スラ◯ムにマダ◯テはどう思う?②
高校時代、俺にはマサシという友達がいた。
マサシの家はあまり裕福ではなかったらしく、昼飯は大体コンビニの百円くらいで六本入りのチョコが混ざった細い菓子パンだった。
六本全てを平らげれば、マサシの腹を満たすには十分といった、優秀な食い物だった。
俺もたまに食べている。
ただ、栄養バランスは偏っていたのだろう。
そんなものばかり食っているせいか、マサシ自身は小さくて細かった。
それなのに、家で飼っている三匹の犬は揃ってぶくぶく太っていた。
意味がわからない。
「マサシの家は犬の方がいいもん食ってるんじゃないか?」
「んー!そうかも!」
「そんなんでいいのか?」
「飼い犬は自分で餌を選べないから気を遣ってやらなきゃな」
「自分にも気を使ってやれよ」
「俺はこの菓子パンが好きなんだよ」
「夜はちゃんと食べてるのか?」
「家に米がある」
「そんなんじゃ腹減るだろ」
「まぁ、俺チビだから別に大したことじゃねーよ」
「また犬の散歩が終わったらうちに来い。お母さんも喜ぶ」
「まじ!?サブレん家の母ちゃん優しいよな!」
「餌付けが好きなんだよ。マサシが飢えた野良犬みたいな顔してるからな」
「ひでえ!」
「野良犬に自分の飯を分けてるお前と一緒だな」
「確かに!なんか気持ちわかる気がするわ」
「野良犬としてしっかり餌を食いに来い」
「サンキュー!俺、サブレん家の子になろうかな!」
「犬も連れてくる気か?」
「そりゃそうだろ」
「うちは親父が犬アレルギーなんだよな」
「じゃあダメか」
「外で飼うならいけるかもな」
「はは!冗談だよ!」
「ほら食え、卵焼きを分けてやろう」
「サンキュー!サブレママの卵焼きうまいよな!」
「砂糖入りだ」
「甘いの好きー!」
そういう奴だった。
そうやってうちに来て、そのまま遊んでいても、朝の五時になると必ず帰る。
犬の散歩があるからだ。
マサシはチビでバカで喧嘩も弱いし別に顔も普通だ。
だが、そんなスペックで不良ばかりの高校で生き抜いてきたわけだから、案外たくましい奴でもあった。
良い奴だったし、なんというか、芯のある奴だったな。
俺はそんなマサシが結構好きだった。
マサシには彼女がいた。
少しブスで、やたらと胸のでかい女だった。
マサシの彼女のせいで、俺はいまだにブスと巨乳が強制的にリンクしてしまう。
りんごを見るとアップルという言葉が出てくる。
そんな感じだ。
迷惑な女だった。
だが、
マサシはそんな彼女が大好きだったみたいだ。
流石の俺もマサシに
「お前の彼女ちょっとブスだよな」
とはたまにしか言えないくらい。
マサシが彼女を大事にしていることを知っていた。
金もないくせに、毎月3日の記念日とやらで彼女に飯を奢っていた。
大衆イタリアンのドリアでも、奴の懐事情からすれば激痛だったろうに。
……。
まあいい。
とにかく、マサシは犬と彼女と弟たちを大事にしていた。
それだけ覚えておけばいいんじゃないか。
お前らはな。
続けるぞ。
……。
その日の昼も、マサシと田中とタカと一緒に飯を食っていた。
マサシはいつものように菓子パンを食っていて、俺はお母さんが作ってくれた弁当を食べる。
タカは購買で買った弁当を食べていて、田中はカップラーメンにお湯を入れてきたところだ。
「お前はいつもカップラーメンだな」
「友達の家に遊びにいく時に手土産を持たせるような育ちの良い家庭じゃないからな」
「田中のお母さんは美人じゃないか」
「サブレママは手土産を持たせる上に美人だろうが」
「まぁ、いかんせんこの顔の息子を産むおばさんだからな」
「おばさんじゃねーだろ!ウチの母ちゃんより10以上歳食ってるのに異常に美人じゃねーか」
