"ちゃんとした男"が好きです⑦
今日の飲み会はすごかったなぁ。
瓶ビールを一瞬で吸い込む黒い毛玉。
金髪の男を噛むふわふわの大型犬。
進路の話をするマサハル。
……。
帰りの電車で、私は今日の飲み会のことを思い返していた。
結局、私たちの卓に絡みに来たのはカズヤ君だけではなかった。
何人か、しっぽりテーブルに絡みにくる人もいた。
ただ、全員が一年生だった。
初めて参加する騒がしい飲み会が楽しくて、ちょっと酔っ払って、いつの間にか自分たちの群れの中に私たちも巻き込もうとしてきた。
そういう一年生がこちらへ来るたび、
「お前はこっちだー!」
とアフロ先輩に回収されたり、
「わんわん!ガルルルル!」
とサブレさんに連れていかれたり、
「はいはい、そっち行くぞー」
と筋肉のすごいタカマサ先輩に運ばれていった。
なんだか牧羊犬みたいだった。
しっぽり卓の先輩たちは、それを見ながら笑っていた。
「こっちで酒飲みながら、あいつらがバカやってるの見るのも楽しいんだよね」
最初に聞いた時は、よく分からなかった。
でも。
終わる頃には、少し分かった。
最後の方は私も、犬の真似をするサブレさんや、アフロの中から色々と取り出すアフロ先輩を見ながら爆笑していた。
……。
私は大学で彼氏が欲しい。
でも、男の人はちょっと怖い。
今日だって、酔っ払った男の人がこっちへ来るたびに少し身構えた。
なのに、向こうで馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに飲んで、馬鹿みたいなことを言っている男の人たちを見ていると、
なんというか。
ちょっと可愛い。
そう思う瞬間があった。
小野ちゃんがアフロ先輩にゲロをぶっかけた時は、本当にびっくりした。
あんな小さい身体のどこに入っていたんだろう。
もっとびっくりしたのは、頭からゲロを浴びたアフロ先輩が一番大きな声で笑っていたことだ。
怒らないんだ。
というか、笑えるんだ。
大学生ってすごい。
アフロ先輩は、頭がアフロなのに顔が格好いいと思っていた。
今日、新しい発見があった。
頭にゲロがかかっていても格好よかった。
そんな人いるんだな。
サブレさんも変だった。
途中からずっと犬になりきっていたし、人間に戻っても小学生みたいな下ネタで笑っていた。
二十二歳なのに。
マサハル君が「いい歳こいて」と言った気持ちはよく分かる。
でも。
カズヤ君が私に絡んできた時もそうだった。
誰かが変なところへ行くと、いつの間にか近くにいる。
騒いでいるだけに見えるのに、なんとなく周りを見ている。
それでいて本人が一番楽しそうに馬鹿をやっている。
なんというか。
間がいい人だな、と思った。
そして。
やっぱり顔が格好いい。
あれは反則である。
……。
私は窓に映った自分の顔を見た。
ほんのり赤くなってる。
今日の飲み会を思い返していたはずなのに、さっきからアフロ先輩とサブレさんのことばかり考えている。
なんだろう。
こういうの。
男の人とまともに関わった経験がないから、よく分からない。
別に好きとか、そういう話ではないと思う。
だって、マサハル君の方がちゃんとしている。
履修のことも詳しかったし、留学や将来のことも考えていた。
顔だって悪くない。
政治経済学部だし、落ち着いているし、女子にガツガツしていない。
私が探しているのは、ああいう人のはずだ。
私はちゃんとした男が好き。
……。
でも。
一応、サブレさんにもチェックマークをつけておこうかな。
一応ね。
……。
騒がしい飲み会も、意外と楽しかったな。
私は隣に座っている莉奈を見た。
「ね。莉奈」
「なに?」
「リプトン、やっぱり楽しいね!」
「……うん」
莉奈は少しだけ間を置いて笑った。
「楽しかったよ」
この時の私は、その言葉の意味を特に考えなかった。
……。
莉奈がリプトンに来たのは、これが最後だった。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




