親友①
「筆おろし事件」から少し経った。
ちょっとギクシャクしている感じがするが、小野ちゃんとカズヤはまぁ、普通に話す程度には話している。
ただ、以前のような距離感ではない気がする。
「サブレー」
「ん?」
「手」
「おう」
「ふんっ」
パシっ!
「ふんっ」
パシッ!
小野ちゃんのパンチは少しずつ強くなってきた。
練習の成果が出ている。
まぁ、まだ成人男性と戦えるかといえば怪しいが。
一日三食、食えていないくらいの雑魚なら良い勝負ができるくらいにはなってきたな。
◇
久しぶりに一日寝過ごしてしまった。
今日はリプトンに顔を出したかったのだが……。
まぁいい。
過ぎたことは考えても仕方がない。
カズヤでも誘って飲みに行くかー。
お、ちょうどいいところにカズヤから電話だ。
———トゥルルル
「なんだ?」
『サブレやばい!』
「何がやばいんだ?」
『小野ちゃんが食われちまう!』
「それはやばいな」
『チャラいOBと二人で飲みに行っちまった!とにかく来てくれ!』
「ふむ。ちょっと待っとけ」
チャラいOBかぁ。
俺はあまり他人の色恋沙汰に首をつっこみたいタイプではないんだがなあ。
小野ちゃんだって馬鹿じゃないんだ。
避妊くらいはちゃんとするだろう。
あとは病気か……。
まあいい。
いざとなったらタカシに行きつけの病院を紹介してもらえばいいだけだ。
成人女性が成人男性と飲みに行くことくらい、いくらでもある。
……。
俺の気にすることではない。
まぁ、とにもかくにも。
飲みに誘う手間が省けたな。
◇
「おす」
「おせえよ!もう店入っちゃったぞ!」
「お前、ストーキングしてたのか」
「人聞きが悪いな!小野ちゃんが危ないんだぞ!」
「お前が一番危ない奴じゃないか」
「このあとどうしよう……」
「入ってからどのくらいだ?」
「三十分くらいだ」
「そしたらしばらく出てこないだろ」
「じゃあどうすんだよ」
「あそこの店で入口を見ながら飲んでいれば、出てきたらすぐわかるんじゃないか?」
「さすがストーキングのプロだな」
「ふっ。伊達に四十度の熱を出した経験があるわけじゃないさ」
「まさかそのクソみたいな経験が役立つとはな」
「行くのか?行かんのか?」
「行こう」
「うむ」
◇
「とりあえず生二つお願いします」
「かしこまりやしたー」
あそこで小野ちゃんがすけべなOBと飲んでるのかぁ。
「おまたせしゃしたー生二丁ですー」
「あざす」
「とりあえず飲むかー」
「うす」
「乾杯」
「乾杯」
んー。
サーバーの洗浄があまいな。
まあいい。
「して、そのOBというのは何者なんだ?」
「お前、OBの隆史さんには会ったことないのか?」
「無いな」
「たまーに日曜日に遊びに来るんだけどさ」
「それでか」
「何が?」
「俺、日曜日はバイトであまり行けてないからな」
「あー確かに!」
「して、その隆史さんとは何者なんだ?」
「アフロ先輩みたいにテニスが上手いわけではないんだけど、初心者に球出しとかしてくれるんだよ」
「いい先輩じゃないか」
「顔も結構かっこよくて、上場企業に勤めていて、就活の相談なんかにものってくれるんだ」
「いい先輩じゃないか」
「金もあるから、練習終わりに後輩を飲みに連れていってくれたりして、普通にモテるんだよ」
「そりゃあモテるだろうな」
「問題はそうだな。もちろん男も飲みに連れていってくれるんだが、二次会に行こうと思うと、スッと消えていることがある」
「社会人だもんな。次の日は仕事があるんじゃないか?」
「さっきまでいた女子が、一緒に一人消えてるんだよ」
「それは、ホラーだな」
「だろ?」
「まぁ、女慣れしていて、モテる先輩だったら、女子の方も別にまんざらでもないんじゃないか?」
「まぁ、そうなんだけどさ。とにかく女癖が悪いって有名なんだよ」
「なるほどなー。そうなると病気がちょっと心配だな」
「病気よりも小野ちゃんの貞操を心配してくれよ!」
「それは俺たちの及び知るところではないだろう」
「サブレは小野ちゃんが心配じゃないのか?」
「聞く限りそんな悪い先輩ってわけでもないしなあ」
「このやろうめ」
「『ヤッた』、『ヤらない』で傷ついたりするかは本人次第だろう。小野ちゃんは成人女性だぞ」
「サブレ!冷たいぞ!小野ちゃんはお前のこと好きじゃん!」
「俺も別に小野ちゃんのことは、好きではあるが、それとこれとも話が違うだろう」
「煮え切らねー奴だなあ!クソハーレムラッキースケベが!」
「褒めているのか?」
「褒めてねーよ!」
んー。
小野ちゃんはチェックシャツの男に抱かれるのは嫌みたいなことを最近言っていたが、良い男に抱かれるのが嫌だとは聞いてないしなあ。
遊び人の先輩とはいえ、小野ちゃんを雑に扱ったりはしないだろうし……。
「サブレ」
「ん?」
「出てきた!追うぞ!」
「ちょっと待て、会計は!?」
「すませてきた!」
「お前はなんでそれを女とのデートでできないんだ!?」
「童貞に難しいことを聞くんじゃねー!行くぞ!」
「おう」
……。
◇
おっ、小野ちゃんだ。
後ろ姿だからわからんが、男の先輩と歩いているな。
手を繋いでいるな……。
やるじゃないか。
俺と同じくらいの身長か。
チビではないな。
顔は……よく見えん。
「カズヤ——」
カズヤはすでに走って小野ちゃんを追いかけていた。
……。
ばかたれめ。
くそっ酔っ払いを走らせるんじゃない。
ふぅ。
追いついたか。
……ん?
