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「初めての……」②

私が誰とキスをしようと、誰と寝ようと、誰に浮気をされようと、私自身が浮気相手だろうと、この話のタイトルが「インベスター美咲」になろうと、時は進む。


みんな普通に寝て、普通に起きて、普通にテニスをするのだ。


あんなことがあってもサークルには顔をだす。


私はテニスもリプトンも大好き。


「彼氏と別れちゃったー」


「ええ!?」


「なんか結構良い感じじゃなかった?」


小野ちゃんとカズヤが驚く。


「慰めてー♪」


「よしよし」


自分よりも小さい女の子に慰めてもらうのも悪くない。


「これは飲みに行く必要がありそうだな」


サブレはいつもこれだ。


「ごめん、今日は彼氏との予定が……」


小野ちゃんの彼氏は束縛グセがあるらしい。


浮気男とどっちがマシかな。


どっちもダメだね。


「うわあああああバイトだああああ!」


カズヤはバイトらしい。


サブレが練習場を回ってみんなに声をかけてくれたが、アフロ先輩も、恵美子さんも、マサハルでさえも今日に限っては空いていないらしい。


泣きっ面に蜂とはこのことよー。


私を慰めてくれる人なんていないのだ。


シクシク。


「むむむ。美咲ちゃん。俺とのデートになっちまうが、大丈夫か?」


サブレとの……デート!?


全然大丈夫どころか、大歓迎だよ!?


今回の件で男性不審になりかけていた気がするのだけど、なんか全然嫌じゃないというか普通に嬉しい!


「流石に困るか、日を改めると———」


「大丈夫!」


「俺に気を使うことはないぞ」


「行きたい!」


「そうか。なら、今日は大人数では行けない『ちょっと良い店』に行こう」


「やった!」


「ずるいー!」


いじける小野ちゃん。


「美咲ちゃんに変なことするなよ!」


余計なことを言うカズヤ。


変なこと……しても構わないんだよ♪


「お前と一緒にするな」


しても構わないんだよ!?


「さて、美咲ちゃん。肉と魚はどっちが食べたい?」


「んー、魚かな!美味しい焼肉は前に食べたし!」


「そうか。そしたら、『チョモランマ』に電話してみよう」


「『チョモランマ』ってサブレがバイトしてたという伝説の?」


「あぁ。やっさんが作る料理がうまくて、結構人気の居酒屋なんだ」


「行きたい!」


「ちょっと電話してみる」


トゥルルル


『はい。チョモランマです』


「やっさんか?」


『なんだサブレか。どうした?』


「今日、19時から2名。カウンター席行けるか?」


『あー、今日は予約でいっぱいなんだ。すまん』


「いやいや、気にしないでくれ。忙しいところすまんな」


『デートか?』


「まぁ、デートだな」


『可愛い子か?』


「可愛い子だな。嫌なことがあったらしいから美味いものを食わせてやりたい」


『お前はいつもそればっかりだな。ちょっと知り合いの店が空いてるか、聞いてやるから待っとけ』


ガチャ


可愛い子って言ってた……!


「チョモランマは空いてなかったが、やっさんが知り合いの店を紹介してくれるらしい」


可愛い……!


「やっさんって何者なの?」


……!