「田中のお母さんは若くて良いじゃないか。俺は好きだぞ」
「マサシ、俺の唐揚げとチョコチップ一本交換してくれ」
「いいよ。でもタカ、唐揚げとパンはレートが若干ずれてないか?」
「貧乏人から貴重なカロリーを奪い取るわけにはいかないさ」
「別に貧乏ではない!」
「ふっ。ならば俺の卵焼きも恵んでやろう。貧乏人め」
「俺は貧乏人ではない!」
「俺の謎肉も分けてやる」
「それはいらん!麺と一緒に食わねーとうまくねえだろそれ」
「麺はやらんぞ!」
「いらねーよ!」
「……」
「はははははは!」
田中とタカと俺とマサシは一年の頃から仲良しグループだった。
田中とタカはやたらと音のうるさいバイクに乗っていて、やたらと喧嘩ばかりするバカだった。
マサシは自分のタバコを持ってないからいつももらいタバコばかりしていた。
俺はタバコを吸わないからいつもハイチュウを食べていた。
ハイチュウはいいぞ。
ポケットに入れておくだけで、女にモテるからな。
それはまぁ、別の話だ。
田中は親父がいないが、お母さんが若くて綺麗だ。
30代の前半で高校生の息子を育てているのだから大したものだ。
いつも俺が田中の家に行くと喜んでくれる。
俺のツラが良いからだろう。
タカは地元だと結構ヤバいやつ扱いされていた。
学校では俺たちとツルんでいたが、学校を辞めた奴らともつるんでいた。
俺達は仲が良かったから被害は受けていない。
ただ、実際にヤバいやつだったとだけは伝えておこう。
タカの話を深ぼるのはコンプライアンスに抵触するので、ここでは控える。
成人式で会ったのが最後だ。
俺は友情とリスク管理を分けて考えられる男だ。
タカはヤバいやつだったが、仲間には基本的にめちゃくちゃ優しかった。
田舎ヤンキーってのはそういう生き物である。
タカも田中も俺も、マサシをイジリはするけど、普通に友達だった。
仲は良かったと思う。
「マサシ、今日ブスの彼女いねーじゃん」
「ブスじゃねーよ!」
「確かに、視界の圧迫感がないな」
「そこまで巨乳でもねーよ!」
「まぁ、学校をサボりたくなる年頃なんだろう」
「いいなあ。若いってのは」
「お前達のほうがサボってばっかじゃん」
「あぁ。だからまぁ、特に気にする必要はないんじゃないか」
「メール送っても返ってこないんだよな」
「それは浮気だな」
「ああ。浮気だ」
「調査が必要だな」
「浮気するような女じゃねーよ!」
「相手にも選ぶ権利はあるからな」
「失礼だな!」
「とりあえず後をつけてみろ」
「俺は朝まで寒空の下でストーキング行為をして40度の熱を出したりはしたくない」
「安心しろ」
「なんだよ」
「看病はしてやる」
「いらねーよ!」
「ウチのお母さんを派遣してやろう」
「それは嬉しいな……」
「犬の散歩くらいなら代わってやる」
「だから浮気はしてねーって!」
「ふふ。冗談だ」
「浮気だったとしたら、相手を攫うしかないな」
「タカ」
「なんだサブレ?」
「やるなよ」
「え?」
「お前が言うと冗談に聞こえん」
「ふっ」
やるなよ。
絶対に。
俺が強く釘を刺したところでチャイムが鳴った。
誰も聞いてないのに担任の尾形は授業を始める。
眠くなってきた。
ああは言ったものの、マサシはソワソワしている。
俺が酷い目にあったのを間近で見ていたからな。
ちょっとしたことで不安になってしまうのも無理はない。
だが、安心しろマサシ。
お前の彼女はそんなに人が欲しがるほど良い女じゃない。
安心しろ……。
zzzZ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




