酔っ払い小話「反省会」
「サブレぇ」
「ん?」
「俺、フラれた」
「なぜだ?」
「わかんない」
「わからんことはないだろう」
「デート終わって帰って風呂入ってたんだけどさ」
「ほう」
「体拭いてからLINEをみたら、これよ」
「『ごめんなさい。やっぱり付き合えません』か、辛辣だな」
「完璧なデートだったはずなのに」
「あの焼肉屋に行ったんだろ?」
「ああ。サブレが紹介してくれた恵比寿の店だ」
「美味かったろ?」
「めっちゃ美味かった。店員が肉焼いてくれるとかあるんだな」
「そういう店もあるんだよ」
「肉にウニが乗ってるやつ初めて食ったわ」
「あぁ。俺は肉にウニのせる必要はないと思っているんだが、インスタにバカみたいに写真あがってるよな」
「ああ。もちろん俺もあげた」
「見たぞ。バカの仲間入りだな」
「あぁ。いいねは付いてなかった」
「それで、結局どんなヘマをしたんだ?」
「特に思い当たることがないんだよな」
「ちょっと一つ一つ解説してくれ」
「どうもこうもねーよ。まず、サークル終わりにみんなと別れて、二人で電車に乗った」
「ふむ」
「恵比寿で降りて、焼肉屋に行った」
「なるほど。ちゃんと辿り着いたのか?」
「若干迷いはしたが、特に課題はなかったはずだ」
「続けてくれ」
「あー、一つ気になることがあったかもしれない」
「お、なんだ」
「カッコつけて、この店には何回か来たことがあるみたいなことを言ったんだが」
「初めてだろ?」
「初めてだな」
「嘘をついたのか」
「見栄を張ったんだ」
「まぁ、童貞は見栄を張るものだから仕方ないか」
「あぁ。続けていいか?」
「うむ」
「女性をエスコートするのは男の義務だろ?」
「よくわかっているじゃないか」
「俺が肉を焼くと言ったんだよ」
「そしたら?」
「美咲ちゃんも『私も焼きたい』とかいうからさ」
「ふむ」
「『じゃあ、順番こだ』なんて言っちゃって」
「仲良しじゃないか」
「いい雰囲気だったんだよな」
「問題はなさそうだ」
「それがな、肉が来た時にトングがなかったんだよ」
「それじゃあ肉が焼けないな」
「あぁ。それで、俺はもうテンパっちゃってさ」
「ふむ」
「持っていた箸で赤身肉を焼こうとしてしまったんだ」
「おいおい、いきなり赤身からいったのか?」
「あぁ」
「普通はタンからだろう」
「いや、俺そういうのわからなくてさ」
「それは大問題だな」
「いや、問題はそこじゃなかったんだ」
「なんだ」
「この店、店員が焼いてくれる店だったんだよ」
「あぁ、そうだったな」
「多分、美咲ちゃんにさっき見栄はったのがバレたんだと思う」
「なるほど、そんでどうしたんだ?」
「あぁ。『良い焼肉屋は店員が焼いてくれるんだぜ』みたいなことを言って誤魔化した気がする」
「恥の上塗りじゃないか」
「いや、リアルタイムで冷静に白旗をあげるってのは案外難しいもんだろ」
「確かにそうだな」
「振り返れば、美咲ちゃんは俺の見栄を見抜きながらも乗ってくれていた気がするが、その瞬間の俺はごまかせてると思っていたんだ」
「まぁ、瑣末なことだな」
「美咲ちゃんは『こんなの初めてー!』とか言って喜んでた」
「良い女じゃないか」
「ちょっと興奮しちまった」
「そういうとこだぞ」
「まぁ、なんやかんやで出てくる肉は全部うまかったし、店の雰囲気も良かったし、そこから大きなトラブルは特になかったはずだ」
「なるほど。会計はどうしたんだ?」
「二人で二万ちょっとだった。『このクオリティの焼肉屋としては安いほうだ』ってサブレは言ってたけど、俺の財布には厳しかった」
