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だって"後悔"したくない②

「美咲ちゃん、もうちょい前!」


「はい!」


アフロ先輩から球が飛んでくる。


私は一歩前へ出て、ラケットを振った。


ぱこん。


思ったより綺麗な音がした。


ボールがネットを越える。


「うまい!」


アフロ先輩が叫んだ。


「今のめっちゃいい!」


「本当ですか?」


「本当本当!ジョコビッチ超えた!もう一回!」


「はい!(ジョコビッチ?)」


次の球。


今度はフレームに当たって、変な方向へ飛んでいった。


「惜しい!」


「今のは全然惜しくないですよ!」


「当たってるから惜しい!」


アフロ先輩は「惜しい」の基準が甘いなぁ。


でも、楽しい。


アフロ先輩はテニスがものすごく上手い。


インターハイにも出たことがあるらしい。


そんな人なら、私みたいな初心者を相手にするのは退屈だと思うのだが、本人は全然そんな様子を見せない。


むしろ私が一本まともに返すたびに、私より喜ぶ。


「今の感覚!もう一回!ナダルのように!」


「はい!(ナダルってなんだろ?)」


また球が飛んでくる。


やっぱり、アフロ先輩は素敵だと思う。


顔も格好いい。


背も高い。


テニスも上手い。


頭もいい。


優しい。


将来だって、たぶんちゃんとしている。


伴侶候補のステータスチェックボックスが次々と黒く塗りつぶされていく。


気になるところと言えば、頭がアフロなことくらいか。


そこは些細な問題だ。


むしろ、アフロヘアによる抜け感が、イケメンであることの威圧感を和らげている。


それに、気に入らなければ髪は切れる。


うん。


アフロ先輩は素敵だ!


あ、小野ちゃんにはサブレさんが教えてるんだ。


一年生なのにすでに指導側に回ってる。


すごいなぁ。


あ、空振りした。


小野ちゃんはラケットとボールが当たらないタイプの初心者だ。


私もテニスが下手くそだけど、小野ちゃんはもっと下手くそ。


でも、私たちは下手くそだからこそ、イケメンアフロかイケメン犬の個人指導を受けられる。


ふふ。


へたくそも悪いことばかりじゃ無いね♪


サブレさんが何かを言ってる。


小野ちゃんが言い返してる。


仲良しじゃん。


お、今度は当たった。


サブレさんが嬉しそうに笑った。


小野ちゃんも少し笑っている。


……。


似てるなぁ。


サブレさんとアフロ先輩は、結構似ている。


二人ともお酒を飲んで馬鹿なことをする。


アフロ先輩はアフロだし、サブレさんは変な喋り方をする。


でも、周りをよく見ている。


誰かが失敗しても笑う。


笑うけれど、失敗した人を笑い者にして終わるわけではない。


その後に自分がバカなことをして、もっと大きな声で笑う。


そうすると、釣られてみんなも笑っている。


テニスでもそうだ。


できなかったことを責めるより、できたことを見つけて喜ぶ。


しかも二人とも、普通に頭がいい。


アフロ先輩は言うまでもない。


サブレさんだって、大学に行っていなかっただけで、話していると頭の回転が速い。


それに料理もできるらしいし、テニスも上手い。


全てのステータスにバツがついても、うっかり書類選考を通してしまいそうになるほどの顔を持っている。


突然犬になったり、ちょっと馬鹿なことを言っているところも可愛い。


うん。


サブレさんも素敵だ!


「美咲」


声をかけられた。


振り返る。


マサハル君だ。


「次、空いてる?」


「あ、うん」


マサハル君は優しい。


二十歳。


政治経済学部。


落ち着いている。


変な髪型でもない。


ピアスもしていない。


将来のこともちゃんと考えている。


英語の勉強や留学、就職のこともよく話している。


私の婚活チェックシートのほとんどの項目にマークがついている。


「一年のうちに英語はやっといた方がいい。留学もできれば行きたいんだよね」


「うん。そうだね」


立派だと思う。


真面目だと思う。


……。


ただ。


いつも同じ話をしているな。


「就活も結局、早めに動いた方がいいらしいしさ」


「うん」


マサハル君は大人だ。


ちゃんとしている。


「ガハハハ!タカマサ!お前の筋肉は飾りか?」


「うるせー!お前のサーブがおかしいんだよ!」


「どんどんいくぞ!くらえ!」


「くっそー!去年よりサーブが早くなってるじゃねーか!」


「俺は進化し続ける男だぞタカマサ!このアフロも去年より5cmはデカくなっている」


「マジかよ!」


少し離れたところから、アフロ先輩の笑い声が聞こえた。


「小野ちゃん。うまいチャーハンを作るためには、鍋をチンチンにする必要があるんだ」


「チンチンかぁ」


反対側のコートでは、サブレさんが小野ちゃんに何か言っている。


小野ちゃんが呆れた顔をしていた。


楽しそうだった。


私はもう一度、目の前のマサハル君を見る。


悪いところはない。


本当にない。


でも。


女子校出身で、男の人のことなんてほとんど知らない私でも。


さすがに、もうわかる。


私はもう、マサハル君に興味がないみたいだ。


……。


『高田大学 政治経済学部 二浪のマサハル 評価:A』


顔   :◾️

身長  :◾️

学歴  :◾️

将来性 :◾️

金銭感覚:◾️

性格  :◾️

誠実さ :◾️

結婚願望:◻️

子供願望:◻️


四月の調査時点でチェックボックスのほとんどが黒塗りで埋まったマサハル君のエントリーシートは、頭の片隅に追いやられてしまった。








※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


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