"ちゃんとした男"が好きです①
大学では「格好よくて優しい彼氏ができると嬉しいな」と思っていた。
いや。
絶対に作るの。
これは別に、私が恋愛体質だからというわけではない。
むしろ逆だと思う。
私?
私は森川美咲。
私の通っていた高校は、中高一貫の私立で、一応、女子校御三家とか呼ばれている名門だった。
部活は弓道部で、もちろん女子しかいなかったけど、それはそれで楽しい青春だったと思う。
他校の男子に恋をしている子もいたし、ちょっと若い男の先生なんかにキャーキャー言ったりするのも全然悪くなかった。
勉強は……中学受験をしてからだいぶサボってしまった……かな……。
一応、現役時代は一般入試でそこそこの大学には受かっていたんだけど、うちの高校出身ってなると話は変わってくる。
親からもいろいろ言われたので、一年間宅浪して今年の春から高田大学の一年生になる。
四月生まれの私はもうすぐ二十歳になるけど、高田大学は浪人生も多いから、そんなに気にしなくて大丈夫そうだ。
え、勉強の話はもう良いって?
んー。そうだな。
顔は……まあ、可愛い方だと思う。
友達にはよくそう言われるし、街を歩いていると、読モとかのスカウトをされることも少なくはない。
胸も……大きいらしい。
これも友達によく言われるし、別に他人の胸をジロジロ見るわけではないけど、視界に入る限り、確かにそんな気がする。
あとは、可愛い服も好き。
明るい色の可愛い服を着ていると、私も明るい気持ちになれる。
異性にモテるのかと聞かれると、困ってしまう。
なにせ、六年間、同年代の男子と日常的に接する機会がほとんどなかったのだから。
当然、彼氏ができたこともない。
なんなら好きな人ができたこともない。
恋愛なんていうのは、友人に借りた少女漫画にしか存在しない。
……。
だから大学では、普通に恋愛をしてみたい。
男の人を好きになってみたい。
できれば格好よくて、優しくて、ちゃんと私のことを好きになってくれる人がいい。
そして、どうせ付き合うなら、将来のことまで考えられる人がいい。
……。
今年26歳になるお姉ちゃんがいつも言っている。
「大学で良い男を捕まえないと、後悔するよ」
まだ、大学に受かる前から、毎日のように聞かされていた。
もはや洗脳だよ。
男の人というのは、歳を重ねても案外モテるらしい。
仕事ができるようになり、収入が増え、大人の余裕まで身につけば、三十歳を過ぎてから若い女の子と付き合う人だって珍しくない。
そうかもしれない。
大人の男は確かに魅力的だと思う。
実際、私の友達にも何かで知り合った大人の男性と付き合っている子がいたりもした。
みんな、『大人な彼氏』がいる彼女に憧れていた。
私は「女子高生に手をだす大人な彼氏って、それはまともな大人なのか?」と思っていたけど、周りの子達はあまり気にしていなかった。
まぁいっか。
お姉ちゃんはいつも怖い顔をしながらこんなことを言うの。
「女は違う」
「え!?」
「若さというものには明確な賞味期限があり、恋愛市場における価値は年々下落していく」
「そうなの?」
「そう。私だってまだ26だと思っていたけれど、この世界では”もう”26なの」
「ええ!?お姉ちゃんでもそんな感じなの!?」
「そう。まず、大人は良い出会いが無いの」
「合コンとかは?」
「本当に良い男は合コンに来ない」
それは偏見なんじゃないかな?
「マッチングアプリは?」
「マッチングアプリに来る男なんてみんなヤリモクよ!下半身に脳が支配されているのよ」
えぇ。怖い。
お姉ちゃんは可愛いし綺麗だ。
高田大学を卒業してすぐに就職した大手化粧品会社に勤めていて、仕事も学歴もちゃんとしている。
毎日変な話をしてくるけど、私が受験に失敗した時なんかは美味しいものを食べに連れて行ってくれたし、基本的にいつも優しい。
私は小さい頃から、お姉ちゃんみたいになりたいって思ってる。
そんなお姉ちゃんですら、婚活市場を勝ち抜くことには苦労しているらしい。
「マッチングアプリは確かに便利。たくさんの男がいるし、そこそこ良い男を見つける分には困らないかもね」
「そこそこ良い男がいるなら良いんじゃないの?」
「そう。私も今となっては高望みしない。全ての条件がパーフェクトなんてのは望んでいないわ」
「それじゃあ……」
「でもね美咲。あんたはまだ間に合う」
「え?」
「良い男ってどんな男だと思う?」
好きな男すらできたことがない私に何を聞くんだこのお姉ちゃんは。
「顔がかっこいい」
「うむ」
「背が高い」
「うむ」
「ちゃんとした会社で働いている」
「うむ」
「学歴もちゃんとしている」
「ストップ」
「ん?」
「この時点で、マチアプ市場の90%は排除されたわ」
「ええ!?」
「そして残った10%は」
「10%は……?」
「遊び人よ」
「ええ!?」
「自分たちが希少な良い男枠に入ると理解し、女を食い荒らす魔物たちよ」
「怖すぎるよ!」
「考えてみて、見た目が良い。金もある。学歴もちゃんとしている。そんな男がなぜマッチングアプリなんかをしているのかを」
「出会いが無かったんじゃないの?」
「20も後半になって、ハイスペックなのに『出会いがなかった男』なんて、恋愛観がまともじゃないのよ」
「えええ!?」
「処女厨だったり、メンヘラだったり、性癖がおかしかったり……」
「処女厨……?」
「化け物よ」
「化け物なんだ」
「遊び人はまだマシな方ね。結婚願望はないけれど、女と遊びたい程度の普通の悪いやつだもの」
「普通の悪いやつがマシな方なんだ」
「そう。でも、美咲はまだ間に合うわ」
「どうして?」
「顔が良い。恋愛観もまとも。将来性もある。そんな男は、大学卒業と同時に、当時付き合っていた女と結婚するのよ」
「!?」
「しかも、割とすぐに。良い男ってのは、彼女を不安にさせたりしないの」
「そっか……」
「女の価値は一日一日落ちていくというのに、『いずれ結婚』などと言いながら、いざプロポーズとなると足踏みをするような男なんて雑魚でしょ?」
「それは雑魚だね」
「そう。だから美咲は、雑魚では無い素敵な男を大学で見つけなさい」
「わかった!」
「そして、素敵な男の素敵な友達を私に紹介するの!」
「わかった!」
大学在学中に生涯の伴侶を見つけ、仕留める。
これはもはや私一人の問題では無いのだ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




