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男女の友情①

結局あの後すぐに彼氏とは別れた。


いつまでもあのバカとの浮気を疑い、


「LINEを見せろ」


「サークルへ行っても喋るな」


「あのイケメンとヤッたのか」


「チャラ男からもらった病気とか無いだろうな?」


などと、バカな話を言いながら私の行動を制限してきた。


ここまで頭のおかしいやつの相手をしたことがなく、混乱した私は……。


ブチギレてしまった。


「一度抱いた女は自分の所有物とでも思っているのか?童貞を拗らせすぎて病気になったのはお前の方だろう」


「脳がイカれているのであれば、恋愛している暇なんかないのでは?」


「早いところ病院へ行くといい。付き添いはしないから一人で行け」


と、普段口数の少ない私から漏れ出した頭の中身は奴のプライドを強く刺激したらしい。


殴られた。


グーで。


しかも、そのまま走って逃げやがった。


初めての体験に驚いたが、所詮はガリ勉雑魚の拳。


二、三日冷やせば腫れは引いた。


殴り去った後に「ごめん」などとLINEが来ていたが、「別れよう」とだけ伝えてブロックした。


なぜこれでまだ付き合っていられると思っているのだろうか。


やはり殴られた私よりも重症なのはヤツの方に違いない。


顔の腫れが引いて大学の授業に顔を出してみる。


今度は、「小野朝霞は彼氏がいても簡単に浮気をする」という噂まで流れ始めた。


……。


火元がどこにあるのかはわかっている。


サブレという固有名詞が出ていないだけマシではあるが、迷惑な話である。


あのバカはくだらない噂を気にする奴ではない。


しかし、私のせいであのバカまで妙な噂に巻き込むのはごめんだ。


借りを作ったら返さなくてはならない。


まったく。


付き合っただけで所有物になり、友人と会話しただけで浮気になるのなら、長期間の交際を続けている男女というのは実に辛抱強いものである。


私には到底真似できそうになかった。


もっとも、噂というものについては、大学へ入ってから多少詳しくなった。


火のないところに煙は立たないというが。


小さな火が立てる煙は変幻自在に姿を変えて広がっていくものらしい。


『高校時代の小野朝霞は男関係が派手だった』と言われれば、


定義次第だが、完全な嘘とは言えない。


高校時代に付き合っていた男とは、別れたあともしばらく関係が続いた。


しかも、彼に新しい彼女ができてからも何度か会っている。


呼び出されたから。


などと言えば多少は被害者らしく聞こえるが、それは少し卑怯だ。


私も自分の意思で行った。


彼のことを嫌いではなかったし、性行為そのものも嫌いではなかった。


したがって、


『小野朝霞は高校時代、彼女持ちの男と何度も寝ていた』


という文章だけを取り出せば、驚くほど正確である。


そこから、


『誰とでも寝る』


までの間に、随分と大きな飛躍があるだけだ。


そして今度は浮気まで加わった。


この調子でいけば、卒業する頃には二、三人くらい子を孕んでいるかもしれない。


もちろん、私の知らないところで。


◇


そんな冬のある日、カズヤからLINEが来た。


『小野ちゃん今日暇?』


珍しい。


カズヤとはよく飲む。


練習後の飲み会はもちろん、何人かで二軒目へ行くこともある。


ただ、二人で飲んだことはなかった。


『暇だよ』


すぐに返事が来た。


『たまには二人で飲もうぜ。良い店見つけたんだ』


二人。


少し前までなら、彼氏が嫌がるかもしれない、と考えただろう。


実際、嫌がった。


男友達と話すだけでも気にする男だったので、カズヤと二人で酒など飲もうものなら、浮気の現行犯として逮捕されていたかもしれない。


幸い、私はもうフリーである。


ならば、誰と酒を飲もうが私の自由だ。


それに。


先日、サブレと真帆さんを見てから、少しだけ考えていたことがある。


恋人ではない。


少なくとも今は、そうではない。


それでも二人で飯を食べて、昔の話をして、別れ際には腕まで組んで歩いていく。


あの二人の関係を、私はまだ上手く説明できない。


ただ、悪くないと思った。


恋人でもなく、性行為をするわけでもなく、それでも会う理由がある異性。


そういう相手が、私にもできるのだろうか。


カズヤがそれに該当するかと言われれば、かなり疑問ではある。


うるさい。


女にモテたいという欲望を隠さない。


時々、私のしょーもない胸元を見ている。


気づいていないと思っているのなら、女を舐めすぎである。


しかし、漫画の話はできる。


酒も飲める。


一緒にいて気を遣わない。


サークルに入ってから半年以上、何度も馬鹿なところを見てきた。


だが、童貞なりに少しずつ成長しているようだ。


条件だけ並べれば、案外悪くない。


そもそも、男友達というものに清廉潔白まで要求する必要もないだろう。


私だって男の顔くらい見る。


人間がお互いを性的な対象として認識できることと、実際にそういう関係になることは別の話である。


『オッケー!店の情報送っておいて』


そう返した。






※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


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