"ちゃんとした男"が好きです③
顔が綺麗なアフロの先輩に連れてこられた『リプトンテニスクラブ』は、思っていたよりもちゃんとしていた。
週に五回もテニスの練習をしているらしい……部活じゃん。
かなりガチなのかなって思ったけど、来たいタイミングで来たい人が来ればいい感じらしい。
初心者向けの練習メニューも上級者向けの練習メニューもあって、毎回コートを三面も取っているから、新歓期じゃなくても初心者が練習の邪魔になることはないみたい。
「アフロ先輩やばいね」
「うん。すごい顔がかっこいいのに変な頭」
「そこもやばいけど、そこじゃない」
「?」
「球出しがうますぎる」
「そうなの?」
「『プレイジー』とか『クリムゾン』の先輩と全然違くない?」
「言われてみれば確かに」
経験者の莉奈が驚いていたけれど、アフロ先輩は球出しがすごく上手いらしい。
実際、初心者の私でも打ち返しやすい球を出してくれたと思ったら、経験者の莉奈が物足りなくならないような球出しを同時にこなしていた。
こんなことできるんだ……。
他のサークルのかっこいい先輩たちからは、こっちが勝手に威圧感を感じて、『顔がかっこいい=怖い』みたいな印象を強制的に植え付けられていた。
アフロ先輩はこんなにガタイが良くてかっこいいのに、全然怖くなかった。
多分、おでこの上にある黒い毛玉が怖い要素を吸い取っちゃっているんだと思う。
アフロってすごい。
◇
リプトンは飲み会もかなりしっかりしていた。
未成年には赤い名札、成人には青い名札。
「美咲ちゃんは、浪人してるんだっけ?」
「はい。明日が誕生日なので、明日から二十歳です」
「おお!そしたら明日から青だね。今日は赤名札最後の日だね♪」
「はい!」
「莉奈ちゃんも浪人?」
「はい。でも私はまだしばらく誕生日が来ません」
「そしたら、めっちゃ赤い名札あるからこれあげる!」
「ありがとうございます!」
この人はアフロ先輩の同期の恵美子さん。
すごく……綺麗な人だな。
お姉ちゃんにちょっと似てる。
自信のある女性特有のオーラが出ている気がする。
てか、ガムテープじゃなくて名札がちゃんとあって、色で未成年を分けているのってすごいな。
それから、
『飲み会の心得 by リプトン』
『未成年は飲酒禁止〜大人には大人の楽しみがあり、子供には子供の楽しみがあるものだ〜』
『カメラ禁止〜思い出は頭の中に記憶すべし。機械に頼り、濃度を下げてはいけない〜』
『嫌がる者に飲ませるべからず〜酒は楽しむものだ。飲みたくない人間に飲ませる場合は、相応の覚悟をする必要があるだろう〜』
など、飲み会に関する何かが10項目以上書いてある手引書が渡された。
『テニスも飲みも本気』
そんなリプトンのスローガンが今になって突き刺さる。
「美咲……」
「ん?」
「『テニスも飲みも本気』の『飲みも本気』ってこういうことなんだね」
「すごいね。これは本気だね」
「うん」
「怖い意味じゃなくてよかったね」
「うん」
実際に飲み会が始まっても、穏やかな雰囲気が続く。
新入生には普通にソフトドリンクが出てくるし、誰かに無理やり飲ませようとする先輩もいない。
なんなら赤い札をつけているのにお酒にチャレンジしようとしている新入生がいても、
「ガハハ!子供にはまだ酒は早い!成人したら俺と飲もうじゃないか!」
などと言って止めている。
『リプトン』には、いろいろな先輩がいるみたい。
高校時代、インターハイに出たこともある上に顔もかっこいいし背の高いアフロ先輩。
筋肉がすごいのに理系の研究職を目指しているタカマサ先輩。
法曹も視野かな〜とか言いながら勉強をしつつ、練習にも毎回来るという美女、恵美子さん。
他にも、大手出版社のインターンで賞を取った先輩や、面白い話で場を盛り上げてくれる先輩。
全体的に派手な感じではないけれど、みんな楽しそうで、仲が良いサークルって感じだ。
ふふふ。
楽しい飲み会。
今日はなにも怖くない。
嬉しい。
「ここにしよっか」
「うん!私もそうする!」
ようやく意見が一致した。
◇
四月の半ばには、莉奈と二人で何度も練習会や飲み会へ顔を出すようになっていた。
