スラ◯ムにマダ◯テはどう思う?④
「やめろマサシ!」
俺が手を伸ばした時にはもう遅かった。
マサシは高橋に殴りかかっていた。
「クソガァッ!っせ!!!」
一発目は高橋が殴られた。
不意打ちだったからだ。
でも、高橋は驚いただけで、そんなに効いていなかったみたいだ。
マサシはチビでガリガリのモヤシ野郎だから。
高橋の取り巻き二人はすぐに離れた。
喧嘩に参加する気はなさそうだ。
それなら、俺が参加することもできない。
タイマンの邪魔をする文化は無い。
取り巻き二人が傍観を決めたことで、俺が喧嘩に参加する理由は無くなった。
だって、これはマサシの問題だから。
……。
マサシはすぐにボコボコにされた。
全然相手にならなかった。
イキがってばかりで雑魚の高橋でさえ、こと喧嘩においてはマサシよりも格上だったらしい。
でもマサシは殴りかかるのを辞めなかった。
学校での喧嘩は、勝敗が明らかになったら周りが止めるのが暗黙のルールだ。
あまりしぶとくじゃれていると、誰かが教師を連れてきて面倒なことになる。
俺はルールを破ってしまった。
どう見ても、マサシに勝ち目はないのに。
喧嘩を止めなかった。
マサシは別にケンカが好きなやつじゃない。
いつもすぐに逃げ出す。
だから弱いんだ。
止めて欲しいのに、自分から辞めるのがカッコ悪いから続けるようなプライドを持っていない。
喧嘩が嫌になったら土下座をしてでも逃げ出すのがマサシだ。
だから、本当に止めて欲しいと思っていないから戦っているんだろう。
この雑魚と。
そんなことを思っていたら、取り巻き二人が止めに入った。
潮時か。
「はなせ!クソが!ぶち殺す!」
「はなせもクソもないだろ雑魚が」
「もうやめろって」
「クソがっ!離せ!っせ!」
「助けてやるからタカとか連れて来んなよ」
「高橋も謝れって」
こいつらはよほどタカにビビっているみたいだ。
「うるせえ雑魚が」
高橋はどこまでもバカみたいだ。
「離せ!ぶん殴る!っしてやるよ!」
流石に騒ぎすぎたな。
めんどうなことになる前に終わらせないと。
「もうやめとけ、マサシ」
「離せ!動画を消せ!」
マサシは泣いていた。
あぁ。
なるほど。
こいつは東北訛りが激しい上に興奮しすぎて何を言ってるかわからなかったが……。
ブスの彼女の動画を消させたがってたのか。
……動画。
ドガッ!!!
気がついたら無関係の俺の拳は高橋の顔面を捉えていた。
「ンゴっ」
驚いて固まるマサシ。
マサシを離してしまった取り巻き。
鼻血を出しながら倒れる高橋。
鼻血だらけの床。
ごめんなマサシ。
お前の感情を横取りしちまった。
マサシは俺に殴り返してくれなんて言ってなかったのにな。
ただ、俺が勝手に作り上げた『俺の中のマサシ』がこいつをぶん殴りたいと言ったみたいだ。
学校での喧嘩は、勝負がついたらすぐ止める。
暗黙のルールだ。
だが、雑魚の高橋は鼻血を出しながらもまだやる気みたいだ。
いつの間にか立ち上がっている。
いつもの俺だったら、「こいつ不細工だな」と思う余裕くらいはあるはずだ。
しかし、俺はもう高橋の不細工な顔を見ても何も考えられないくらいどうしようもなくなっていたみたいだ。
「クソがっ!」
高橋が組みついてきた。
あぁ。
高橋はおそらく、高校デビューで喧嘩などしたことのないカッコだけのやつだ。
身長が160センチのチビでもやしのマサシにとっては、一日三食は食えてる程度の高橋でもゾ◯マのように感じるかもしれない。
しかし、俺からすればただのスラ◯ムだ。
スラ◯ムベスですらない。
こいつは俺からすれば、チビだし何より顔がキモい。
俺はスラ◯ムに足をかけて転ばすと、受け身も取れずに転がっていった。
スラ◯ムに足などないというのに。
流石に実力に差がありすぎた。
別に俺が強いわけではない。
タカが破壊神シ◯ーだとしたら、田中はハー◯ンで、俺は高く見積もってもバ◯ズが関の山だろう。
だが、HPが10以下のスラ◯ムにとってはバ◯ズもシ◯ーも関係ない。
どれに攻撃されても一撃で死ぬのだからな。
とまぁ、普段の俺ならこんなことを考えているだろうが……。
俺の中のマサシはもう止まらなかったみたいだ。
「もうやめとけって高橋」
「動画は別に見せなくても良いから早く消せ」
「クソが!早く消しやがれ!」
「落ち着けってマサシ」
取り巻きは止めに入ろうとしている。
本物のマサシはずっとキレてる。
スラ◯ムは……。
「ぶっ殺す!」
臨戦体制だ。
無様に転がったスラ◯ムが立ちあがろうとする。
俺の中のキレたマサシはその頭を掴み……。
思い切り顔に膝蹴りを入れていた。
廊下まで吹っ飛ぶ高橋。
切れる額。
噴き出る血。
割れるガラス。
血だらけの廊下と教室。
やらかした。
俺はスラ◯ム相手にマダ◯テを放ってしまったようだ。
……。
マサシも、高橋も、取り巻き二人も、そして、俺の中のマサシも……。
これがやばいことだけはわかったみたいだ。
タカだったら、ヘラヘラしているだろう。
田中は……まぁ、こっち寄りだな。
俺もマサシも高橋も、別にワルではない。
カッコが派手なだけだ。
だからここで俺たちの決着はついた。
血が大袈裟に出ただけで、スラ◯ムは割と元気だった。
さて、もうどうしようもないことになってしまったな。
なんてことを思っていると、流石に人が集まってきた。
すでに俺の中のマサシは冷静だ。
あとは動画を消すという目的が遂行されれば問題はないはずなんだが、
なぜか俺は二人の教師にはがいじめにされていた。
すでに戦う意志を失っているというのに。
血まみれのスラ◯ムは無事保護されていた。
「おい、高橋」
「あ?」
「動画、消せよ」
「わかった」
「流出したら、本当に何が起こるかわからんからな」
「わかったって」
「お前のために言ってるんだぞ」
「今消すよ!ホラ!」
高橋は動画を目の前で消した。
ガラケーの時代だ。
今みたいにバックアップをとっておいたり、クラウドに保存されているようなことはないだろう。
「感謝しろよ」
「あ?」
「相手が俺でよかったな」
「……あぁ」
「マサシに謝っとけよ」
「わかった」
これはマジだ。
あと俺にできることは、この話の落とし所をタカに伝えることだけだ。
高橋はちゃんとしばいた。
動画は消えた。
高橋はマサシに謝ったはずだ。
という事実を。
流石に自分が喧嘩した相手が行方不明になったりするのは後味が悪い。
マサシもそうだろう。
先に結論だけ言うと、スラ◯ムはまだ生存が確認されているから安心してくれ。
この間SNSが動いてるのを目撃した。
もう一度言う。
俺はタカとは成人式に会ったのが最後だし、もう会うことはないだろう。
友情とリスク管理は別だからな。
タカの話はもうしない。
コンプラに抵触するのはごめんだ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