……んんん?
タカシじゃないか。
「あれ?タカシだ」
「……サブレ?」
「うわ、やっば!タカシだ!久しぶりじゃないか!」
おお!タカシだ!
久しぶりじゃないかタカシ!
「サブレじゃん!何してんの!?」
「見ての通り、大学生だが?」
「それは知ってるよ」
何年ぶりだ?
俺が東京から福島に帰ってからだから……。
三年ぶりとかか?
いやー!
タカシこんなところで何やってるんだ!
「タカシこそ何しているんだ?」
「見りゃ分かんだろ。飯」
お、小野ちゃんじゃないか!
こんなところで何をやっているんだ?
ん?
……。
タカシと小野ちゃんが手を繋いでいる。
……。
ンンン?
「小野ちゃんだ」
「……うん」
「何しているんだ?」
「見れば分かるでしょ。飯」
「タカシとか?」
「そうだけど」
意味がわからない。
「ていうか、知り合いなの?」
それは俺が聞きたいところなんだが。
「知り合いというか、昔バイトが一緒だったんだ」
「居酒屋?」
「そうそう」
「チョモランマ?」
「うむ」
「……もしかして」
何かに気付いたのか、小野ちゃんがタカシのほうを向いた。
「なに?」
「おちんちん侍タカシ?」
!?
小野ちゃん!
大正解だっ!
「ハハハハハ!」
「お前、何話してんだよ!」
「いや、話すだろ!」
「ふざけんなよ!」
そんなことがあるのか。
そういえば、今日はカズヤに『小野ちゃんの貞操が危ない』と呼ばれて来たんだったな。
しかし、そのチャラいOBの隆史さんの正体がおちんちん侍タカシだったとは……。
面白すぎんだろ!
「隆史さんだったんだ」
「何をどこまで聞いてんの?」
「ハプニングが起こるバーで」
「おい」
「頭にちんちんの偽物を付けているから『おちんちん侍』と呼ばれていて」
「おい!」
「翌週には三人の女を並べて、匂いだけで処女を見分けたから『ユニコーン』とも呼ばれたという話が一番印象的でした」
「最悪だよ!」
「大丈夫ですよ」
「何が?」
「面白かったので」
「大丈夫じゃねえよ」
あは、あはは、あははははあ!
あー、腹が痛い!
面白すぎる!
あはははあ!
そっかー!OBの隆史さんはタカシだったかー!
なるほど、俺がサークルに行けない日にこいつはサークルに来ていたのか。
ニアミスだな。
———
「なるほど。どうやらニアミスしていたみたいだ」
「再会を祝して飲み行くしかないな!」
「今から?」
「久しぶりじゃないか。カズヤもいるし」
「俺はいいけど、小野ちゃんは?」
おっと、タカシと久しぶりに会って浮かれていたが、二人はデートの最中だったか。
……。
タカシは良い奴なんだがなぁ。
女癖は確かに悪いんだよなぁ。
結構雑に女を扱うしなぁ……。
こいつは童貞を卒業してから調子に乗っているところがあったが、それが三年でどこまで成長したのか……。
それが問題だな。
あと、病気のリスクが『OBの隆史さん』とは比較にならなくなったぞ。
俺は、色恋沙汰に口を挟むタイプではないが……病気はまずいよなあ。
「行きましょう」
「よし!」
なんとか、小野ちゃんを性病から守れそうだ。
「まあ、いっか」
タカシも楽しそうだ。
いやー!久しぶりにタカシと飲むなあ!
楽しくなってきたぞっ!
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




