"メガネ"で"チビ"で"テニスの下手"なゲロ女①
——ピコン
大学へ入ってから、私はやたらとモテていた。
しかしながら、残念なことに健全なモテ方ではない。
入学した頃の私は、服装にも化粧にもほとんど興味がなかった。
ただ、顔そのものは別に悪くない。
これは自惚れではなく、長年鏡を見てきた人間としての評価である。
眼鏡を外せば、そこそこ見られる顔にはなる。
問題は、高田大学の男たちの一部が、その「そこそこ」を妙に好んだことである。
高田大学には、勉強のできる男が多い。
当然だ。
入るためには勉強をしなければならないレベルの大学なのだから。
そして、大学へ入るまで真面目に勉強ばかりしてきたという事実と、それまで女性とまともに話してこなかったという事実には、何らかの相関があるらしい。
男子校出身。
進学校出身。
高校三年間を部活と予備校の往復で終えた男。
そういう人たちが、大学へ入った途端に髪を染め、慣れない服を着て、急に女性との交際を人生の必修科目のように扱い始める。
別に悪いことではない。
人間は好きな時に好きなことを始めればいい。
ただ、彼らにも彼らなりの現実感覚はある。
それこそ、恵美子さんのように華やかな服を着て、髪を巻き、入学して一か月ですでに六本木の店に詳しくなっているような女の子に、自分が簡単に相手をしてもらえるとは、彼らだって思っていない。
だから、少し下を見る。
そこで私と目が合う。
失礼な話だ。
そして、その傾向を著しく加速させる噂があった。
「小野朝霞は誰とでも簡単に寝る女だ」
……。
私は、誰とでも簡単に寝る女らしい。
誰が最初に言い出したのかは、おおよその見当がついている。
高校時代、私には彼氏がいた。
別れたあと、その人には新しい彼女ができた。
それでも時々呼び出されて、私は応じた。
そして実際に、やることはやっていた。
当時の私にも一応の理屈はあった。
彼とは一度付き合っているし、身体の相性も分かっている。私も性行為そのものが嫌いではない。新しい相手を探すより面倒がなく、向こうも同じことを考えている。
非常に合理的である。
なお、彼に新しい彼女がいるという一点を除けば、だが。
そこについては弁解の余地がない。
恨みを買っていても不思議ではないので、噂を流されたこと自体は甘んじて受け入れよう。
ただし、内容には異議がある。
別に経験人数が多いわけではない。
一人の男と何度も寝ることと、大勢の男と寝ることは、少なくとも人数を数える上では明確に異なる。
ともかく、その噂が高校時代の同級生を経由して高田大学まで届き、私が新歓でアフロ先輩にゲロを撒き散らしたという新しい噂に一時的に押し流されながらも、しぶとく生き残っていた。
その結果、
地味で、眼鏡で、そこそこ顔が見られて、しかもヤリマンらしい女。
という、ある種の男性にとって非常に都合のいい生き物が完成した。
私はそんな生き物になった覚えはない。
「小野さんって彼氏いる?」
入学してから何度、この質問をされたか分からない。
そして私に寄ってくる男の大半は、この高田大学へ入るまで勉強しかしてこなかったような大学デビューの男だった。
私自身が高校時代、似たような生態をしていたので、彼らを全面的に馬鹿にする気にはなれない。
ただし、性的な目で見られて嬉しいかどうかは別問題である。
◇
リプトンへ戻ってから、私は以前と同じように練習へ参加するようになった。
以前と同じ、と言っても、そもそも新歓で数回参加しただけなので、以前と呼べるほどの蓄積はない。
相変わらずテニスは下手だった。
それでも空振りは少し減ったし、両手で打つバックハンドなら、たまに自分でも驚くくらい綺麗な球が飛ぶ。
そうなると、いつまでも先輩のラケットを借りているのも申し訳ない。
初心者組でラケットを買いに行くことになった。
私、カズヤ、田村さん、美咲ちゃん。
そこに経験者としてサブレが同行する。
「俺も買うがな。今持ってるものは過去の遺物だ」
「使えないの?」
「使える。『弘法は筆を選ばず』と言うが、残念ながらブランクによって今の俺は最新兵器の導入を検討せざるを言えない実力なのだ」
「あんなにうまいのに?」
「アフロ先輩が引退する前に勝てるようになるのが目標だ」
「それは兵器が必要だね」
つまり、初心者四人に経験者一人というより、買い物客五人のうち一人だけ商品知識がある、くらいの集団である。
休日に五人で待ち合わせて、大きなスポーツ用品店へ向かった。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




