酔っ払い小話「恋愛」
「サブレってさ」
「ん?」
「好きな人とかいないの?」
「いや、そんなことないぞ」
「そうなんか」
「小野ちゃんも好きだし、美咲ちゃんも好きだし、恵美子さんも好きだな」
「俺の真似をするんじゃねえ」
「事実なんだから仕方がないだろう」
「付き合ったりとかは考えないのか?」
「ふっ」
「何笑ってやがる」
「いや、好きだと言えば付き合う話をする感じが童貞だなと」
「そこはお前、普通だろ」
「普通か?」
「普通だろ」
「俺は女性と交際するのが苦手なんだ」
「贅沢なこと言いやがって」
「事実なのだから仕方がないだろう」
「童貞じゃないのに?」
「童貞じゃないからこそだろ」
「そうなのか?」
「お前は女性と付き合って何がしたいんだ?」
「そりゃ、デートしたり」
「ふむ」
「手を繋いだり」
「ふむ」
「ハグしたり」
「ふむ」
「キスしたり」
「ふむふむ」
「エッチだってしたい」
「なるほどな」
「何が『なるほど』なんだよ」
「お前の言ってるそれは、彼女じゃなくてもできるだろ」
「!?」
「彼女である必要のないことばかりだ」
「エッチもか!?」
「エッチもだ」
「お前……!」
「ふっ。少し童貞には難しかったようだな」
「じゃあ、なんでサブレは美咲ちゃんに抱きつかれたら逃げるんだ?」
「あぁ」
「『付き合わなくてもエッチなことはできる』というのに矛盾じゃないか」
「少しは考えられるようになったな」
「だろ?」
「うむ。そうだな……」
「ようやく言い負かすことができたか」
「ふむ」
「お前が押したらイケそうな気がするけど、美咲ちゃんとエッチなことをしたくないのか?」
「したい」
「したいのにしないのか?」
「我慢している」
「その顔で我慢しているのか!?」
「だからこそ、くっついてこられると困る」
「なんでだ?」
「我慢しているからだ」
「意味わかんねーよ!」
「仮に、美咲ちゃんが嫌がらないとして、俺が美咲ちゃんのチチをもみしだいていたら、どう思う?」
「ちょっとエッチな気分になってしまうかもしれない」
「俺が小野ちゃんとすけべなことをしていたらどうなんだ?」
「ずるい!お前、すけべなことをしたのか!」
「例え話だバカタレめ」
「付き合いもせずにってなると、乱れを感じるな」
「そうだろう」
「このすけべ野郎!二股は許さん!お前みたいな男が独り占めするから俺たちに回ってこないんだ!」
「美咲ちゃんとも小野ちゃんとも何もしていない」
「本当だろうな?」
「俺はみんなで楽しくバカやるのが好きなんだよ」
「なるほど」
「お前が言ったように、性の乱れは風紀の乱れだ」
「ふむ」
「風紀が乱れるとみんなで楽しくってのは難しくなる」
「なるほど」
「俺が楽しいだけになってしまうからなあ」
「クソ野郎め!!!」
「ふっ。冗談だ」
「何が冗談だ!」
「俺だけが楽しいなんて事象自体がそもそも存在しない」
「意味がわからんぞ」
「考えてもみろ」
「ふむ」
「俺だけが楽しい。カズヤは楽しくない。美咲ちゃんも楽しくない。小野ちゃんも楽しくない」
「あー」
「わかるか?楽しみってのは連鎖なんだよ」
「あぁ」
「だから、リプトンで俺は変なことをする気はない」
「リプトンでは?」
「ふっ」
「あ?」
「たまたま歩いていて、女性がハンカチを落としたとしよう。お前ならどうする?」
「あぁ、拾って渡すな」
「そのあとは?」
「どうもこうもないだろ。それで終わりだよ」
「ふっ」
「なんだよ」
「たまにそのまま終わらないことがあるんだよ」
「なん……だと……」
「拾って渡した後にな」
「あぁ」
「なんかお姉さんがボケッとしているから、『素敵なハンカチですね。失くさなくてよかったです』みたいなことを言ったんだ」
「そしたら?」
「なんか知らんが、一緒に飯を食いに行くことになってな」
「そこの『なんか知らんが』が重要だろ!?」
「気づいたら、火曜日はその女の家に帰ることになっていた」
「マジで意味がわかんねえよ」
「俺にも分からん。分からんものは防ぎようがない」
「クソが!」
「ふっ。童貞には分からんか」
「それは童貞じゃないやつでも共感できねー事象だよ!」
「それで、その女とは……」
「そこで俺が我慢する必要は無かろう」
「だから俺は顔の良い奴が嫌いなんだよ!」
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




