"顔"のいいやつが嫌いだ①
俺は顔のいいやつは嫌いだ!
でかい声で喋っても誰にも邪魔されない。
地味なやつをいじれば笑いを取れる。
黙っていても女にモテる。
俺が必死に足掻いても手に入らないものを、生まれながらに持っている。
そんなの許せるわけないだろう。
……。
あ、初めまして。
俺の名前は中村和也。
一年間の浪人生活を経て、偏差値70を超える高田大学へ入学した。
本当は東大に入ろうと思っていたんだが、おそらくギリギリで落ちた。
とは言え私立の中では最上級の大学に入れたのだから、頭は良い方だ。
顔だって、別に絶望的に悪いわけではないと思う。
「こんなに可愛い顔に産んでやったのに!彼女も作らないでまったく!」
なんてオカンから言われるくらいだし、可愛い顔をしているはずだ。
ガタイはまぁ、普通だな。実際のところ身長168cmくらいなんだが、170cmと答えても特に突っ込まれることはない。
脂肪がほとんど無いから腹筋だって割れている。いわゆる細マッチョって奴だな。
趣味はそうだな。アニメも見るし、漫画も読む。インドアに寄ってるが、別にオタクってわけではない。サブカルチャーってやつが好きなだけだ。
俺の通っていた男子校では、みんな漫画とかゲームの話題で盛り上がっていたし、普通なんじゃないか?
彼女はできたことがない。
童貞。
……最後の二つだけ、少し印象が悪いな。
いや、聞いてくれ。
別に俺は『モテない人間』ではないんだ。
中・高一貫の男子校に通っていて、オカンと妹くらいしか女子との接点が無かっただけだ。
いやいや、言い訳じゃないって。
考えてみてくれ。
たとえば砂漠の真ん中で「どうして魚が釣れないんだ」と悩むようなものだ。
仮に俺がどんな釣りの名人であろうと、魚のいない場所に糸を垂らしたところで釣れるわけがないんだ。
だって魚が存在しないんだからな。
つまり、俺が年齢=童貞なのは、能力ではなく環境の問題だ。
え?
『男子校に通っていても、彼女がいる奴もいるじゃん』って?
……。
まぁ。
それはいわゆる『一軍の陽キャ達』のことを言っているんだと思うけど、そこはまた話が別だ。
あいつらは、"普通"じゃなくて、顔が良かったり、めちゃくちゃ運動ができたり、顔が良かったり、親が金持ちでブランドの服をいっぱい持ってたり、顔が良かったり、元々俺が持っていないものを生まれながらにして持っている、言ってしまえば『チート使い』のようなものだ。オンラインゲームをやっている時だってそうだが、『チーター』とは別に同じフィールドで戦っていないというか、奴らが———(長い説明)。
はぁ、はぁ……。
要は、『一軍の陽キャ達』ってのは、配られた手札が強かっただけの奴らってわけだ。
……。
そして俺は、『高田大学生』という一枚のレアカードと、『女性と触れ合える環境』を同時に手に入れたわけだ。
噂によるとだな。
『高田大学生』という肩書きは、女ウケがかなりいいらしい。
政治家、経営者、芸能人、スポーツ選手。
偉大なる諸先輩方が積み上げてきたブランドを、入学しただけの俺も今日から使える。
ありがたい話である。
ふっふっふ。
東大に落ちて絶望している暇など俺には無い。
俺は一軍のイケてる大学生になり、さっさと彼女を作るのだ。
そして……。
何みてんだよ!
