渾身のモテ講座②
今年も色々な一年生が来た。
異様に声の大きい男。
テニス経験者なのに初心者のふりをする女の子。
大学へ入って三週間なのに、すでに「大学って人脈っすよね」と言っている男。
サブレに向かって、
「先輩、絶対遊んでますよね?」
と初対面で聞き、
「めちゃめちゃ遊んでるよ」
と返されて喜んでいる女の子。
なぜ喜ぶのだろう。
カズヤに、
「これ食べてください!」
と自分の靴下を差し出した背の高い女もいた。
カズヤは美味しそうにそれを食べてひと笑いとっていた。
成長したものだ。
少し安心する。
「今年、一年生のキャラ濃くない?」
私が言うと、サブレが笑った。
「いいじゃないか。バカは多ければ多いほど楽しいものだ」
それはそうかもしれない。
◇
しっぽり平和な飲み会の中で、明らかな異物が存在していた。
金髪。
鼻ピアス。
よく喋るイケメンのチャラ男。
藤原 蓮は浮いていた。
リプトンは基本的に来るもの拒まず去る者は追いかける精神。
一度引き摺り込まれたら二度と出られない蟻地獄のようなサークルだ。
まぁ、引き摺り込まれることに救われる者もいないことはない。
ただ、この蓮という男。
とんでもない無礼者だ。
今も、後輩の前で格好つけているカズヤを捕まえて
「でも、先輩って大学デビューっすよね?なんか童貞っぽいっすね」
などと突然のマウンティングを仕掛けている。
対するカズヤは
「一年。言うじゃねえか」
「そんなに知りてえか!俺が童貞か!」
「おい!サブレぇ!」
「ミュージックスタート!」
突然下手くそなボイパを始めるサブレ。
「YO! YO! 聞けお前ら!!」
「……始まったぞ」
「泣く子も黙る童貞DA!!
二十歳を越えても童貞DA!!
大学デビューに失敗!!
揉んだことにされたOPPAI!!」
「揉んでねえの?」
「揉んでねえYO!!」
そこは普通に答えるんだ。
カズヤがジョッキを掲げた。
「男子校育ちで女はいない!!
一浪したけど余裕もない!!
髪を染めたら黄色になった!!
俺の青春どこへ行った!!」
知らねえよ。
「YO!!
瞬足履いて大学へ!!
女を求めて新歓へ!!
テニサー入って人生逆転!!
するはずだったが未だに童貞!!」
ちゃんと韻踏もうとすんな
「俺の名前は中村和也!!
金髪!!短足!!顔オタク!!」
最後だけ悪口じゃん。
「だけど心はチャラ男DA!!」
カズヤは止まらない。
「でも俺は負けない!!
童貞だからって恥じてはいない!!」
さっきからずっと恥じてるだろ。
「いつか出会える運命のLADY!!
それまで守るぜ俺のCHERRY!!」
<うおおおおお!
<カズヤー!!!
<オトコオトコー!
拍手が鳴った。
……。
こっそり練習していたのはこれか。
去年の夏、蓮のような集団に同じように『大学デビュー』をいじられ、泣きそうになっていたカズヤはもういない。
子供用運動靴を脱ぎ捨てて、立派な先輩として、酒を飲ませずとも練習した『自虐ラップ:泣く子も黙る童貞DA!』で後輩を盛り上げている和也を見て少し感動した。
さておき、カズヤのラップを引き出した蓮はどこへいったのだ。
いた。
少し離れた席で、一年生の女の子を口説いていた。
忙しい男である。
「彼氏いるの?」
「いないけど」
「じゃあ俺と付き合おうよ」
「えー、やだ」
女の子はあまり笑っていなかった。
蓮は笑う。
「なんで?」
「軽そうだから」
「俺、全然軽くないよ」
「絶対嘘」
「じゃあLINE教えてよ。俺が誠実な男だって証明するから」
何をどう証明するつもりなのだろう。
ただ、女の子は困った様子でトイレに行ってしまった。
んー。
これはまずいなあ。
この一年で成長したカズヤはチャラ男にマウンティングを挑まれた程度で動じる男ではなくなっていた。
少なくとも、リプトンで過ごしてきた連中は、この程度のチャラ男には慣れている。
しかし、一年生は別だ。
私だって最初にサブレを見た時は正直に言えば怖かった。
なんなら今でもこいつのことは違う生き物だと思ってる。
ただ、
あいつはチャラい男前のくせに、
怖がられないように、髪を黒くしたり、
なんなら丸刈りにしたり、
平気でする。
ヘラヘラしたオーラを出している。
良くも悪くもそのオーラは人の警戒心を解いてしまうのだ。
蓮は違う。
チャラい金髪とチャラいピアス。
意識してやっているのかは分からないが、蓮が声をかけるのは、なぜかうちの新歓に来てくれている大人しいタイプの子が多かった。
実際、怖がっている子もいるようだ。
そんなことを考えながら蓮を観察していると、
目が合った。
おい。
こっちに来るな。
「小野先輩!」
「なんだね」
「小野先輩って遊んでるって噂聞きましたけど、マジっすか?」
周りの空気が凍る。
「どうしたの突然」
「なんか、他のサークルの新歓行った時に聞いたっす」
「どこで?」
「忘れました」
……なんだこいつ。
「そう」
「んで、どうなんすか」
…あぁ。
「別に」
「俺も立候補していいですか!」
ウゼェ!
「あのさ———」
言いかけたところで、
ぬるっと、目の前にビールを並々注いだでかいジョッキが現れた。
「チョモランマするか?」
チョモランマが現れた。
「なんすかチョモランマって!」
「これだ」
チョモランマを見せつける。
そして。
一気に行った。
「おおぉ!」
拍手する蓮。
「ちょっと外で飲もうじゃないか」
と言い、2杯のチョモランマを持ち、蓮と二人で出ていくサブレ。
「小野ちゃん、大丈夫?」
アフロ先輩が声をかけてくる。
「え?今日は吐いてませんよ」
「そうじゃなくて」
「なんか言われてたじゃん」
「まぁ」
「前、カズヤが『そういう噂やめませんか』とか言ってて」
「え」
「嫌なのかなって」
「まあ」
「だから」
「大丈夫ですよ」
「ならよかった」
「どうでもいい人に何て思われても気にしません」
「小野ちゃん」
「はい」
「飲むか!」
「はい!」
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




