スラ◯ムにマダ◯テはどう思う?①
◇二月
小野ちゃんと遭遇した真帆とのデートから四日後。
「そういや、サブレ、小野ちゃんの彼氏とあったんだってな」
「あぁ」
「どうだった?」
「普通だな」
「普通か」
「うむ。挨拶がイマイチな男だったが、まぁ、小野ちゃんが選んだ男だ。悪いやつではないだろう」
「普通の男が小野ちゃんと付き合っているのか」
「普通だったな」
「俺が前に出る選択もあったということだな……」
「まぁ、可能性はゼロではないだろうな」
「くそー!何をやっているんだ俺は!」
「お前は美咲ちゃんが好きだったんじゃないのか?」
「美咲ちゃんも小野ちゃんも好きだし、恵美子さんも好きだ!」
「なるほど」
「サブレはどうなんだよ!」
「それは俺も一緒だな」
「だろ!?くそー!普通のやつに取られるくらいなら俺がいくべきだった!」
「後悔先に立たずというやつだな」
「あぁ」
「チャンスの神様は後ろ髪がないとも言う」
「それは初めて聞いたな」
「勉強になったろう」
「サブレ!私のこと好きなの?」
「あぁ。好きだな。いつも言っているだろう」
「私も好きー♪」
「光栄だ」
「ふふー」
「しかし、距離が近いと緊張してしまうから離れてくれ」
「ふふん♪しょうがないなー♪」
「美咲ちゃん俺も!」
「カズヤは普通ー!」
「ぐわあああああ」
「痴漢野郎から出世したものだな」
「クソが、だから俺は顔の良いやつが嫌いなんだよ!」
「ふっ」
いつものように馬鹿話に興じている。
やはりリプトンは楽しい。
テニスも飲みも全力。
先輩たちも同期もいい奴ばかりだ。
さて、そろそろ練習を始めるとしよう。
今日はカズヤがスマッシュの練習をしたいと言っていたな。
ん?
小野ちゃんじゃないか。
「おっす!小野ちゃん」
「おっす。カズヤ」
「しばらくぶりジャーン」
「ちょっと忙しかったって言っても4日だよ」
「寂しかったよ」
「週一とかでもよく来る方じゃん」
「そうだけど、美咲ちゃんも寂しがってたよ!」
「そうなの?」
「小野ちゃん来ないと寂しいよー」
泣き真似をする美咲ちゃんが続ける。
「下手くそが一人になっちゃうもん♪」
「サブレが教えてくれたおばちゃんサーブ入るようになった?」
「入れるだけなら♪」
「負けてられない」
「私に負けたくなかったらちゃんと来なさいよー♪」
「はいはい」
「よう小野ちゃん」
「日曜ぶりだね」
「あぁ。デートの邪魔して悪かったな」
「別に邪魔じゃないよ」
「そうか」
「そんなことよりみんな聞いてほしい」
「ん?」
「私は……本物の真帆を見た」
「!!」
「マジかよ」
「どうだった?」
「やばかった」
「どう言うこと?」
「宇宙人だった」
「え!?」
「このバカの隣にいても収まりの良い美女だった」
「マジか……」
「嘘……本当にそんな人いるんだね」
「お前ら、真帆をなんだと思っているんだ」
「サブレのイマジナリー元カノ♪」
「美咲ちゃんまで無礼なことを」
「ふふ」
「ははは」
「今度真帆が、みんなと滝行に挑戦したいと言っていたから、誘うよ」
「まじ!?本物の真帆に会えるの!?」
「えー!会ってみたい♪」
「うむ!タカシも誘おう」
「タカシは別にいいかな♪」
「タカシもいい奴なんだがなぁ」
「小野ちゃんも来たし練習しようぜ」
「そうだな」
「今日はスマッシュがやりたい!」
「よし、球を出してやろう」
「アフロさーん!Bコート使っていいですか?」
「いいぞー!俺も後でそっちいくわー!」
「はーい!」
「行こうぜ!」
「あぁ」
カズヤが張り切っているな。
最初はテニスよりも飲み会と女だと言っていたカズヤも、今ではすっかりテニスの虜だ。
美咲ちゃんも小野ちゃんも、最初の頃より少しずつ上手くなっている。
球出しするのもなかなか楽しい。
「サブレ」
「どうした小野ちゃん」
「私もおばちゃんサーブがやりたい!」
「あぁ、いいだろう」
……これは。
「ん?」
