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眠れる森のユニコーン②

店を出た時には、かなり酔っていた。


世界が回るほどではない。


歩ける。


会話もできる。


ただ、判断力については多少の値引きが必要だと思う。


「大丈夫?」


「大丈夫です」


「ほんと?」


「多分」


「多分なんだ」


隆史さんが笑った。


夜風が気持ちいい。


隆史さんは自然と私の手を握っていた。


いつの間に……。


さて。


ここからどうするのだろう。


隆史さんはまだ何も言わない。


駅へ向かうのか。


二軒目へ行くのか。


ホテルへ行くのか。


多分、最後だろう。


今日、私はこの男と寝るのだと思う。


特に嫌ではない。


むしろ、ここまで奢られて、散々酒を飲んで、最初から相手の意図もある程度分かっていた。


もちろん、だから寝なければならないという話ではない。


奢られた食事と性行為に交換関係は存在しない。


嫌なら今からでも帰る。


それくらいは分かっている。


ただ。


別に嫌ではない。


かなり酔っている。


そして今から改めて、


「やっぱり帰ります」


と切り出すのも少し面倒くさい。


まあ。


『これはもう断れんなあ』


くらいなもんだ。


そんなことを考えていた時だった。


「あれ?タカシだ」


聞き慣れたバカの声がした。


隆史さんが足を止める。


私も止まった。


振り返る。


「……サブレ?」


「うわ、やっば!タカシだ!久しぶりじゃないか!」


バカがいた。


すごく嬉しそうだ。


なぜかカズヤもいた。


意味が分からない。


「サブレじゃん!何してんの!?」


隆史さんが笑う。


「見ての通り、大学生だが?」


「それは知ってるよ」


「タカシこそ何しているんだ?」


「見りゃ分かんだろ。飯」


そこでサブレが私を見た。


「小野ちゃんだ」


「……うん」


「何しているんだ?」


「見れば分かるでしょ。飯」


「タカシとか?」


「そうだけど」


サブレが笑った。


腹が立つ。


私はかなり酔っている。


カズヤは妙に目を泳がせている。


何なのだろう。


「ていうか、知り合いなの?」


私が聞くと、二人が顔を見合わせた。


「知り合いというか」


サブレが笑う。


「昔バイトが一緒だったんだ」


「居酒屋?」


「そうそう」


「チョモランマ?」


「うむ」


居酒屋。


日吉大学。


バイト。


タカシ。


頭の中で、いくつかの情報が繋がった。


「……もしかして」


隆史さんを見る。


「なに?」


「おちんちん侍《ざむらい》タカシ?」


数秒、沈黙した。


サブレが吹き出した。


「ハハハハハ!」


隆史さんがサブレを睨む。


「お前、何話してんだよ!」


「いや、話すだろ!」


「ふざけんなよ!」


そんなことがあるのか。


この男だった。


サブレの昔話に何度も登場した、日吉大学のタカシ。


サブレを新入生でもないのに日吉大学の新歓へ連れていき、結果として真帆さんと出会わせた男。


そして。


おちんちん侍タカシ。


「隆史さんだったんだ」


「何をどこまで聞いてんの?」


「ハプニングが起こるバーで」


「おい」


「頭にちんちんの偽物を付けているから『おちんちん侍』と呼ばれていて」


「おい!」


「翌週には三人の女を並べて、匂いだけで処女を見分けたから『ユニコーン』とも呼ばれたという話が一番印象的でした」


「最悪だよ!」


「大丈夫ですよ」


「何が?」


「面白かったので」


「大丈夫じゃねえよ」


サブレがまだ笑っている。


「いやー、ものすごい偶然だな。どこで小野ちゃんと知り合ったんだ?」


「リプトン」


「何?」


「リプトンの練習にたまに顔だしてた」


「なんでだ?」


「OBだから」


「リプトンの?」


「あぁ」


「軽音だったじゃないか」


「テニスもやってたんだよ」


「そんなことも言ってたな」


「それがリプトン」


「日吉のテニサーじゃなかったのか」


「インカレって言ったろ」


「インカレが何かわかってなかったみたいだな」


「あぁ」


「何曜日に来てたんだ?」


「たまーに日曜の練習とかだな」


「日曜は大体バイトだな」


「なるほど。どうやらニアミスしていたみたいだ」


「再会を祝して飲み行くしかないな!」


「今から?」


「久しぶりじゃないか。カズヤもいるし」


「俺はいいけど」


隆史さんが私を見る。


「小野ちゃんは?」


正直、もうかなり酔っている。


このまま隆史さんと二人でどこかへ行く覚悟はあった。


しかし、目の前には嬉しそうなサブレがいる。


その横には、なぜかカズヤもいる。


さらに、隆史さんの正体は伝説の侍ときた。


……。


ここで、


『いえ、私たちはこれからホテルへ行く予定なので』


と言うほど面の皮(つらのかわ)が厚くはない。


「行きましょう」


「よし!」


サブレが嬉しそうに笑った。


隆史さんも、


「まあ、いっか」


と笑った。


この男もこの男で、友人との偶然の再会を捨ててまで私を持ち帰ろうとは思わないらしい。


女癖が悪いことと、友達を大事にすることは両立する。


考えてみれば当然だった。


人間の性格は、一つの形容詞ですべて説明できるほど便利にはできていない。






※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


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