まだ入会前だけど、同じように練習に参加している新入生もたくさんいて、友達が増えた。
「今の時代は一年の時から、就活に挑むつもりで学生生活を過ごさなくてはいけない」
「そうなの?」
「大手商社や出版を狙うのであれば、遅くても二年時にはインターンに参加しておくべきだろうね」
「へー。マサハル君は色々考えてるんだね」
「まぁね。英語はしっかりやっておくべきだ。俺は短期留学を通して活きた英語を学ぶつもりだけど、美咲は?」
「まだわかんない。今は大学に馴染むのでいっぱいいっぱいだよー」
その中で、今のところ一番いいなと思っている男子はマサハル君だ。
二浪なので二十歳。
別に他にも二浪の人はいるのに、『二浪のマサハル』って呼ばれている。
本人は不服そうだけど、語呂がいいから私は嫌いじゃない。
他の男子より落ち着いていて、顔も悪くない。
政治経済学部で、話していても頭がいい。
それに、女子にガツガツしていない。
……うん。
大人だ。
私はマサハルくんにチェックマークをつけた。
アフロ先輩。マサハルくん。
すでに伴侶の候補が二人も現れた。
まだ入学したばかりだというのに。
お姉ちゃんは伴侶候補を見つけること自体困難と言っていたのに、すでに二人だ。
ふふ。
大学生活はイージーかもしれないな♪
ここまで見てきたサークルで100人以上の男子を篩い落としてきたことを忘れて、私は浮かれていた。
……。
◇
五月。
リプトンへの入会申請をする日の練習会で、私はそれまで見たことのない新入生を何人か見かけた。
金髪に染めた、小柄で痩せた男の子。
黒髪に眼鏡をかけた、小柄で大人しそうな女の子。
そして……。
意味がわからないくらい顔がいい男。
アフロ先輩が爽やかなイケメンレベル100って感じだとしたら、この男はチャラいイケメンレベル100だ。
ちょっと長めの黒髪にはウェーブがかかっていて、左耳にはリングのピアスが付いている。
チャラい。
男の人のピアスって初めて見たかも。
アフロ先輩と並べば小さく見えるけど、普通に背も高いし、なんか細マッチョって感じでガタイも悪くない。
……。
かっこいいけど、ちょっと怖いな。
でも、あの顔は遠くから見ている分にはすごくいい。
目にいい。
……。
「やるなぁサブレ!」
「はっはー!アフロ先輩こそ流石です!」
「くらえ!エッグボール!」
「マジっすか!うわお!」
「これを返すか!?やるなあサブレ!」
「ははは!まだまだ若い者には負けませんよー!」
うわ!
爽やかなアフロのイケメンと、チャラついたイケメンが仲良くラリーしてる。
え!?チャラ男もテニスがすごいうまい!
アフロ先輩とまともに撃ち合ってる。
てか、すごく楽しそうだ。
これは……。
目に毒!目に毒だ!
女子校育ちの私には刺激的すぎる……!
でも、目が離せない。
「美咲ちゃん」
「はい」
「ボール、見送ってるよ」
「あ」
「わかる。わかるよその気持ちは」
「はい……」
私以外もみんな彼らのラリーに夢中だった。
◇
練習終わりの銭湯は『リプトン』活動における楽しみの一つだ。
たくさん運動して汗をかいた後のお風呂が最高であることを疑う人間などいないだろう。
体を洗って湯船に入った時にこの快楽に勝るものなど、世にありはしないのだー♪
「ふい〜〜」
ふい〜?
隣を見ると、今日の練習会で初めて見かけた、黒髪に眼鏡の小柄な女の子だった。
確か、小野ちゃん。
私と同じ一年生らしい。
「気持ちいいねえ」
「う、うん」
可愛い声で喋るのに、湯船に入った時だけおじさんみたいだった。
「ふい〜」
「ふい〜」
みんなが小野ちゃんの真似をしている。
「ふい〜」
私もしてみた。
楽しい。
ん?
小野ちゃんがこっちを見ている。
目が合うと、小野ちゃんはスッと逸らした。
……?
しばらくすると、またこっちを見ている。
今度は目が合わなかった。
というより。
視線がもう少し下にある。
……。
「……おっきいね」
「え?」
「なんでもない」
小野ちゃんは私の胸に興味があったみたいだ。
……。
へんなの。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




