これは私の"意思"である①
私は理性的な人間だ。
くだらない噂を立てられようと、
それを信じたサークルの同期に『筆おろし、してください』と土下座されようと、
おちんちん侍に獲物扱いされようと、
そんなことはどうでもいい。
くだらない噂に食いついてきて、デカい声で下品なことを叫ぶ一年坊主の相手なんてお手のものだ。
少なくとも自分ではそう思っている。
しかし、さっきのバカにはちょっとだけムカついていた。
……ちょっとだけね。
いや、正直に話そう。
ブチギレかけていた。
普段だったら雑に扱われることには慣れているはずなのに。
なぜだか今日はムカついてしまった。
なぜだろう。
だから、サブレがあのバカを連れて行ってくれた時はホッとした。
怖かった。
助けてほしい。
そんなんじゃない。
私はそんな雑魚女ではない。
うちのバカが野良のバカを連れて行かなければ、
怒りのあまり理性を失ったチビ女の姿を他の後輩に見せるところだった。
これに尽きる。
最近知った事実だが、私は意外とキレやすいらしい。
そしてキレてしまうとろくなことにはならない。
場合によっては殴られることもある。
次は殴り返すつもりだがな。
アフロ先輩にも心配をかけた。
なんなら周りの先輩たちも、あからさまではないが、気にしているようだ。
ただ、今は新歓の真っ最中。
野生のバカが作った悪い流れを変えていくのも先輩の役目だ。
少なくとも、この一年、私はリプトンでそう学んだ。
カズヤは向こうでまだ「童貞ラップ」を擦り続けている。
奴も頑張ってはいるものの、流石に後輩たちも飽きてきたようだ。
アフロ先輩が酒を持ってきてくれた。
「ちょっと空気が重いねえ」
「そうですね。すみません」
「小野ちゃんのせいじゃないよ!任せて任せて」
そう言って三年生を何人か集めたアフロ先輩は、それぞれの卓に精鋭を回した。
大学生活も三年目ともなると、皆持ちネタの一つや二つ持っている。
エピソードトークの中から、まだバケの皮を被った新歓にふさわしい切り札をそれぞれ切っているようだ。
ある者は、海外短期留学中に起こった小さな恋の話を。
ある者は、講義中、教授が本来流してはいけない動画を流してしまった話を。
ある者は、カリスマ美容師に依頼をし、毛量が爆発的に増えた話を。
汚れのない新入生たちがドン引きしないラインを見極めながら、面白い話を繰り広げ、場を暖めていく。
私も負けてはいられない。
大学生活も二年目となった文学女子の威厳を見せてやろうと意気込む。
……。
くそっ。
バカと酒。
イケそうな女に群がるつまらない男。
ゲロ。
何も知らない後輩に聞かせられる話を持っていない。
……クソっ!
私はこの一年何をやっていたのだ。
まぁいい。
私は元来自分から積極的にマイクを持つタイプではない。
漫画やアニメ、履修登録等の話を雑談で持ち出すこと。
テニス初心者でもサークル活動を楽しめること。
先輩たちはみんないい人であること。
そんな雑談を繰り広げることくらいは可能だ。
幸い、場の空気は先輩たちが作り直してくれた。
私も戦力になろう。
ん?
視界の端で、恵美子さんが蓮の荷物をまとめている。
「何してるんですか?」
「多分戻ってこないと思うから、荷物を持って行こうかなと」
「私行きますよ」
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
心配などいらない。
別にバカを連れて行ったバカが気になるわけでもない。
恵美子さんにはまだまだこの場で後輩を盛り上げる仕事が残っている。
バカとゲロとつまらない男の話しか持ってない私ができる仕事をする。
それだけだ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