「チョモランマの料理長だ。異常なまでに料理がうまい」


「そうなんだ。すごい人なんだね」


「やっさんはなんかすごいオーラがあってな」


「そんな気がする」


「タカシもやっさんには頭が上がらなかった」


「タカシも頭が上がらなかったんだ」


トゥルルル


「もしもし」


『19時に四谷三丁目のこの店に行け。良いウニとノドグロが入ってるらしいから出すように言っておいた』


「高いんじゃないのか?」


『一旦俺に会計が来るようにしておいたから後で請求する』


「いつも悪いな」


『かまわん。しっかり慰めてこい』


「ありがとう。近いうちにチョモランマに行くよ」


『おう。新しい友達も連れてこいよ!』


ガチャ


「言いたいことだけ言って切ってしまった」


「やっさんなんだって?」


「四谷三丁目の店を予約してくれた」


「サブレは行ったことあるの?」


「いや、俺も無いな。まぁ、やっさんの紹介なら間違いないだろう」


「楽しみー!」


「ははは!よかった!もう元気じゃないか!」


「ふはははー♪」


うん。


もう上機嫌だ♪


すでに楽しい。


「今度私も連れてって」


「うむ!彼氏と別れたらチョモランマで慰めパーティだな」


「ちょっと別れてくる」


「冗談だ!変なことをするのはやめてくれ!」


「ふんふん」


小野ちゃんが悔しそうだ。


可愛い。


小野ちゃんもなんだかんだサブレが大好きなんだよね。


わかるよその気持ち!頑張ろうね!


◇


「ねぇ。本当にここ?」


「らしいな」


「会員制の店じゃん」


「らしいな」


「この服で入っていいの?」


「追い出されたらやっさんに文句を言ってやろうじゃないか」


サブレが店の扉を開く。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか」


「やっさんの紹介で参りました」


「2名でご予約の佐々木様ですね」


「はい」


「ご案内いたします」


よかった。


この服装でも入れてもらえた。


サブレも少し緊張しているみたい。


いつもヘラヘラしてるから、ちょっと新鮮な感じがする。


六名掛けカウンターの真ん中。空いてる二つの席に案内された。


「なんか、高そうなカウンターだね」


「多分この板だけでも家が立つだろうな」


「そんなにするの!?」


「ふっ。俺が知るわけなかろう」


「また適当なことを言ったんだね!」


「まぁ、高い素材なのは間違いないだろうな」


「もーふんふん」


「はっはっは。すまんすまん」


軽く肩を叩いてやる。


本気で痛めつけてやろうとは思っていない。


いつものじゃれあいだ。


このやりとりが私は好き。


楽しいし嬉しい気持ちになる。


「こちら、ドリンクのメニューになります」


ふむ。


「俺はとりあえずビールからだな。美咲ちゃんはカシオレか?」


「んー。メニューにないね」


「ちょっと聞いてみるか」


こんな高級店でカシオレなんか頼む人はいないんじゃあないかな!?


無理しなくていいよ!?


「すみません」


「はい」


「メニューには書いていないのですが、カシスオレンジのような甘いカクテルは置いてあったりしますか?」


「申し訳ありません。甘めのリキュールは置いてないんですよー」


「いえいえ、メニューに無いものを聞いただけですので、お気になさらず」


「代わりではありませんが、こちらの桃酒やあんず酒などは女性に人気ですし、甘いお酒なのに和食と合うのでおすすめですよ」


「ありがとうございます。もう少し考えさせていただきますね」


「かしこまりました。お決まりになりましたらお声掛けください」


……。


大人だ。


いつもうんこの話をしている人とは思えない。


「美咲ちゃん。カシオレは無いが、桃酒やあんず酒がおすすめらしいぞ」


「そしたらせっかくだから桃酒とか飲んでみようかな」


「飲み方はどうする?」


「飲み方?」


「この手の果実酒は、水割り、炭酸割り、ロック、お湯わりなんかが一般的だな」


「どれが美味しいの?」


「果実にもよるが、料理と一緒に嗜むなら水割りか炭酸割りがベターだな」


「そしたら炭酸割りにしてみようかな」


「オッケー」


店員さんを呼ぶ。


ビールと桃酒の炭酸割りを頼む。


ただそれだけのことなのに、高級店で平気な顔をしてやってのける姿は妙に大人っぽかった。


「美咲ちゃん!この店の生はマスターズドリームらしいぞ!さすがだな!」


「さすがだね!」


よくわからないけどサブレは嬉しそうだ。


美味しいのかな?


マスターズドリーム。


後で一口もらおう。


ふふん♪




※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


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