちょっとメニュー見て決めさせてもらいますね!」
アフロ先輩は、俺、美咲ちゃん、小野ちゃんを行きつけの店に連れてきてくれた。
「アフロ先輩は何飲みます?」
「まずはビールだな」
「じゃあ俺も」
「私も」
「美咲ちゃんは?」
「私は梅酒のソーダ割りにしようかな」
「美咲ちゃん、カシオレ以外も飲めるようになったんだ?」
「うん!この間サブレに連れていってもらったお店で飲んだんだ♪」
「あー、彼氏と別れた慰め会の」
「そうそう!」
「すごいお店行ってたね」
「やっさんが勝手に予約したんだ」
「私も行きたかったな」
「小野ちゃんは彼氏と別れたらな」
「別れたよ」
「「「ええ!?」」」
そうか、別れたのか。
知らなかったな。
「こちら、『梅水晶』と『枝豆』と『だし巻き』と『お刺身盛り合わせ』と『寒サバの塩焼き』になります」
「ありがとうございます」
テーブルには、生ビールが三杯と梅酒のソーダ割り。
梅水晶、枝豆、だし巻き卵。
7種のお刺身盛り合わせ。
そして寒サバの塩焼きだ。
「とりあえず、乾杯だな」
「はい」
「乾杯!」
「「「乾杯!」」」
さすがアフロ先輩の紹介してくれた店だ!
うまい。
◇
小野ちゃんの別れ話に突っ込まないまま、結構な量を飲んでしまった。
前回のアレで日本酒を知ってしまった美咲ちゃんが絶好調だ。
小野ちゃんも巻き込んで宴が始まってしまった。
「小野ちゃん!そろそろじゃない?」
「ああ?別れ話のあれ?」
美咲ちゃんがぶっ込んだ。
「して、小野ちゃん」
「ん?」
「どうした?この間会ったときは仲良さそうだったじゃないか」
「あー」
「そういやサブレは小野ちゃんの彼氏に会ったんだっけ?」
「あぁ。真帆とのデート中にな」
「真帆とまだデートしてるんだ」
「まぁ、仲良しだからな」
「ふーん」
「美咲ちゃん、今は小野ちゃんのターンだ」
「そうだったね」
「あー、あのあと結構揉めたんだよね」
「なんで?」
「彼氏がサブレに嫉妬しちゃってさ」
「ええ!?」
「まぁ、それだけじゃないんだけど」
「いや、なんか、若干彼氏くんの機嫌が悪そうだったから、早めにバイバイしたんだが……。遅かったか」
「別にサブレが悪いわけじゃないよ」
「いやぁ、俺の顔は雑魚の目には毒みたいでな。配慮が足りなかったようだ」
「小野ちゃんの彼氏を雑魚って!失礼だよサブレ!」
「別に間違ってないからいいよ」
「あぁ。小猿のような男だった」
「ふふ。小猿って……」
小野ちゃんが笑ってくれてよかった。
肝が冷えたぞ。
「小野ちゃんはその小猿のことは好きだったのか?」
「アフロ先輩まで小猿って!」
「どうなんですかね」
「好きじゃなかったのか?」
「なんか、直接『好き』って告白されたから、他の奴らよりはマシかなって」
「あー!わかる!私もそうだった!」
「チェックシャツも着てなかったしね」
「チェックシャツ、そんなダメなんだ?」
「トラウマだよ」
「結局好きって感じではなかったと思う」
「そうなんだ」
「最初はいちいち手を握ってくる時とか、キスをする時とか、確認してきたんだよね」
「どんなふうに?」
「『ねぇ、チューしていいかな』って」
「おお、紳士的な猿だな」
「サブレ的には紳士なんだね」
「いきなり後ろから抱きついてチチを揉むよりはマシだろう」
「それもそうか」
「チチは揉まれてないよ!」
「続けてくれ」
「しばらくは平穏な日々が続いていたんだけど、一回セックスをしてから様子がおかしくなったんだ」
小野ちゃん!?酔ってるのか!?
「小野ちゃんの口から……そんな単語を聞くことになるとは思わなかったぞ」
「小野ちゃんってそういうこと言うんだね」
「びっくりだぜ」
「……今日はまぁ、いいかなって」
「そうか。続けてくれ」
「なんか、一度抱いた女は自分の所有物になったみたいになってさ」
「……」
「それで『誰とLINEしてんの?』とか、『スマホ見せて』とか、『サークルの男と仲よすぎじゃない?』とか」
「うわぁ」
「それはちょっと嫌だな」
「ふむ。紳士とは言い難いな」
「最初は恐る恐る触れてきていたのに、どんどん触り方も雑になってきてさ」
小野ちゃん!?酔っているのか!?
「小野ちゃん。俺は小野ちゃんの猥談を聞きたくないからちょっとその辺は端折ってくれ!」
「えー!私は聞きたい!」
「俺も聞きたいな!」
「アフロ先輩!そんな綺麗な目ですけべなことを言わないでください!」
「なんか今日はサブレが童貞みたいだね」
「サブレは耳塞いでて!私が塞いであげよっか!」
「それはそれでドギマギしてしまうだろう」
「さ、小野ちゃん。続けてくれ!」
「うむ。とっておきの濡れ場を話してあげよう」
だめだ……小野ちゃんはへべれけだ!
「小野ちゃん!まだ酒はそんなに飲んでいないはずだぞ」
「あれは、寒い冬の日のことだった!」
「やめてくれ!」
「池袋の北口に降りた私たちは……」
「わぁぁぁぁ!」
「例の彼氏の要望で、何やら怪しげなグッズがたくさんある……」
「ちょっとトイレに行ってくる!話は進めておいてくれ!」
小野ちゃんが突然猥談を始めるとは……。
どすけべ小動物じゃないか。
困ったものだ。
まったく。
◇
「小野ちゃん続けて!どうなったの!縛られたの!?」
「ふふふ。ちょっとサブレをからかってみた」
「もう!小野ちゃんったら!」
「なんだ、ワクワクしていたんだけどな!」
「もう!アフロ先輩ったら!」
「ガハハハ!サブレの意外な一面が見れたな!」
「カズヤがいたらなんて言うだろね」
「カズヤがいたらこんな話はしないよ」
「わかるー!」
「童貞には刺激が強すぎるか!」
「「わかるー!」」
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