「まぁ、学生にはきついよな。俺もフリーターの頃、やっさんが連れて行ってくれただけで自分ではそんなに良い肉を食いに行くわけじゃないし」
「でも、カッコつけたくて、美咲ちゃんからは七千円だけもらって、あとは俺が払った」
「頑張ったじゃないか」
「いやーでも『女に財布出させる男はだせえ』とか、『ちょっと請求されるくらいなら全部払うわwそしてそいつとはそれっきりだね』とか、女は言うもんなんだろ?」
「良い女はそんなこと言わん」
「でも、SNSでは……」
「SNSなんて声のでかいバカがバカを釣るために過激なことを言ってるだけの世界だ。真に受けるやつはインターネットをやめたほうがいいぞ」
「お前は思想がいちいち過激なんだよ」
「それが俺だ」
「まったく困ったやつだ」
「とにかく、美咲ちゃんはそんな女じゃあないだろう」
「そうだな」
「続けてくれ」
「あぁ。会計を済ませて店を出たんだ。まだ終電には余裕がある時間で、二次会も行こうと思えば行けたと思う」
「ふむ」
「俺はもう少し一緒にいたかったんだけど、あまり遅い時間にしちまって終電を逃したりしたら、マナーの悪い男になってしまうと言っていただろ?」
「付き合っている以上、男女の間で何かが起こるのはおかしいことではないが、経験の少ないもの同士ステップを踏んでいくのが無難ではあるだろうな」
「だから、名残惜しいけど、次を意識してその日は帰ることにしたんだ」
「成長したな。そこまで考えられるようになったとは恐れいったぞ」
「だろ?だから俺はステップを踏むことにしたんだ」
「ふむ。何も問題がないように見えるな」
「あとは今日の完璧なデートをより完璧なものにするために、後ろから抱きしめて『愛してるよ』って伝えた」
「おおおー!やるじゃないか!」
「だろ?」
「完璧なデートじゃないか」
「だよな!?」
「待て、一瞬引っかかったんだが」
「なんだ?」
「お前は後ろから抱きしめたのか?」
「ああ」
「どこで?」
「恵比寿駅の前の交差点」
「人がたくさんいるところじゃないか?」
「まぁ、少なくはなかったな」
「許可は得たのか?」
「いや、お前は女を抱きしめる時、いちいち許可をとるのか?」
「いや、とらんな」
「だろ?」
「手は繋いだのか?」
「いや」
「それだ」
「それ?」
「ステップを一つ飛ばしている!」
「!?」
「俺は手を握ったこともない女を抱きしめたことはないぞ!」
「!!?!??!?!?」
「貴様は痴漢野郎だ!」
「なん……だと……」
「ステップを踏まずに女性に触れる行為は痴漢だ」
「そんなつもりは……」
「お前にそのつもりはなかろうと、貴様の"カズヤ"はどうだったんだ?」
「!」
「まったく……。子供用運動靴を卒業したとて、靴下を脱げないお前の三本目の足は小学生からまったく成長していないみたいだな」
「くそ……」
「デートってのはな、一つのミスが全てをひっくり返してしまうオセロのようなゲームだ」
「なるほど」
「今日一日のデートがどれだけ素晴らしかろうと、最後の一手をミスると、最高の思い出がいとも簡単に最悪の思い出になってしまう」
「それは言い過ぎだろう」
「いや、最高であればあるほど反動もデカくなるんだ」
「まさか」
「想像してみろ。お前の今日行った全ての善行が、性欲由来のものとして邪悪な行為に入れ替わる瞬間を」
「うわあああああああああ」
「すべてはお前の"カズヤ"が悪い」
「俺は一体どうすれば良いんだ……」
「まずは上◯クリニックに相談するところからだな」
「俺の"カズヤ"は靴下を履いてねえ!!」
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




