"ちゃんとした男"が好きです②
そうと決まれば、まず大事なのは新歓だ。
ここでイケてるサークルに入り、素敵な先輩や同級生と知り合い、テニスだか旅行だかバーベキューだかをしながら親睦を深め、やがて自然な形で恋愛関係へ発展する。
ふふっ。
完璧ね♪
高田大学には千を超えるサークルがあり、どれも活発に活動しているらしい。
特に四月は、キャンパスの至るところに立て看板が並び、色とりどりのチラシを抱えた上級生が新入生を待ち構えている。
こうして大学全体で新入生を歓迎してくれるのは、高田大学のいいところだと思う。
四月の頭から、ゴールデンウィーク明けくらいまでを新歓期として、毎日どこかしらのサークルがイベントを開いている。
広告研究サークルが新歓特集のような雑誌を無料配布しているので、チラシがなくても情報集めに困ることはない。
だから私も、同じ高校のテニス部で活躍していた友達、杉本莉奈と一緒に、何軒か新歓へ行ってみたものの……。
なかなか、これというところがない。
最初に行ったインカレテニスサークルの『サイクロンテニスクラブ』が主催する新歓バーベキューには、かなり大勢の人が来ていた。
定員が五十人だったけど、私が応募した後すぐに枠が埋まったみたい。
たくさんのテーブルとコンロに、お肉、お酒、かき氷の機械なんかも置いてあって、
「大学生のバーベキューってすごいねー」
なんて、莉奈と話していたことを覚えている。
背が高くて、茶髪に金メッシュの入った幹事長が、
「『サイクロン』はテニサーだけど、テニスよりもこういったイベントに力を入れているんだ」
と説明していた。
男子の先輩は格好いい人が多いし、女子の先輩もみんな綺麗だった。
「莉奈!このサークルは当たりかもしれないね!」
「そうだね」
「ここにしようか!」
「もうちょっと回って考えても良いんじゃないかな」
なんて話していると、
「美咲ちゃん彼氏いる?」
ちょっと顔が綺麗な男の先輩が割り込んできた。
「い、いません」
「マジ?じゃあ俺立候補しよっかな」
「ええ!?」
「どう?」
近い。
顔が近い。
「どどどど、どうと言われましても」
「連絡先交換しようよ」
「えと」
「はい!これ俺のLINEね。QR読み込んで」
「あ、はい」
その後も別の先輩からやたらとLINEを聞かれたり、夜の飲み会に誘われたりした。
格好いい。
確かに格好いいのだが。
……怖い。
私は女子校育ちである。
男子という生き物を、電車の中以外ではほとんど観測しないままこの歳まで育ってきたのだ。
いきなりこれは難易度が高い。
「莉奈。ここはやめておこうか」
「そうだね」
連絡先を交換した先輩から、たくさんLINEが来ていたけれど、返信はしなかった。
……。
◇
別の日に行った、高田大学オンリーの『クリムゾンテニスクラブ』は、反対にとても真面目だった。
「莉奈ちゃんは経験者で、美咲ちゃんは初心者だね」
「はい」
「はい」
「そしたら、美咲ちゃんはこっちで手出しの球を打とうか」
「はーい♪」
『クリムゾン』はテニスをちゃんとやるサークルだった。
先輩たちは優しいし、説明も丁寧。
活動実績もしっかりしている。
安心感は抜群だ。
「美咲、ここ良さそうじゃない?」
「そうだね」
「何か気になるところが?」
「んー別に特には」
「?」
ただ。
男子が、全体的に芋っぽい。
運動着から私服に着替えると、示し合わせたかのように、みんなサイズが大きめのチェックシャツを着ている。
テニスはちゃんとやっているけれど、スポーツマンっぽい人があまりいない。
なんというか、予備校から抜け出してきた浪人生が気分転換に運動している感じだ。
……。
私は自分が思っていたより面食いなのかもしれない。
◇
三つ目の『プレイジー』は、テニスもちゃんとやるし、先輩もかっこよくて、ちょうどよさそうに見えた。
しかし、飲み会が始まると先輩の様子がおかしかった。
「美咲ちゃんお酒飲まないの?」
「まだ未成年なので……」
別に嘘はついていない。
明後日の誕生日で二十歳だけど、未成年なのは本当だ。
「みんな未成年でも飲んでるって」
「でも、お母さんに怒られちゃうので」
「大丈夫!一杯くらいならわかんないって」
先輩が肩に手を回してきた。
怖い。
「ごめんなさい……」
「ノリ悪いジャーン!」
「……ははは」
と、断ったお酒を何度か勧められた。
別に肩に手を回されただけで、変なことをされたわけではないけれど、緊張して体が固まってしまった。
結局、お酒は飲まなかったものの、帰り道で莉奈と顔を見合わせた。
「……あそこはやめよっか」
「うん」
大学のサークルには、新入生の女の子を酔わせて変なことをしようとするところもあるらしい。
どこまで本当なのかは知らない。
ただ、男の人に慣れていない私たちにとっては、十分怖い話だった。
チャラすぎるのは怖い。
真面目すぎるのも違う。
できれば格好いい男の人もいてほしい。
しかし格好いい男の人が女の子を片っ端から口説いているのも嫌だ。
「莉奈」
「ん?」
「サークル選びって難しいね」
「ねー」
「テニスはちゃんとやってる方がいいけど」
「真面目すぎてもつまらないよね」
「かっこいい先輩がいた方がいいんだけど」
「チャラすぎると怖いよね」
「お酒飲ませて新入生に変なことしようとするのも」
「最悪だよね」
「危なかったね」
「ねー」
「ちょうどいいところってないのかなあ」
そんなことを莉奈と話していた時だった。
「テニス〜♪テニス〜♪みんな大好きテニス〜♪」
変な歌が聞こえてきた。
「テーニス♪テーニス♪
初心者歓迎テーニス♪
経験者だって大歓迎♪
ラケットなくてもテーニス♪」
ラケットがないとテニスはできないんじゃないかな。
音源の方を向くと、黒い毛玉がふわふわと浮いているようだった。
なにこれ。怖い。
「莉奈、行こっか」
「うん」
変態とエンカウントするのはごめんなので、迷わず"逃げる"のコマンドを選択した。
「君たち、テニス興味あるか?」
しかし まわりこまれてしまった!
おっきい。
すごく、おっきいアフロだ。
アフロもおっきいけど、身長自体がかなり高い。
多分180cm以上ある……。
ん?
ええ!?
そんなことある!?
アフロの土台がめちゃくちゃイケメンだ。
「テニス、興味あります!」
「美咲……」
気がつけば、私たちはリプトンテニスクラブの練習会に参加することになっていた。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




