"ションベン"と"単位"は別だろ①
俺の名前は神谷悠真という。
我ながら、かなり格好いい名前だと思う。
「悠真」という響きには爽やかさがあるし、苗字の「神谷」と合わせても収まりがいい。
高校時代には女子から「名前までイケメンだよね」と言われたこともあるので、これは別に俺一人の主観というわけでもない。
そして名前だけではなく、俺自身もかなり優秀な人間だと思っている。
こんなことを自分から言えば、大抵の人間は「自惚れている」と思うだろう。
日本人というものは謙遜を美徳とする傾向が強く、テストで九十点を取っても「全然勉強してないからヤバいわ」と言い、全国大会に出場しても「たまたま運が良かっただけ」と言っておく方が角が立たない。
だが、事実を不当に低く評価するのも、それはそれで客観性に欠けるのではないだろうか。
高校時代は硬式テニス部に所属し、シングルスでインターハイまで出場した。偏差値70を超える高田大学理工学部にはスポーツ推薦ではなく一般入試で合格している。
身長は百八十センチを少し超えていて、顔についても母親や当時付き合っていた彼女以外から「イケメン」と評価された実績が複数ある。
つまり、勉強ができる。運動もできる。背も高い。顔もいい。名前まで神谷悠真である。
大学生活を華々しく謳歌するための素材としては、かなり恵まれている部類だと自負している。
だからこそ、高校卒業を目前にした俺は考えた。
せっかく素材がいいのだから、外見にももう少し気を遣うべきではないだろうか、と。
高校三年間はテニス漬けだった。大会前ともなれば髪型なんて邪魔にならなければどうでもよく、適当に短く切って済ませていた。
それでも彼女ができなかったわけではないが、大学という新天地を前にして、俺にも多少の色気が出てきたのだと思う。
キャンパスには出会いがある。
恋愛がある。
華やかなキャンパスライフがある。
どうせなら、今よりもう少し格好よくなりたい。
そんな極めて健全な欲望を胸に、入学式を一週間後に控えた俺は、地元で評判の美容室へ足を運んだ。
「どんな感じにします?」
若い美容師にそう尋ねられ、俺は少し考えてから答えた。
「大学生っぽい、モテる感じのパーマでお願いします」
美容師は鏡越しに爽やかな笑顔を浮かべた。
「任せてください」
二時間後。
鏡の中には、アフロがいた。
……なぜだ。
そして入学から一ヶ月も経たないうちに、高田大学で俺を「神谷悠真」と呼ぶ人間はほとんどいなくなった。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




