酔っ払い小話「豪雨」
うわー。めっちゃ雨降ってる。
どうしよ。
傘が無い。
んんーーー。
一限のフラ語、出欠厳しいんだよなぁ。
やり過ごせる感じの雨じゃないけど……。
二年生になってフラ語やり続けるよりはましかぁ。
くそっ。
うう。
冷たい。
めっちゃ降ってるじゃん。
こりゃなんとか教科書だけでも守らなきゃ。
……。
?
雨が止んだ?
いや、誰かが傘に入れてくれてる。
あれ。
……!?
サブレさんだ。
「?」
「ん?」
「……」
「あぁ。勝手にすみません。濡れていたので」
「あ、いえ、ありがとうございます」
「ご迷惑でなければ、同じ方向に進んでいるうちは、入っていきますか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「雨、すごいですね」
「いやあ、あはは、助かりました」
「……」
(ち、近いなぁ……うう……顔が綺麗すぎる)
「……」
(な、なんか話した方がいいかな……)
「……」
(いや、話すことなんてないな)
「……」
(どうしよ、ちょっと濡れちゃったけど、私、変な匂いしてないかな)
「……」
(傘、めっちゃこっちに寄せてくれてる)
「……」
(サブレさん、右側べっちゃべちゃじゃん)
「……」
「……」
「あ、俺、大学ここなので、この傘使ってください」
「え!?」
「教室まではまぁ、走ればなんてことはないので」
「あ、あの」
「どうぞ。それでは!」
「……」
マジか……。
サブレさんに傘をもらってしまった……。
同じ学部の有名人。
入学式のオリエンテーションから一人浮いてたヤバい人。
ジャラジャラとピアスをつけている。
チャラついたテニサーのイケメン。
なんか、『新歓で100人持ち帰った』みたいな噂があったりなかったり……。
あの感じでいっつも講義中は教授の目の前の席に座って割と真面目にノートを取っている。
でも、見た目がアレだから、結構悪い噂も多い。
何かと目立つ人だから、サブレさん自身と関わりのない、同じ学部の人間でも、サブレさんのことを知っている人の方が多いと思う。
……。
でもさ。
……。
でもさぁ!
ガラッ——
「……」
「ん?」
「……」
「え!?」
「……」
「お姉さん。こんなところまで傘を返しにきてくれたのですか?」
「……」
「コンビニのビニール傘なんて返しに来なくてもよかったのに」
「……」
「予定は大丈夫だったんですか?」
隣に座った。
「私も同じ授業」
「え?」
10人程度しかいないフラ語で同じクラスの人間くらいちゃんと覚えておいてくれよ!
「隣、座っていいですか?」
「あ、あぁ。いいですよ」
「ねえ」
「はい」
「サブレさんですよね?」
「はい」
「二十二歳って本当ですか?」
「はい」
「なんで敬語なんですか?」
「初対面なので」
「初対面ではないよ!」
なんか、全然噂と違うな。
怖いのは見た目だけじゃん。
「お姉さんのお名前は?」
「飯島桜子」
「いい名前ですね」
「サブレさん」
「はい」
「タメ口でお願いします」
「はい」
「タメ口でお願いします」
「……おう」
「ふふっ。何よ『おう』って」
「他になんと言えば良いんだ」
「ちょっ喋り方ツボなんだけど!」
本当に私のこと認識していなかったんだ。
こんなの無理じゃん。
意味わかんない。
「無礼者だな桜子ちゃん」
「あはは!『無礼者』って!」
「ぐぬぬ」
この顔で、知らない女に傘を渡して、名乗らずに去っていくって、少女漫画じゃん。
ベタすぎる!
この顔で!
ベタすぎる!
「何食べてるの?」
「ハイチュウ。グレープ味だが……」
「ハイチュウ……」
「いるか?」
「いる」
「|S'il vous plaît.《シル・ヴ・プレ》」
「Merci.」
「うまいか?」
「おいしい」
「それはなによりだ」
この人、この顔でハイチュウ食べてるよ!?
しかもくれるんだ……。
「サブレさん」
「ん?」
「今日、夜暇?」
「暇だな」
「飲み……行かない?」
ははは。
『サブレは新歓で100人の女を持ち帰った』
……。
あはは。
持ち帰ってるのは女側の方なんじゃないかな!?
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




