酒を”呑む”と言う奴が嫌いだ③
練習終わりの飲み会は、大通りにある「お好み焼き屋」や路地裏に隠れた「安い焼肉屋」、駅前の商店街にある「BAR」など、日によってバラバラだった。
なので、店に入るまで誰も異変に気づかなかった。
大通りに面した居酒屋の2階へ通される。
襖を開けて大部屋に入るとそこには……。
……。
床一面に敷き詰められたブルーシート。
嬉しそうにビール瓶に割り箸を突っ込み、炭酸を抜いている小野さん。
水鉄砲にウイスキーを詰めている恵美子さん。
テキーラを金魚型の醤油差しに注入している美咲さん。
他にも、ついこの間まで「大学生活には慣れた?」などと優しく話しかけてくれていた女性の先輩たちが、ニコニコと笑いながら何やら奇妙な儀式をしている。
……。
何かがおかしい。
やばい!
そう気づいた時にはもう遅かった。
逃げ———
「お前らぁ!入会おめでとう!」
巨大なアフロを揺らした上裸の幹事長が、無駄に美しい筋肉を見せつけるように瓶ビールを飲み始めた。
一本。
二本。
三本。
まだ飲む。
五本。
まだ飲む。
最終的に、十本。
<うおおおおおおお!
<アフロ先輩かっこいいっす!!!
<イカれてるーーー!
新入生から上がったのが歓声だったのか悲鳴だったのかは覚えていない。
「ナイスナイス!」
「フェデラー超えちゃったかもよ?」
「いいねー!センスあるある!」
とか言いながら後輩を虜にしていたアフロ先輩が、野獣のようにビールを飲み干すイベントは、この異常な会の始まりに過ぎなかった。
初心者に対して優しく球出しをしていた茶坊主の男前は、やたらとデカいジョッキに溢れんばかりのビールを注ぎ、
「これが『チョモランマ』だ!」
などと叫んでいる。
テニスはあまり上手くないが、一人で手持ち無沙汰になっていた子たちによく声をかけていたカズヤさんは、テキーラの入った金魚を咥えながら
「YO!俺は童貞!居ても立ってもいられねえ!走り出した校庭!差をつけろ!コーナーで!目指すは頂点!卒業童貞!」
などと、韻が踏めているのかどうかもわからないラップを披露しており、
少し近寄りがたかった法学部のクール系美女、恵美子さんがそんな童貞の口に水鉄砲でウイスキーをぶち込んでいる。
……。
ヤベェ。
イカれてやがる。
どうやら新歓期の先輩たちは、全員で「しっぽり」を演じていたらしい。
ただ、安心して欲しい。
入会した瞬間に全員が全員、狂戦士へ転職するわけではないようだ。
小野さんや美咲さんのように、本当に静かに酒を飲みたい人間は、平和なテーブルでカシスオレンジやソフトドリンクなんかを飲みながら、
「おバカだねえ」
「アホだねえ」
「楽しそうだねえ」
などと、笑っている。
割と誰でもウェルカムなこのサークルには多種多様な変人がいる。
小野さん曰く、
「そりゃあ、飲み会で騒ぎたい奴もいれば、しっぽりしたい奴もいるのさ」
とのこと。
美咲さんは、
「私も去年の新歓でびっくりしたけど、平和なテーブルには野獣が近寄れない結界が貼ってあるから安心してね♪」
などと言っている。
よく見ると、酔っ払って暴れている先輩たちは、しっぽりの方にコールを振ったり、ゲームを強要するような真似はしていない。
なんなら、調子に乗った新入生がしっぽりテーブルにちょっかい出そうとするたびに、サブレさんが
「こら!お前はこっちで俺とチョモランマするのだ!」
などと、引き戻している。
なるほど。結界ってそういうことか。
こいつら……。
自分たちで勝手に飲んで酔っ払っているだけじゃないか。
俄然楽しくなってきた!
可憐な女性たちとの甘いひと時も捨てがたいが……。
僕はそれよりも。
『狂った獣たちの宴』
に惹きつけられてしまったようだ。
くそ。
<ひろー!お前はやっぱりこっち側だったか!
<さあ!一緒にチョモランマをしよう!
<オマエモ童貞ノ匂イガスルナ!乾杯ダ!
気がつけば僕は、結界の向こう側。
獣達のジャングルに足を踏み入れていた。
<ラララライ♪ラララライ♪
<ラララライ♪タテ♪
<ラララライ♪ヨコ♪
<三次元的な♪ボルト的な♪
<前方後円墳♪
……。
僕の記憶はここまでだ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