「小野ちゃん、顔どうした?」
「へ?」
「……」
「顔?」
「顔」
「別に何もないけど」
「そうか」
「変かな?」
「いや、いつも通り可愛いぞ」
「ふっ。チャラ男め」
「ちょっと尿を出してから向かうから先に行っててくれ」
「尿って……」
小野ちゃんは何もないような顔してBコートに向かった。
しかし……。
もうだいぶ腫れは引いているが……。
あれは殴られた後だった。
カズヤは喧嘩したこともないもやし野郎だから気づかんだろう。
美咲ちゃんも喧嘩なんか見たことすらないだろう。
いや、美咲ちゃんはもしかしたら気づくかもな。
最近、ホーリ◯ランドと喧嘩◯売を読んだらしいから。
いや……。
勝手に変なことを考えるのは良くない。
小野ちゃんは何も言っていなかった。
何もないと言っていた。
『別に何もないけど』
……。
あ。
やばい。
背中に変な汗をかいてきた。
体温が下がってる気がする。
あぁ。
俺の『嫌いな俺』が顔を出す時はいつもこうだ。
吐きそうになる。
ビールで腹がいっぱいになって吐くゲロとは違う。
俺の中の『嫌いな俺』が体の中で膨れ上がって吐き出される感覚だ。
まったく。
俺はいつだってそうだ……。
ちょっとでも仲良くなると、男女問わずすぐに人を好きになる。
恋愛とはまた別の話な気がする。
一緒に飯を食った。
一緒に酒を飲んだ。
くだらない話をした。
そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にかそいつを好きになっている。
そして、好きになった奴と自分の境界線が曖昧になっていく。
俺自身、いじめや理不尽な暴力にあったことなどない。
顔も良くて、運動もできて、喧嘩もそこそこ強い。
そんな俺を攻撃する奴が存在するとしたら、メタ認知がイカれてるとしか思えない。
幸いそんなイカれ野郎には遭遇したことがなかった。
だからなのかもしれない。
視界に入った情報だけを集める。
この状況だとこいつは悲しいに違いない。
辛いに違いない。
俺はこんな目にあったことがないからわからない。
でも、きっとそうだ。
いや、絶対にそうだ。
勝手に決めつけてしまう。
小野ちゃんは理不尽な暴力を受けた。
周りに心配をかけさせたくないからそれを隠している。
そうに違いない。
勝手にそう考えてしまった。
小野ちゃんは何も言っていないのに。
殴られたあとだと俺が思っている物すら、気のせいかもしれないのに。
……。
俺は勝手に他人の感情を横取りしてしまう。
本人は何も言っていないのに、勝手に辛そうだと思い込む。
実際、俺の推測が『正しい』か『間違っている』かなんてのは、瑣末なことだ。
重要なのはその人の意思を尊重できているかどうかだ。
俺の友達がバカで、自分の考えも持っていない、他人に頼りっきりの《《雑魚》》だったら話は別だ。
こっちで察して、ヨシヨシしてやるのが正解だろう。
そしてそれに依存した雑魚はさらに雑魚になり、依存した雑魚を愛でている自分も雑魚になっていく。
それはそれで幸せの形かもしれん。
だが、俺はそんな雑魚とは一緒に遊ぶまでが限界だ。
対等な友達関係を築くことはできない。
幸か不幸か、俺の友達はみんなちゃんとしている。
真帆だって、
小野ちゃんだって、
美咲ちゃんだって、
アフロ先輩だって、
恵美子さんだって、
タカシだって、
やっさんだって、
……。
カズヤはちゃんとしてるかわからんが、
それでもあいつなりに頑張っている。
そんな自立した人間の友達を、俺は勝手に雑魚にしようとしている。
傲慢な話だ。
俺は自分が大好きだが、そんな俺でさえ、大嫌いな自分を飼っている。
世間の雑魚どもは大変だろうな。
……。
まぁいい。
とにかく、俺がこうなるとロクなことが起こらないんだ。
そう。
マサシの時もそうだった。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




