親友②
タカシと飲むのにそんなに良い店に入る必要もないだろう。
俺たちは地下にある安居酒屋で飲むことにした。
小野ちゃんとタカシはだいぶ飲んだみたいで、小野ちゃんはへべれけだ。
俺たちが来なかったら今頃小野ちゃんは性病をもらっていたかもしれない。
あの頃のタカシはまさに『おちんちん侍』の名を欲しいがままにしていた男だったからな。
案内されたテーブル席では、俺の正面にタカシ、右隣に小野ちゃん、小野ちゃんの正面にカズヤが座る形になった。
……。
小野ちゃん、今日はタカシとデートだったんじゃないのか?
そっちに座らなくて良いのか?
まぁ、俺は嬉しいが……。
「しかし、サブレ!ひっさしぶりだなあ!元気だったか?」
「本当にな。見ての通りピンピンしている」
「カッカッカ!相変わらずだな!」
……。
「タカシこそ、相変わらずビンビンしてるな」
「お前に邪魔されたところだけどな」
「ふっ。お前の『妖刀』もたまには休息が必要だろう」
「ちげえねえ!」
小野ちゃんとカズヤが驚いている。
無理もないか。
OBの隆史さんが急に伝説の『おちんちん侍』になったわけだもんな。
「タカシ、『チョモランマ』にはまだ行くのか?」
「たまにな。やっさんまだいるよ」
「知っている。この間会いに行った」
「誘えよ」
「誘っただろう。この日空いてるか?って」
「誘うときに要件を言わないのは悪い癖だぞ」
「要件次第で空く用事だったのか?」
「いや、デートだった」
「ならばいずれにせよ変わらんだろう」
「そんで?」
「やっさんは心配していたぞ」
「何を?」
「有名企業に就職して調子に乗ってるタカシが変な病気をもらわないかってな」
「俺をなんだと思ってやがる」
「おちんちん侍だな」
「病気は無いな」
「うむ。二度同じ失敗を繰り返すのは愚か者がやることだ」
「ここでその話をするんじゃねえ!」
ふむ。
病気は治ったのか。
む。
小野ちゃんが「病気」という単語に反応している。
まぁ、小野ちゃんもまだ二十歳だ。
冒険をすることもあるだろうが、病気のリスクに関してはあまり考慮していなかったのだろうな。
俺とて、タカシのような被害者であり加害者が身近にいなければ、さほど病気など気にしてはいなかっただろう。
小野ちゃんならなおさらだ。
良い教訓になれば良いのだが。
◇
……。
「———次やらなきゃいいでしょ」
「やらない!」
「声大きい」
「ごめん」
「筆は自分でおろしなよ」
ふぐっふふ。
小野ちゃんとカズヤも仲直りできたようだ。
『筆は自分でおろしなよ』
か。
思わず笑ってしまった。
うまいことを言うではないか。
ふむ。
こっちはこっちで楽しもう。
……。
三年の空白を埋めるように、俺とタカシは色々な話をした。
チョモランマのやっさんが、実はその界隈では有名な料理人だった話。
ナンパしてきた他サークルのチャラ男を、恵美子さんがテキーラ入り水鉄砲で撃退した話を聞いて、タカシは苦笑いしていた。
小野ちゃんがアフロ先輩の頭にゲロを吐いた話は、タカシも聞いたことがあったみたいだ。
ふっ。
話題に尽きることなど永遠になさそうだ。
久しぶりに会ってもこれだけ気軽に話せる。
これが親友というやつなのだろうな。
まぁ、このバカは調子に乗るだろうし、口には出さんがな。
ふむ。
「なあサブレ、相変わらずモテてんの?」
「サークルではなんもないな」
「サークルでは、って何だよ」
「言葉通りだ」
「変わってねえじゃん」
「タカシは?」
「俺?」
「まあ、ぼちぼち」
「やっさんにも聞いたが、相変わらずおちんちん侍なのか?」
「四十万石どころか今は百万石の領主だな」
「加賀藩並みだな。出世したものだ」
「登り竜さ」
ふっ。
あの童貞の足軽が出世したものだな。
調子に乗って性病にまでなりやがって。
カズヤのロールモデルにならないことを祈ろう。
「でもお前も人のこと言えねえだろ」
「俺か?」
「そりゃ俺がおちんちん侍なら、お前はマシンガンチンチンだな」
「乱射した覚えはないんだがな」
「そうやって月曜から土曜の女を作ったのか」
「ふっ。日曜日はタカシだったな」
「誤解を招く言い方をするな」
ふむ。
彼女たちは今頃何をやっているのだろうか。
元気でやっていると良いのだが。
……。
小野ちゃんがへべれけだな。
「小野ちゃん、飲んでるか?」
「飲んでる」
「結構酔ってないか?」
「大丈夫《らいじょゔ》」
「『大丈夫《らいじょゔ》』は信用できないんだが」
「なんれ?」
「俺、初対面でゲロ吐かれてるからな」
「吐かれたのはアフロ先輩れしょ」
呂律が回っていないな。
「俺も片付けたから被害者みたいなもんだ」
「被害者れはらい」
「じゃあ共犯者か」
「何の?」
小野ちゃんはへべれけだ。
……。
酔っ払った小動物みたいだ。
可愛いな。
俺は可愛い生き物を見ると、つい撫でてしまいたくなる。
だから小野ちゃんを見ていると、我慢するのが大変だ。
別に、撫でたところで怒られないだろう。
顔が良いからな。
しかし、それとこれとは話が別だ。
まったく。
困ったものだ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




