"ちゃんとした男"が好きです⑥
それからしばらくは、普通にしっぽり飲んだ。
「美咲ちゃん、履修登録もう終わった?」
マサハル君に聞かれた。
「一応。でも、これで合ってるのか全然自信ない」
「あれ最初分かりづらいよね。必修落とさなきゃ一年はそんな気にしなくて大丈夫だよ」
「マサハル君、詳しいね」
「色々調べたからね」
そう言って笑う。
さっきは少し子供っぽく見えたけれど、こうして話していると、やっぱり私よりは大人なんだなと思う。
「政経って、将来何する人が多いの?」
「金融とか商社とか公務員とかかな。俺はまだ決めてないけど、ゼミ入るまでにはある程度考えたいかな」
「へえ」
「一年のうちに英語やっといた方がいいらしいし。留学もできれば行きたいんだよね」
「うん。そうだね」
……。
ただ、この話は前にも聞いたな。
四月に初めて会った時にも聞いた。
その次の飲み会でも、似たような話をした気がする。
留学。
英語。
ゼミ。
就活。
マサハル君は二浪している分、私たちより少し先のことまで考えている。
それは素直にすごいと思う。
思うのだけれど。
この話をするの、何回目だろう。
「まあ、大学四年間って意外と短いらしいからね」
「そうだね」
私は笑って頷いた。
マサハル君は大人だ。
たぶん。
「みーさきちゃん♪飲んでなくない♪ウォウウォウ♪」
「ひぃっ」
びっくりした。
金髪のカズヤ君が向こうのテーブルからこっちに向かってきている。
顔が赤い。
ものすごく赤い。
「え?」
私の名前を呼んで歌ってる。
私もあっち連れていかれちゃうの?
「美咲ちゃん飲んでなくない♪ウォウウォウ♪」
「あんたはあっち〜」
隣に座っていた恵美子さんが素早く私の前に出てきて、犬でも追い払うように手を振った。
「俺、美咲ちゃんと飲みたいんすよ!」
「はいはい。あっちで飲んできなさい」
「美咲ちゃーん!」
「無視しな。こいつ酔っ払ってるだけだから」
そう言われても困る。
ん?
カズヤ君は金髪だし、酔っ払っているし、さっき小野ちゃんにお酒を飲ませていた。
今も私をあっちのヤバいテーブルにつれて行こうとしている。
条件だけ並べれば十分怖いはずなのに。
なぜだろう。
こいつはあまり怖くない。
「美咲ちゃん飲もうぜー!」
「え、あの……」
ここで断ったら、ノリが悪いと思われるだろうか。
せっかくサークルに入ったのに、付き合いの悪い子だと思われるのも嫌だ。
でも、あっちには行きたくない。
マサハル君、助けて!
視線を送ってみたが、マサハル君は、
「はは……酔ってんなあ」
と苦笑いしていた。
……。
「カズヤぁぁぁ!!」
その時、店の奥から大声が飛んできた。
「お前はこっちだぁぁ!!」
アフロ先輩だった。
「いけ!サブレ!あのカスを捕まえてこい!」
アフロ先輩に指示される犬の真似をしながら、サブレさんもこっちにやってくる。
「わんわん!わんわん!」
「うわ、サブレ!やめろ!噛むな!」
「わんわん!わんわん!」
「ちょっよだれが……!くさっ!酒臭!!」
大型犬みたいにふわふわした髪のサブレさんは、本物の犬になっていた。
「女の子に絡んでる暇があるのか!これだから童貞野郎は!」
「いや、俺いま美咲ちゃんと——」
「いいから来い!」
「ちょ、アフロさん!」
「チョモランマだ!」
「なんでだよ!」
「ガハハハハハ!」
「うおおおお!戻るぞカズヤー!」
「俺はもう飲んだって!!」
犬から人間に戻ったサブレさんとアフロ先輩に両側から捕まえられ、カズヤ君はそのまま騒がしい卓へ連行されていった。
「助かった……」
思わず口から漏れた。
「ふふ。だから言ったでしょ」
恵美子さんが笑う。
「あいつら、バカだけど悪い奴じゃないから」
向こうを見る。
連行されたカズヤ君が何やら文句を言い、アフロ先輩が笑い、サブレさんが自分までジョッキを掲げている。
「チョモランマだァ!!」
また意味の分からない言葉が聞こえた。
……。
さっきまで、マサハル君と進路の話をしていた。
こちらでは履修登録とか、ゼミとか、留学とか、将来の話をしている。
向こうでは二十二歳のチャラ男と二十歳の毛玉が、
「わんわん!わんわん!」
「おお、サブレ!お酒は美味しいかい?」
「わおーん!」
「なに!?チョモランマが良いって?」
「わんわん!」
「よーし、チョモランマだ!」
「アオーン!」
と犬になっている。
黒い毛玉と大型犬。
飲み会で進路の話をする男。
どう考えても、マサハル君の方が大人だ。
……。
うん。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




