だって"後悔"したくない①
私は大好きな人と結婚して、子供を産んで、おじいちゃんおばあちゃんになっても仲良く暮らす。
そんな平凡だけど、簡単ではない夢を持っている。
だからこそ、私は大学在学中に生涯の伴侶を見つけるつもりである。
お姉ちゃんの話を聞く限り、社会人になってから結婚相手を探すのはなかなか大変らしい。
顔、性格、学歴、仕事、収入、金銭感覚。
結婚願望があるのか。子供が欲しいのか。将来どこに住みたいのか。
条件だけ並べて候補になる男の人を探すだけでも一苦労。
そこから実際に好きになって、相手にも好きになってもらって、付き合ってみて上手くいくかまで考えれば、私の夢は思っているよりずっと難しいらしい。
その点、大学はいい。
同年代の男の人がたくさんいる。
四年間もある。
付き合う前にどんな人なのかを見る時間も、付き合ってからお互いのことを知る時間もある。
そして現在。
私には、すでに三人も候補がいる。
「…………」
多くない?
お姉ちゃんの話では、候補になる男の人を一人見つけるだけでも大変だったはずである。
それなのに、リプトンという一つのサークルに三人もいる。
もしかすると。
中高六年間を女子校で過ごし、一度も恋人ができたことのない私が、男の人というだけで三割増しくらいに見ている可能性はある。
一人目は、マサハル君。
通称『二浪のマサハル』は、二浪して高田大学に入った二十歳の一年生だ。
真面目で、落ち着いていて、将来のこともちゃんと考えている。
二人目は、アフロ先輩。
アフロである。
ただし、アフロなのに格好いい。
背が高くて、テニスが上手くて、頭も良くて、面白くて、優しい。
三人目は、サブレさん。
二十二歳の一年生。
二十歳までフリーターをやっていたけれど、彼女に振られたのをきっかけに受験勉強をして高田に入ったらしい。
すごい経歴だ。
そんなことより特筆すべきは顔である。
アフロ先輩とは違うタイプのイケメン。
最初は怖くて近寄りにくい感じだった。
でも、新歓の飲み会で犬になっている姿を見てからは、ふわふわの大型犬に見える。
今は可愛いの方が勝っている気がする。
三人とも、それぞれ違う意味で素敵だと思う。
だからこそ。
まずは、ちゃんと見極めなければ。
そして、この人って決めたら全力を出すの。
だって、後悔したくないもの。
◇
小野ちゃんが、リプトンに戻ってきた。
二週間ほど練習に来ていなかったので、少し心配していた。
あれだけ盛大に吐いたのだ。
しかも、よりによって幹事長のアフロの上に。
私だったらしばらく顔を合わせられないと思う。
「この前は、本当にすみませんでした」
練習前、小野ちゃんはアフロ先輩に頭を下げていた。
「ん?」
アフロ先輩は一瞬、本当に何のことかわからない顔をした。
「ああ、ゲロ?」
「服、大丈夫でしたか」
「大丈夫大丈夫。ドンキで買ったから」
「それは大丈夫じゃないです」
思わず笑ってしまった。
小野ちゃんも笑っている。
「サブレに貸したし、むしろ役に立ったよ」
「なんでサブレに貸したんですか?」
「こいつも吐いたから」
少し離れたところにいたカズヤがサブレさんの粗相を語り出した。
「こいつなんか翌朝、植え込みの中、ゲロまみれでネズミの餌になりかけてたんだぜ!」
それに乗っかるサブレさん。
「あぁ、家に帰ってお母さんにめっちゃ怒られたぜ。『二十二歳にもなってなにやってるの!?』って」
「……その顔でお母さんに怒られてるの?」
「いくら俺が男前とはいえ、みんなと同じように親から生まれてきてるからな」
「なにそれ」
またみんなが笑った。
そのあと、サブレさんは実家に帰った時の話をしていた。
酔っ払って帰宅して、お母さんに怒られたらしい。
「二十二歳にもなってなにやってるの!」
なぜか声真似までしている。
「それで?」
小野ちゃんが聞いた。
「怒られた」
「それは今聞いた」
「まあ、当然だな。二十二歳にもなって外で酔い潰れて帰ってきた息子がいたら、母親としては怒らざるを得まい」
「二十二歳も怒られるんだ」
「失礼だな。俺は昔からよく怒られているぞ」
「もっと駄目じゃん」
サブレさんが笑う。
なんというか。
この人は見た目ほど不良ではないのだと思う。
お母さんに怒られたことを恥ずかしがるでもなく、怒られて当然だったと言える。
それに、小野ちゃんが戻ってきたことを特別扱いもしない。
何事もなかったみたいに話して、笑っている。
優しい人なのかもしれない。
いや。
たぶん、普通に優しい人だ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




