卒業への第一歩だな①
小野ちゃんDV事件から少し経った。
アフロ先輩のおかげで、少し俺も頭を冷やせたようだ。
小野ちゃんが自分の拳で解決しようとしている問題に、俺が無理に首を突っ込む必要はない。
それに、俺まで落ち込んでいたって仕方がないんだ。
それより今は新歓について考える時期だ。
『リプトン』に入ってそろそろ一年。
いろいろなことがあったが……。
やはり初回の新歓飲み会が最もインパクトのあるイベントだったな。
小野ちゃんがアフロ先輩にゲロをぶっかけ、カズヤは下半身丸出しで便器を抱きながらクソをその辺に撒き散らしやがった。
次は、俺たちが新入生を迎える番だ。
どんな新入生が来るのか……。
楽しみだな。
くだらないことで落ち込んでいる暇などない。
『リプトン』にいられる時間だって、もう1/3が終わってしまうんだ。
俺もアフロ先輩のように、迷える子羊たちを導いてやらねば。
……。
「テニス〜♪ テニス〜♪」
「何歌ってんだ?」
「テニスの歌だ」
「なんだそれ」
「アフロ先輩のテーマソングだろう」
「懐かしいね!それ!」
「美咲ちゃんも知ってるの?」
「テニス〜♪ テニス〜♪」
「小野ちゃんも!?」
「「「テーニス♪ テーニス♪
初心者歓迎テーニス♪
経験者だって大歓迎♪
ラケットなくてもテーニス♪」」」
「覚えてるんだ!?」
「いやー、頭に残るよねー」
「毛玉がぷかぷか浮かびながら変な音が聞こえてくるんだもん」
「びっくりしたよね」
「『ラケットなくてもテーニス♪』が、『レンタルもあるよ』って意味だったなんてね」
「わかる。私も『ラケットがないとテニスはできないのでは?』なんて頭の中でツッコミを入れてたよ」
「俺もだ」
「私も♪」
「俺の知らない話題をこれ以上続けないでくれ!」
「童貞にテニスの歌はちょっと難しかったか」
「ちょっと難しかったみたいだね♪」
「しかたないか」
「童貞は関係ねーだろ!」
「カズヤ」
「なんだ?」
「俺たちはもう二年生になるんだよ」
「だからなんだよ」
「後輩を導いてやらねばならん」
「だからなんだよ」
「不安だね」
「美咲ちゃんまで!」
「がんばろうぜ」
「さっきからなんなんだよ!」
なんだか、こいつを見てると少し不安になってくるな。
まぁ、流石にこいつももうバカな真似はしないか。
子供用運動靴は脱いだわけだしな。
◇
———トゥルルル
『サブレぇ』
「なんだ」
『今日暇か?』
「別に暇ではないが」
『なんの予定だ?』
「デートだな」
『誰とだよぉ!』
「お前の知らない女だ」
『良いから俺の話を聞いてくれヨォ!』
「どうしたんだ、まったく」
『18時に馬場な』
「おい、俺には予定が———」
———ガチャ
なんて勝手なやつだ!?
まったく。
———トゥルルル
『はいもしもし!』
「あ、桜子ちゃんか?」
『うん!』
「すまないが、今日の約束はキャンセルさせてくれ。友達がピンチなんだ」
『えー!楽しみにしてたのにー!』
「すまん。後日埋め合わせはさせてくれ」
『友達って女?』
「いや、童貞のカズヤだ」
『あー、大学デビューのカズヤ?』
「そう。脱糞王のカズヤが何やらただならぬ様子でな」
『もー!しょうがないなあ!』
「本当にすまんな!次の店は俺に奢らせてくれ!」
『はーい!じゃあ、友達を助けてあげてね』
「ありがとう!助かるよ!」
『はーい。ばいばーい!』
———ガチャ
カズヤめ。
くだらん用事だったらスーパーチョモランマタイムだからな。
◇
予定をキャンセルして暇になったので、待ち合わせ時間より少し前に馬場へ向かったのだが、カズヤはもう着いていた。
悲壮感に溢れた顔で佇んでいる。
なんという顔をしているんだこのバカは。
「おい」
「うおっ!」
「人を呼び出しておいて『うおっ』とはなんだ。『うおっ』とは」
「あぁ、わりい」
「俺はデートの予定だったんだぞ。わかるか?童貞に呼び出されてキャンセルの電話をする男の気持ちが」
「いや、わからんな」
「くそ……。とりあえず飲むぞ。話はそれからだ」
「ああ」
こいつ、本当に元気がないな。
流石にちょっと心配になってきた。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。




