↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/126

"顔"のいいやつが嫌いだ④

◇6月


俺は同期だけの飲み会を企画した。


もちろん、先輩たちもいる練習終わりの飲み会だって楽しいし、好きだ。


しかし、アフロ先輩やサブレを中心に、どんちゃん騒ぎたい俺たちのメンツは、ある程度固定化されてしまっているので、全ての同期と仲が良いかと言えば、そうではない。


俺、小野ちゃん、サブレの五月組。


美咲ちゃんも所属する二浪のマサハルグループ。


騒ぐこともあれば、騒がないこともある地味系のサワキタグループ。


他にもノンデリの田村みたいに、特定の誰かと仲がいいわけじゃない奴らもたくさんいた。


リプトンは全体で二百人を超える大所帯で、サークルに毎回くる奴もいれば、飲み会にしか来ない奴も、交流試合の時とかだけ顔を出すやつもいる。


だからこそ、誰かがこのような会を企画しなければ、同期全員が集まることなどほとんどない。


そんな中、同期だけで飲み会を開いて、その中心に自分がいたら、かなり一軍っぽいのではないか。


この機を逃すわけにはいかない。


そう思ったんだ。


そうやって物事の中心にいる人間というのは否応なしにモテるはずだ。


『カズヤ……かっこいいね』


小野ちゃん。


小野ちゃんも可愛いよ。


俺だけが知っているその素顔をもっと見せてくれ。


『カズヤくん!頼りになるね!』


美咲ちゃん。


君だって頼もしいよ。


素晴らしいものを持っているじゃあないか。


『カズヤ、結構仕切れるんだ。やるじゃん』


なんだよ田村。


お前もデリカシーがないだけでちょっとは可愛いところもあるんだな。


……。


なんて妄想をしながら準備を進めた。


◇


サブレが手伝ってくれたこともあり、同期会の準備は順調に進んだ。


さすが二十二歳。いろんなことを知っている。


サブレから受け取った飲み会幹事の指南書を読みながら、一つ一つ項目にチェックを入れた。


完璧だ。


大学一年生でも入れる一人3,000円で飲み放題&カラオケ付きの個室居酒屋。


グループLINEでとった出欠表を元にして作った名札と座席表。


よく知らない者同士の飲み会において座席表は重要だ。


みんながみんな自分の座るべき場所をすぐに見つけられるわけじゃないからな。


なるべく仲のいい奴が隣にするようにしつつも、既存グループで固まらないように。


盛り上げられるサブレみたいなやつをバラバラに配置。


小野ちゃんは残念がるかもしれないけど、今回は同期の交流会だから一次会はしっぽりで良さそうだ。


幹事の俺は入り口付近に配置。


……。


俺の近くに女子がだいぶ固まっている気がするが……。


まあいい。


不可抗力だ。


座席表を作り直すのも面倒だしな。


サブレと一緒に下見だってちゃんと済ませた。


サラダ、枝豆、硬いパンにペースト状の何かが乗った奴、"唐揚げグランプリ金賞"のでかい唐揚げ、シーフードパスタ、最後にデザート。


安い店の割には飯は普通に美味いし量もある。


飲み放題メニューにはビールもカクテルもサワーも乗っている。


なんかデカいグラスにクッキーやアイスが乗っかっているオリジナルカクテルなども複数あり、女子ウケが良さそうだ。


間接照明で照らされた広い個室は、少し大人の雰囲気を漂わせている。


よし。


完璧だ。


◇


当日。


なんやかんやお祭り好きというか、みんなで集まって騒ぐのが好きなリプトンの連中だ。


同期会をやるなんて言ったら、五十人も集まってしまった。


男女比は女子の方が多め。


別にキラキラしたイケイケの大学生ではないが、『リプトン』の女子たちは素材が良い。


この中の誰かが俺の彼女になるのであれば、拒む必要はないだろう。


しかし、五十人近い同期が、俺の予約した店に集まって、その乾杯の音頭をとっている。


感無量である。


顔面チート野郎のサブレには勝てずとも、俺が女子たちの中でイケてる彼氏候補の上位にいるのは確実だろう。


一位でなくても良い。


サブレにだって三十人の女を同時に相手することはできないのだからな。


「みんな!酒は持ったか!今日は楽しんでいこうぜ!乾杯!」


<かんぱーい!


<乾杯!


<キャァんパァイ!