ちょっとあっち向いててくれ。
……よし。
まずは、見た目からだ。
◇
入学式の二週間前。
SNSで今話題のカリスマ美容師を予約して、髪を切ってもらうことにした。
やはりイケてる大学生といえば、金髪は欠かせない。
染めるついでに、最後にいつ切ったかわからないこのもじゃもじゃの髪もスッキリしたい。
「どんな感じにします?」
「あ、イケてる大学生っぽい感じで」
「イケてる大学生っぽい感じですね!カラーはどうします?」
「あ、金とか良いなって思ってるんですけど」
「金ですね。色味はどんな感じにしましょうか」
カリスマ美容師は髪色の見本を持ってきてくれた。
「あ、そしたらこれでお願いします」
白にしたいわけじゃない。俺は金にしたいんだ。
一番「金」に見える15番を指さした。
「おお!これだとブリーチ2回必要かな。結構髪傷みますけど、良いですか?」
「あ、はい」
「お兄さんは春から大学生になるんですか?」
「あ、はい」
「そしたら、入学祝いってことでサービスにトリートメントしますよ!」
「あ、はい」
俺が「あ、はい」だけ言っていれば、勝手に物事が進んでいった。
さすがはカリスマ美容師だ。
数時間後。
鏡の中には、金髪になった俺がいた。
「おお……」
悪くない。
いや、悪くないはずだ。
髪はちゃんと指定した通りの金色になっているし、眉毛も少し整えてもらった。
少なくとも昨日までの俺よりは、明らかに大学生へ近づいている。
さすがはカリスマ美容師だ。
しかしあれだな。
髪色は金だし、もじゃもじゃした頭もスッキリしている。
スッキリしているんだが……。
……。
……………。
…………………。
……金髪のオタクだな。
メガネか!?メガネが悪いのか!?
それとも、顔の造形がオタクっぽいってのか?
可愛い顔だとオカンは言ってたはずだが……。
どうなんだ。
「どうです?いい感じになったと思いますよ」
……。
「俺、イケてますか?」
「めっちゃイケてますよ!」
「あ、そうですか」
カリスマ美容師が言ってるんだからイケてるんだろう。
「ただあれですね。服とかもうちょっと良い感じにできるかもっすね」
「服?」
カリスマ美容師が雑誌を持ってきて指さす。
「こんな感じの服とか、大学生っぽくないっすか?」
「あ、はい」
「あとはメガネもコンタクトにしてみると、大学生っぽい気がしますね」
「あ、なるほど」
「このブランドだったら、普通に駅前のデパートとか行けば店舗あるんで、帰りに寄ってみても良いかもっすね」
「あ、でもちょっと高いっすね」
「あー。そしたら、ここにある古着屋とかだったら、結構安くオシャレな服買えますよ」
「あ、これならイケそうです」
「良かった!俺、大学行ってないんでわからないんすけど、楽しみっすね」
「あ、はい」
さすがカリスマ美容師だ。
髪を切りに来ただけなのに、服装の指南までしてくれるとは。
『カリスマ美容師 ★★★★★』
『投稿しますか?』
『 "はい" いいえ 』
……。
よし。
次だ。
『メンズ 大学生 春 コーデ』
レビューを投稿してすぐ、服について調べつつ、教えてもらった店へ向かった。
◇
春休みに購入した私服を合わせてみる。
一人ファッションショーだ。
……。
もう入学式の前日か。
髪も染めたし、服も買ったし、コンタクトも用意した。
なかなか充実した春休みだったと思う。
親戚からもらった入学祝いや、子供の頃貯めていた貯金はほとんど使い切ってしまった。
しかし、大学の新歓とやらは、新入生無料のところが多いらしい。
無料でインストラクター付きのアクティビティを楽しめる上に、酒と飯まで出てきて、女子大生とも知り合えるとは……。
大学生ってすごい。
テニサーだ。テニサーに入ろう。
テニスの経験は無いが、イケてる大学生活とテニスは切っても切れない関係だ。
『テニサー』という響きだけですでにチャラい。
四月の前半に誕生日を迎えるから、酒だって合法で飲めてしまう。
一軍。
テニス。
女。
酒。
完璧である。
……。
この時の俺は、足元がお留守になっていることに気づいていなかった。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




