「初めての……」①
◇12月
カズヤ事件からしばらく経って、私にも二人目の彼氏ができた。
アフロ先輩には彼女がいるし、サブレはもう何を考えているのかよくわからない。
相変わらず私の伴侶第一候補はサブレだけど、彼にはまったくその気がないみたい。
カズヤ事件の噂が流れてからというもの、変に男子から心配のLINEが来る時期が続き、一時期本当に男性不審になりそうだった。
『大丈夫?話聞くよ』
頼んでもいないのに話を聞きにくる男の多いこと。
これらがすべて性欲由来のものとしか思えないのは、私が歪んでしまったからなのかな?
それとも、世の中の女性たちはこんなに気持ち悪いものと付き合いながら恋愛をしているのかな?
いずれにせよ、心配を装った変態からの連絡なんてのは不快でしかないね。
だからこそ、まったく私にスケベな視線を向けてこないサブレと一緒にいるのは心地よかった。
私の方からボディタッチをしても、「照れちまうから、あんまり触らんでくれ」とか言ってくるのはサブレくらいだ。
他の男子だったら、すぐに勘違いして変に距離が近くなってきて、無断で体に触れてくる。
サブレからはモテる男、モテる大人の余裕を感じる……。
彼女のいるアフロ先輩には触れたりしないからわからないけど、きっとアフロ先輩もそうだと思う。
絶対そんなはずがないのに、性欲を感じない。
んーーー。
私は思ったよりも面食いなのかもしれない。
顔が良い男のやることを勝手に良いように受け取ってるだけなのかも……。
わからない!
わからないことは考えない!
別に私はサブレの彼女じゃないから、彼氏を作ったって良いのだ♪
ってなわけで、二外(第二外国語)のフランス語で一緒だったリョウと付き合うことにした。
飲み会の後に呼び出されて、ちゃんと私の顔を見ながら「好きだ」って言ってくれたのだ。
リョウは「日本以外の国では大体英語が通じるけど、自国の言語に誇りを持つフランスでは英語を使える人もフランス語でしか話さないことが多いらしく、第二外国語でフランス語を持つことでコミュニケーション可能ラインを広げるんだ」などと意識の高いことを言っているマサハルタイプの男だった。
サブレほどじゃないにせよ、顔も合格ラインだし、女性経験もある程度あるのか、がっついてこないのが好印象。
付き合って最初のデートで手を繋いだ。
三回目のデート。
カラオケで抱きしめられて、キスをした。
扉の窓にコートを掛けて目隠しにするのが手慣れてる感じ。
カズヤだったらこうはいかないんじゃないかな。
付き合って一ヶ月。五回目のデートでホテル。
私だって子供じゃない。
何をするかは知っているし、覚悟もできていた。
あとは予想通りのことが起こっただけだ。
最初は、告白されたから付き合ってみただけ。
でも、愛を育てるには十分な一ヶ月だったと思う。
今までの私は、男を見るとすぐにステータスチェックを始めていた。
でも、リョウと一緒にいる時は、そんなことを考える時間が少しずつ減っている実感がある。
でも、そう簡単にはいかないのが大学生の恋愛だ。
◇
クリスマスも近づいたある日のこと。
24日と25日はバイトが忙しいから会えないリョウとは、23日にデートすることになった。
なので、当日渡すプレゼントを探しに表参道に来てみた。
ん〜。
やっぱり無難なのはブランドものの財布とかだよね。
リョウが今使ってるハイブラの財布は、高校生の頃から使っているらしく、くたびれていたからちょうど良さそうだ。
マフラーとかも良いかもしれない。
靴もいいけど、サイズがわからないから却下。
指輪は……。
サイズがわからないー!
でも、サプライズ!サプライズは大事だよ!女の子はサプライズが好きなの!これは普遍の真理だよ♪
んー難しい!
けど、彼氏のクリスマスプレゼントを選ぶのも楽しいな♪
ん?
リョウだ。
こんな人混みの中でも見つけてしまうなんて、どうやらだいぶ本気で好きになっちゃったのかな♪
「リョウ!」
後ろから腕にしがみついて驚かしてみた。
「うわっ」
「何やってんのー?」
「美咲……」
「ん?」
「誰?」
女の子の声。
誰?
女の子が睨んでる。
わお。
とんだ『サプライズ』だ。
クリスマスプレゼントを探しに来たら彼氏の浮気現場に遭遇なんて……。
「フラ語のクラスの女友達」
「女友達?」
「普通に飯とかいく感じ」
「へえ」
……。
どうやら、彼氏の浮気現場に遭遇したのは向こうの女だったみたい。
あー。
涙が出てきた。
「ねえ」
「ん?」
「友達、泣いてるよ」
「なんか嫌なことでもあったんじゃない?」
この状況でまだシラを切れると思っているバカが私の初めての相手だなんて……。
やってらんないよ。
「彼女さんですか?」
とりあえず聞いてみる。
「一応……」
「いつから付き合ってるんですか?」
「3年前の今くらいからです」
「私は先月からです」
「……」
「私も一応彼女です」
「何言ってん———」
バシィ!!!
私に割って入ろうとしたリョウを平手で叩き、持っていた何かを地面に投げつけて歩き去っていく一号。
それを追いかけるリョウ。
見送る私は……二号。
一気に冷めていくのを感じる。
あぁ。
なるほど。
私が感じていたのは愛情とはまた少し違う情だったのかもしれない。
多分、先日習った「サンクコスト」の概念に近い何かだったんだと思う。
初めて手を握った相手、初めてキスをした相手、初めて体を許した相手。
別に大切にとっておいたわけではないが、一度きりの体験だ。
それを許した相手との関係が進展しなければ「もったいない」という感情。
……たぶん、そういうことだったんだと思う。
だから、一瞬すごく悲しかったけど、一号を追いかける後ろ姿を見て心底どうでも良くなったんだ。
私はちゃんと損切りできる女だ。
株とかに向いてるのかもしれない。
次回からこのお話のタイトルは『インベスター美咲』にしよう。
悪くないんじゃない?
ね。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




