↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/126

卒業への第一歩だな③

「今のところ、落ち度はなさそうだな」


「ほんでな、褒めたんだよ」


「おお」


「『小野ちゃんって、メガネ外すと可愛いよな』って」


「メガネをかけていても可愛いだろうが」


「あとは、『彼氏はつくらないのか?』って」


「DV子猿と最近別れたばかりじゃないか」


「一応な」


「まぁ、別れてすぐ彼氏ができるってのもよくある話だしな」


「そう。だから、『小野ちゃんはモテそうだよな』って」


「ちょっとこの会話はイマイチな気がするな」


「あぁ。一瞬、俺たちの温度が下がった気がしたんだ」


ふむ。


まぁ、童貞の先走り汁が漏れ出したような会話だが、許容範囲内だ。


小野ちゃんのブチギレを引き起こす水準ではない。


しかもこいつだって空気を読んだわけだもんな。


まだ軌道は修正できるさ。


「お前も空気が読めるようになったんだな」


「あぁ。ほんでな、俺のとっておきのネタを披露したんだ」


「ほう」


「テキーラを二杯頼んで、『こちらのお客様からです』って」


「それは俺の持ちネタだろう」


「お前がいない時くらい使わせろよ」


「まぁ、いいだろう」


「若干滑ったけど、滑り笑いとしては機能した」


「人のネタを勝手に使って滑ったのか!?」


「これは多分ネタが悪いな」


「くそっ」


「まぁ、ここで一杯目の高アルコールドリンクが投入された」


「ふむ」


「小野ちゃんはテキーラを一口で飲みきり、レモンを齧《かじ》った」


「さすがだな!」


「なんだかその唇を見ていると、ムラムラしてきちまったんだ」


「お、おう」


「一歩踏み込んで、『初体験はいつ?』って聞いてみたんだ」


「おま、それはお前、セクハラだろ」


「小野ちゃんは笑ってくれたぞ」


「気を使わせたんだよ」


「冷静に振り返れば、俺にもわかるさ。そのくらい」


「そうか。余計なお世話だったな」


「だが、その時の俺は冷静じゃなかったんだ」


「ふむ」


「『初体験はいつだ?』、『年上と付き合ったことはあるのか?』、『ワンナイトの経験は?』」


「お前!あのバーでいきなりAVの入りみたいなインタビューを始めたのか!?」


こいつ。


バカだとは思っていたが、ここまでバカだったのか!?


面白すぎるだろ……。


「あぁ。正直、その時点では相当うまくいってると思っていたんだ」


「それは冷静さが足りなかったな」


「そうなんだよ。小野ちゃんは笑っていたし、お互い猥談を楽しんで、次へ向けての助走をつけている気分だった」


「小野ちゃんはなんて答えていたんだ?」


「それがな……。後になって気づいたんだが、明確な答えが返ってきていなかったんだ」


「お、おう」


「俺の独り相撲だったんだ」


「散々だな、小野ちゃん……」


「すまねえ、小野ちゃん」


「まぁ、そこまで露骨なセクハラをしてしまったのであれば、お前のその落ち込みようも無理はないな」


「ああ」


「大丈夫だ。小野ちゃんは体は小さいが器の大きい女だ。童貞の戯言など、笑って許してくれるさ」


「そうなんだよ。小野ちゃんはまだその時は笑って許してくれていたと思う」


「まだこの先があるのか!?」


寒気がした。


こんなバカが世の中にいるのかと思うと冷や汗をかく。


というか、これより先があるのか!?


聞くのが怖くなってきた。


「小野ちゃんは、『そろそろ帰ろうか』などと言いながら準備を始めたんだ」


「そうだな。それが正解だろう」


「その時の俺は焦っていたんだ。何せ今日は童貞卒業式の予定だったわけだからな」


「勝手なセレモニーに、小野ちゃんを巻き込むんじゃない!」


「そして気づいた時には……」


「何をしたんだ?」


「土下座していた」


「え?」


「『俺を漢にしてください』」


「……」


「『筆おろししてください!』」


「……」


ひ、ひど、ひどすぎる。


こいつ、頭がおかしいんじゃないのか。


タカシでもここまでの話は聞いたことがなかったぞ。


「……」


「筆おろししてください、って言ったのか?」


「言いました」


「土下座もしたのか?」


「しました」


「おしゃれなバーで?」


「しました」


だ、だめだっ!


「ハハハハハ!面白すぎるだろ!」


我慢の限界だ。


「ハッ……腹が痛い……お前……土下座で……童貞捨てようとしたのか!?」


「俺は真剣だったんだよ!」


「ハハ……真剣に……土下座で童貞捨てよう……と……するのは……男らしすぎるな!」


「もう忘れてくれ!」


「クゥ……流石にそれは無理があるだろ」


は、腹が痛い。


勢い余ってビールをこぼしちまった。


何を食って生きてくればこんなバカなことができるんだ……はははぁ!


いや、いかん。


こいつのバカ話は面白すぎるが、新歓を控えた今、結構な事件だぞ。


……。


ばっかすぎる!!!


くそっ。


会話が進まないじゃないかこんなの。


卑怯だぞ!


いや、ふぅ。


ちょっと、冷静に話をす、進めないと……。


クゥ———。


よし。


「で、小野ちゃんはどうだったんだ?」


「リプトンの仲間に噂聞いて『じゃあ俺もいけるかも』って思われるのも嫌だって」


「あー」


小野ちゃんが以前話していたな……。


新歓期に入ろうとしていた、文化系のサークルで、同じ高校の先輩とたまたま会ったこと。


出どころはわからないが、『自分が誰とでも寝る』という噂が、新歓に行ったサークル全てに流れていたこと。


それを知ってか知らずか、二十人以上のチェックシャツの童貞から一生LINEが来ていて、通知音がトラウマになったこと。


……。


笑っている場合ではなかったな。


「それは良くないな」


「……はい」


いや、俺も笑ってしまったんだが、小野ちゃんが傷ついているのであれば、よくないな。


「カズヤ、まさにそれだったんだろ?」


「……はい」


「そりゃ小野ちゃんは嫌だな」


「……はい」


「まあ土下座は面白いが」


「そこはもういいだろ!」


「そこは面白い」


「分けるなよ!」


「そこを分けるのが俺だ」


そう。


カズヤはバカやって小野ちゃんを傷つけてしまったみたいだ。


だが、こいつは小野ちゃんが新歓で何をされたのか知らなかったんだ。


知らなかったからいいってわけじゃない。


だが、バカなんだこいつは。


童貞のバカがやらかすなんてのはまぁ、特段珍しいことではない。


最近、ちょっとはまともになったから油断してしまったな。


しかし、このバカを見ていると、自分が落ち込んでいるのがバカみたいに思えてくるな。


最近若干バッドモードに入っていた俺からすると、このバカの存在はありがたい。


「土下座は面白いが、小野ちゃんが嫌がってんのは面白くないな」


「…………」


「そこを分けて考えるところからだ」


「何が?」


「童貞卒業への第一歩だな」


「そっか」


こいつはバカだが素直なバカだ。


まぁ、なんとかなるだろう。


……。


なんとかなるのか?











※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。