これは私の"意思"である④
どうやら、チョモランマを見て我慢できなくなってしまった先輩達。
サブレに釣られてついていく一年生の女子達。
そんな彼女達にいいところを見せようと、「自分、酒いけますよ」とイキがってしまった男達。
そんな者どもが集まり、少しだけ本当のリプトンが見える卓が端っこに1つだけできた。
私は可愛い後輩女子達と平和に履修登録の話なんかをしている。
「小野さんはあっち行かないんですか?」
「チョモランマは一発でお腹タプタプになっちゃうんだ。バカを見てるのは楽しいけど」
か弱い先輩を演じながら、後輩達との会話を弾ませる。
「サブレさんと仲良いんですね」
「まあね」
「付き合ってるんですか?」
「それはないかな」
「そうなんですね!」
私とあいつは違う生物だ。
それはもう覆せない事実。
今後も変わることはないだろう。
「サブレさんってイケメンですよね!」
「そうだね。アフロ先輩もイケメンだよ」
「アフロ先輩も!?」
「顔よく見て」
「……本当ですね!」
「アフロの台座になってるのは勿体無いよねー」
「台座って言い方!先輩面白いですね!」
「そう?ありがと」
この娘はまだあのバカと自分が同じ生物だと思ってるみたいだ。
「美咲先輩」
「何?」
「美咲先輩って彼氏いるんですか?」
「いないよー」
「サブレ先輩は?」
「付き合っては……無いかな♪」
意味深な感じで返す美咲ちゃん。
「彼女とか作らないんですかね」
「遊び回ってはいるみたいだけどねー」
「そうなんですか!」
「チャラいから」
「チャラそう!」
可愛い子だ。
サブレにとって私は、いや、私たちは別に恋愛対象ではない。
これは客観的事実だ。
あいつはサークルの外で遊び回っているらしい。
しょーもないチャラ男。
タカシと二人で『おちんちんブラザーズ』な毎日を楽しんでいる男だ。
サブレどころか、タカシですら私なんかのところには来ない。
私みたいな、『メガネでチビでテニスの下手なゲロ女』のところに来る奴らなんてのは、
女性経験が乏しく、
根拠の無い雑な自信と、
ちっぽけなプライドを持った、
しょーーーもない男ばかりだ。
私にはそれがお似合いなんだろう。
流石にもうわかってる。
……。
ふむ。
このバカが顔だけの男だったらまだ考えようがあったんだけどな。
残念ながらこのバカは、顔だけじゃない。
……。
良い男だ。
それはもう誤魔化しようがない事実だ。
周りの皆もそう思っている。
良い男が遊びじゃない恋愛をするのは、
真帆さんのような本当の良い女だ。
真帆さんは、顔が良い。
ちょっとじゃない。
めちゃくちゃいい。
声まで可愛かった。
話を聞く限り性格も良いのだろう。
仕事もちゃんとしている。
サブレみたいな奴が間違った道に進めば、しっかり叱ることができる。
別れた男との関係を繋ぎ止めるために抱かれることなんて絶対にないのだろう。
私とは全然違う。
顔はそこそこ。
とはいえしょーもない男どもが「イケそう」って思う程度だ。
群がる雄を見下してる。
そのくせ、ちょっと格上の男に声をかけられたら喜んでついていく。
別に傷ついたりはしない。
しょーもない女でも、抱けるなら抱いておこうという男。
そんな男に抱かれて自尊心を満たす女。
お似合いだ。
Win-Winの関係だ。
……。
ただまぁ。
あの傲慢なバカは勝手に自分の理想と妄想を押し付けてきやがった。
そんなしょーもない女を「良い女」と言った。
私の意思で抱かれようとしていた男に、「雑に扱うな」と言った。
あの日は私だって楽しもうとしていたんだ。
そうに違いない。
……。
誠に傲慢だ。
反吐が出る。
顔が良ければなんでも自分の思い通りになると思ってるのがあいつの悪いところだ。
……チョモランマめ。
結局のところ、バカが何を考えているかなんて誰にもわからない。
誰にもわからないからバカなんだ。
ただ、自分の大切な人が幸せになることを望んでいる。
それはきっと嘘ではないんだろう。
流石にわかる。
真帆さんも、
美咲ちゃんも、
カズヤも、
アフロ先輩も、
おちんちん侍タカシも、
そして私も。
全部、あいつにとっては大切な人なんだろうな。
誠に遺憾だ。
勝手に『幸せな人生』を義務付けやがって。
私が「不幸になりたい」と本気で思っていたらどうするつもりだ。
無責任なやつだ。
……。
まぁ。
私なりに自分の考える良い女にだったら、
なる方向で話を進めても良いかもしれない。
おい。
そこのお前。
お前だお前!
勘違いするな!
これは私の意思である!
……。
「きゃーーーー!」
「おい!ヒロが吐いたぞ!」
「バケツだ!バケツを持って来い!」
「4月に吐くとは珍しいな!大物新人の登場だ!」
「オロロロロロロ」
「ギャハハハハハハハ!」
……。
さて、
今年は私がゲロを片付ける番だな。
【小野ちゃん一年編 ー 完 ー】
余談だが、
後日、サブレと一緒に頭を下げに来た蓮は、
リプトンに加入した。
……。
まったく。
バカは多ければ多いほどいい。
【ー 完 ー】
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




