酒を”呑む”と言う奴が嫌いだ①
僕は酒を“呑む”と言う奴が嫌いだ。
『唐突になにを言い出すんだ』って?
別に僕にとっては唐突ではない。
鼻につくじゃあないか。
普通に“飲む”で良いだろう。
カクテルを片手に「今日さぁ〜呑み会でさ〜」とかのたまう奴には、「まじ」を「まぢ」と表記したりするような、妙なむらつきを感じるのだ。
ここだけは勘違いしないでほしいが、僕は酒が嫌いなわけではない。
むしろ、無類の酒好きである。
ビール、日本酒、ワイン、焼酎、ウイスキー。
度数5%以上のアルコールであれば、何だって喜んで体内に流し込んできた。
……。
すまない、申し遅れた。
僕の名前は佐藤浩。
都内にある私立・高田大学の一年生である。
一年生とはいっても、年齢は二十一歳。
高校卒業後、二年間にわたる浪人生活を経て、ようやくこの春から大学生になった。
高田大学はいわゆる難関私立大学というやつで、世間一般から見ればそれなりに頭の良い学生が集まっているらしい。
実際、入学してみれば周囲には有名進学校出身者や、僕と同じように青春の何割かを受験勉強へ生贄として捧げてきた人間がゴロゴロいる。
そんな連中が一万人近く集まって、新宿のど真ん中で大学生活を送っているのだ。
「さぞ知的で洗練された若者たちが、学問について語り合いながら有意義な青春を謳歌しているのだろうな」と、入学前の僕はそう思っていた。
しかし、三ヶ月が経過すれば、化けの皮も剥がれるもんだ。
結論だけ言おう。
全然そんなことはなかった。
偏差値が高かろうと、二十歳前後の大学生なんて大体バカである。
そして酒が入れば、もっとバカになる。
まずはそこを認めるところからだ。
そうしなければ大学生活を始めることすらままならないのだ。
◇
高田大学には千を超えるサークルが存在する。
中でも、異常なまでに数が多いのがテニスサークルだ。
なんと、五十以上あるらしい。
「同じ大学の中にテニスサークルが五十個も必要なのか」という疑問はもっともだが、それぞれ中身がまるで違うので一概に同じものとも言い難い。
その実態は、「テニス」と「酒」の比率で大体分類できる。
【テニス1:酒9】
こんなのはテニスサークルの皮を被った飲みサーである。
反対に、
【テニス9:酒1】
ここまでいくと、わざわざ大学に入ってまで部活動の続きをやっているようなものだ。
もちろん、どちらが良いとか悪いとか……そういう話ではない。
大学生にはそれぞれ、自分に合った青春を選ぶ権利がある。
飲みサーでも部活でも好きなように青春を謳歌すればよい。
その点、僕が所属する『リプトンテニスクラブ』は実にちょうどいい。
「キミ、テニスに興味ある?」
そんなありきたりな誘い文句について行ったのは、決して声をかけてくれた先輩が僕好みの儚げな美女だったからではない。
【テニス5:酒5】
テニスはしっかりやる。酒もしっかり飲む。
二百人近いメンバーの中には、飲み会にしか顔を出さないエンジョイ勢もいれば、高校時代にインターハイへ出場したようなガチ勢までいる。
要するに、テニスがしたい奴にも、酒が飲みたい奴にも居場所がある。
誰でもウェルカムであるが故に変人が多く留まってしまった組織。
それが『リプトン』だ。
僕は酒が飲みたい。
もちろん、テニスにも真摯に取り組んでいる。
なぜなら、ビールを最高に美味しく飲むには“下ごしらえ”が必要だからだ。
ビールサーバーの洗浄や注ぎ方の技術はもちろん重要だ。
しかし、それはあくまでビール側の下ごしらえに過ぎない。
ビール側が下ごしらえをしているのに、飲む側が下ごしらえをしないのは無礼ではないか?
少なくとも、僕はそう思っている。
激しい有酸素運動で肉体を痛めつけ、ボロボロになった体から汗を洗い流す。
ここまでやって、ようやく「一杯目のビールを迎える準備が整った」と言えるだろう。
そう。
最高の美酒を味わうために運動をこなし、バイトに励み、学業に努める。
そんな僕だからこそ、「今度酒“呑もう”ぜ」と誘ってくる人間の軽薄さには警戒を怠れないのだ。




