これは私の"意思"である②
「……………ブスとエッチなことになるかもしれない」
「ブスとエッチなことにはなりたくないっス」
「甘えんな」
なんの話をしているんだこのバカ共は。
……。
とりあえず、空気は重くない。
しょーもない話で静かに盛り上がっている。
このバカはこういうところだ。
真面目な話になればなるほどふざける。
良いことなのか、悪いことなのかはわからない。
「今日のところは頭を冷やせ。素晴らしい教えを熟成させてこい」
「はい」
「みんなには俺から伝えておく。悪い奴じゃない事と、ただのバカだったって事を」
「バカは余計っスよ」
「少なくとも20だな。20人抱いたら戻ってこい。その時は本物のチョモランマを見せてやろう」
「……はい!」
やっと言いたいことが言えたようだ。
時計を見る。
バカがバカを連れて出て行ってから、30分は経過していた。
蓮を帰らせるのに30分も使ったのか。
……。
頑張ったな。
「小野ちゃん」
そんなことを考えていると、バカに見つかった。
「あ、荷物持ってきたよ」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
「はい。スマホと財布もあるから確認して」
「はい。大丈夫です」
「そう」
「あの、小野さん」
「ん?」
「さっきの俺の絡み、うざかったっすか?」
「殴るところだったよ」
シュッシュっ!
練習したジャブを披露する。
「マジっすかー!すんません!」
「いいよ」
「良いんすか!じゃあ、連絡先をー」
「調子に乗るな」
「はい」
「ハハハ」
うん。
こいつはこいつで反省している。
バカが30分かけてチョモランマを飲んだ時間は無駄ではなかったようだ。
「じゃあ、帰ります。ありがとうございました」
「おう」
「バイバイ」
特に言い訳もせず、素直に帰っていく。
別に悪い奴じゃない。
ただバカな奴なんだ。
多分、この30分で蓮は少し変わった。
なんとなくわかる。
かといって、今やつが戻れば、また最悪の空気になることは目に見えている。
先輩たちのおかげで笑顔を取り戻した新入生たちは、次の練習会に来なくなるだろう。
だから今日は帰らせる。
それでいい。
蓮は帰って行ったが、サブレは疲れているようだ。
「疲れた?」
「疲れたな!」
「お疲れー」
「ありがとー」
「何話したの?」
「人生について」
「説教じゃん」
「説教だな」
「ブスとのエッチなことが?」
「うむ」
こいつはこういうのを照れずに言う。
「いやーしかし」
「ん?」
「しんどいな」
「そんなに?普通に帰らせれば良いじゃん」
「俺が去年、新歓に五十回行った話をしただろう?」
「うん」
「結構いろんなサークル回ったんだがな」
「うん」
「どこもなんかしっくり来なかったんだ」
「言ってたね」
「なんかこう、なんとも言えない違和感みたいなあれが」
「ふむ」
「結局サークル入らなくても良いかなーとか思ってたんだけど」
「そうなんだ。それは初めて聞いたかも」
「そうなんだよ」
「んで、ボケッと座ってたらアフロ先輩が現れてな」
「うん」
「練習に連れてかれてな」
「うん」
「小野ちゃんがアフロ先輩にゲロ吐いて」
「吐いたね」
「アフロ先輩が笑ってて」
「らしいね」
「なんだこの人!かっこいいなおい!って思ったんだ」
「そこで!?」
「ゲロかけられて笑ってる男などなかなかいないな」
「ふふ、確かにね」
「俺が昔偽物の大学生をやった時にゲロを吐いた先輩はブチギレていた」
「サブレもやったの?」
「あぁ。手のひらを出してもらったんだが、先輩の手は少し小さかったみたいだな」
「えぇ……」
「結局、手のひらには収まり切らず、先輩のおしゃれな服はゲロまみれになったよ」
「アフロ先輩の時と一緒だね」
「まぁ、俺はわざと吐いたんだがな」
「ええ!?なんで」
「先輩が真帆をいじめてたから、お灸を据えてやろうと思ってな」
「そうなんだ」
「なんだ。この話はまだしてなかったか」
「どうせだったらもっと早く教えてくれればよかったのに」
「なぜ?」
「先輩ゲロぶっかけ仲間じゃん」
「うむ。俺は最初からそう思っていたが、片思いだったみたいだな」
「今日から両思いだね」
「ふっ。そんな色っぽいものではないだろう」
「そうかな」
「まぁ、そんなこともあって、『リプトンいいな』って思ったわけだ」
「なるほど」
「アフロ先輩も俺のこと『このサークルに合ってるよ』って言ってくれて」
「ちょっと似てるもんね」
「最高の褒め言葉だな」
「アフロ先輩かっこいいもんね」
「ああ」
「続けて」
「今年は俺が後輩にそれを言う番かと思って楽しみにしてたんだがな」
「あぁ」
「だから頭も坊主にしたわけだ」
「アフロ先輩リスペクトで坊主にしたんだ」
「そう」
「似合ってるよ」
「何せアフロ先輩に紹介してもらったカリスマ美容師の作品だからな」
「カリスマなの?」
「去年のカズヤの金髪も彼の作品だったらしい」
「そんなことある!?」
「因果だな」
「因果だねぇ」
「話が逸れたな」
「戻して」
「まさか自分が新入生を追い出す事になるとは思ってもなかったんだ」
「あぁ」
「なかなか言い出せなくてな」
「確かにね」
「しかも蓮と話してるうちに楽しくなってきちまってな」
「楽しそうだったね」
「いやー、まいった」
「ブスとのエッチな話はまだ聞いたことがなかったな」
「まだその話は仕上がってないんだ」
「仕上がったら聞かせてね」
「うむ」
「楽しみにしてる」
「しかし、チョモランマを一杯飲むのに30分は最長記録だな」
「確かに」
「戻るかー」
「戻るの?」
「戻らないのか?」
「戻るかー」
「うむ」
……。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