俺、大学生やってるなぁ。


高校時代にはなかった感覚と全能感に酔っていると。


「……あれ?和也?」


聞き覚えのある声がした。


振り返る。


二つ目に参加した『レッドリンクス』のチャラい連中が俺たちの個室を覗き込んでいる。


「あ、おう、久しぶりだな」


「飲み会?大所帯だな!」


「まあな」


「てか仕切ってんじゃん!大学デビューうまくいって良かったなオタク野郎!」


「おいおい、ひどいなー」


やめろ。


「まだその髪やってんの?プリンになってんじゃん」


「気に入ってんだよ」


「高校ん時オタクだった奴が?」


「うるせえよ」


俺のポジションはもうそこじゃねえ。


『リンクス』のチャラ男が数人、我々の空間に入り込んできた。


「おお!可愛い子いんじゃん」


「地味だけど可愛い子多いな」


「めっちゃおっぱいデカい子おるやんけ!」


「やば!」


「俺もそっちのサークル入ろうかな!」


チャラ男たちは下品で適当なことを言っている。


ここで「俺の仲間に変なことを言うな」とか言えたらかっこいいのかもしれない。


でも、突然現れた一軍のチャラ男の群れに俺は萎縮して、フリーズしてしまった。


今俺はどんな顔をしているんだろう……。


主催した飲み会に集まってくれた同期達がチャラ男に絡まれているのに、何もできない。


俺はもう、仲間たちの方を見ることができなかった。


頼むから帰ってくれ。


先ほどの全能感から打って変わって、どうしようもない羞恥心と無力感に包まれた俺が、その場から消えたくなっていると、


「カズヤ、友達か?」


サブレだった。


乾杯してすぐに「便所だ」とか言って出ていったのを思い出す。


長いトイレだったな。


「あー……まあ、別の新歓でちょっと」


無理に捻り出した。


「ほう?」


「何してたんだ?」


「うんこだな。これから飯だというのに、腹が張っていてはいかんだろう」


「長かったな」


「いや、『うんこ』じゃないな。『うんち』だな。俺は昨日タンパク質を取り入れたからな」


「そこ、こだわるよな」


サブレは平常運転だ。


室内の女子たちに注目していた『リンクス』の連中が振り返る。


「カズヤ、お前何バカな話してんの———」


サブレを見て固まった。


「どうした?」


「え、いや」


「ん?」


『リンクス』の奴らが動揺している。


「カズヤの友達か?」


「あぁ。他の新歓で会った奴らだ」


「おお!そうか!カズヤの友達なら俺も友達だな。挨拶をせねば」


何を言っているんだこいつは。


「初めまして。カズヤの友人のサブレだ。よろしくな」


「よろしく」


「俺たちと一緒に飲みたいのか?」


「え?」


「個室に入ってきているくらいだ、飲みたいのだろ?」


「いやいや、別にそういうんじゃ———」


「席はいっぱいだが、まぁ、詰めればいけるだろう」


こいつは何をやっているんだ。


「小野ちゃん、ちょっとそっち詰められるか?」


「いけるよ。チョモランマは作る?」


「それは小野ちゃんが決めることだろう」


「そうだね。美咲ちゃん、ビール取ってくれる?」


「わかった♪三本あげるね♪」


「ありがと」


「よし!みんな!カズヤの友達が一緒に飲みたいらしいんだが———」


「いや、大丈夫、大丈夫!」


「?」


「悪いなサブレ!俺たちも自分の飲み会があるからさ!」


「そうか?席を詰めればいけそうだが」


「大丈夫!じゃあなカズヤ!」


「おう」


「じゃあまた今度飲もうな!カズヤの友人たち!」


「おお!そのうちなー」


『レッドリンクス』の連中はサブレを見て逃げていった。


俺からすると無敵に見えた『リンクス』のチャラ男たちも、本物のバケモノを見ると俺と同じ反応になるんだな。


まさかこいつらに親近感を覚える時がくるとは思わなかったぜ。


……。


「カズヤ」


「なんだ?」


「お前のチャラい友達、行ってしまったな」


「あぁ」


チャラいって、お前が言うんじゃねえ!


「まぁ、席を移動するとなると、店側にも話を通す必要があるし、奴らも気を利かせてくれたんだろう」


「そうだな」


「今度、あいつらと飲むときは俺も呼んでくれ。せっかく友達になったんだからな」


「お前は誰とでもすぐ友達だな」


「友達は多い方がいいだろ?」


「……サブレ」


「ん?」


「ありがとな」


「なんのことだ?」


くそ、勇気を出してお礼を言ったのにこれだ。


なんでお礼を言われたのか本当に分かっていない様子に少し腹が立った。


でも、めちゃくちゃ嬉しかった。


周囲を見る。


分厚いメガネに黒髪。


太い眉毛に短髪。


受験期の名残を引きずった白い顔。


ほんの数ヶ月前まで参考書と戦っていたような連中ばかりだ。


見た目だけなら、さっきの奴らの方が圧倒的にイケてるんだと思う。


ただし、俺が顔を上げられなくなっている中、リプトンの同期達は席を詰めてチャラ男達を受け入れようとしていた。


「え、来ないの?せっかくチョモランマ作ったのに……」


「なんだ。"乾杯"をしてやろうと思っていたんだがな」


「あぁ。"杯"を"乾かす"と書いて、"乾杯"をな」


「くくく、飲み会なんて人数が増えれば増えるほど面白いというのに」


「まったくだ!ガハハハ!」


こいつらはすでに、何度かリプトンの飲み会を経験している。


吐いた奴がいる。


潰れた奴がいる。


店を出た瞬間、植え込みへ消えた奴もいる。


ほんの数ヶ月前までガリ勉だった奴らが、酒を持つと妙に面構えが良くなる。


さっきの連中が合流したところで、飲みにおいて負けるつもりはサラサラなかったのだろう。


そんな、確固とした自信の前では、チャラい見た目もイケてる服もブランド物のアクセサリーも関係なかったようだ。


こいつらの前で、飲ませるだけの人間なんて存在できないしな……。


よかった。


『レッドリンクス』の連中のゲロを片付けることにならずに済んで。









※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。