6話 小田谷の興味
5話の続き。
俺は、ハマダに「何か」のことを切り出す。ハマダは「何か」をイマジナリーフレンドのようなものと言った。
その言葉が腑に落ちていったんは落ち着いたと思ったが、5時間目の途中、そこにいないはずの「何か」が窓の外に突如現れた。
閉まっていた窓をゆっくりと開けると、「何か」はのっそりと入ってきた。
そして教室に入ると、意外にも「何か」の涙はすぐに引っ込んだ。見慣れない教室への興味が勝ったのだろう、教室をゆっくり見渡しはじめた。
縦横きれいに揃っているや椅子、机、そして床のタイルや黒板...
30人余りが一つの場所に集まるこの教室のすべてに「何か」は目を輝かしていた。
そして、後ろの棚にゆっくりと腰を掛けると、俺の方を見た。
そっと「何か」の方へ顔を向け、視線を合わせる。
「何か」教師の方に視線を送り、興味のあるものを示した。
この場所で、そして1対30の関係で何が行われているのか疑問に思っているようだ。
しかし、言葉を持たないものに学校を教えるのは難しく、説明できずに目をぱちくりとさせるしかなかった。
それに合わせて「何か」も目をぱちくりとさせる。
「何か」も、伝達手段がないことが分かっていたようだった。
お互いに諦めがつくと、軽い笑みを見せ、「何か」は視線を外した。
コンタクトの終わりを確認すると、自分も黒板に視線を戻すーーー。
途中で新しい視線を感じる。
「ねえ、何が見えてるの?」
小田谷の単刀直入な問いに、心臓の鼓動が急激に跳ね上がる。多分、1500m走終盤の時ぐらいのスピードでフル稼働している。
握力が急激に衰え、左手に持っているシャーペンがすとんと落ちた。
それをゆっくりと拾い上げ、何とか聞こえなかったふりをしようと必死でノートを走らせる。
しかし、手がガタガタしすぎてまるで役に立たない。
そのくせ、横から感じる圧に対しての勘は鋭くさえわたっている。
「ねえ、何が見えてるの?」
耳元まで顔を寄せ、小田谷がささやく。
びくっと体が反応する。
冷や汗が止まらず、頬につたう水滴を手で拭う。
もう、逃れられそうにない。
けど、抵抗するしかない。
「・・・な、何のことだ?」
「さっきから誰とコンタクトをとってたの?」
「...そんなことしていないぞ。俺は真面目に授業を受けていた。」
「じゃあなんでノートの文字が居眠り直前のようなか細い文字をしてるわけ?」
「・・・!」
「どうして?」
「それはだな・・・そ、そうだ、シャー芯がなくなりそうだったからだ。替えがないから何とかこれで間に合わせてるんだ。」
「そうなの、それはそうとノートにかいてることが黒板の内容とまるっきり違うようだけど?」
「・・・ほ、本当だ!早く直さないとなっ」
「あと、さっき話してた子どっかいっちゃったみたいだけど?」
「ふぇっ?!」
驚いた反動で椅子を思いきり引きずり、床に響き渡る音がクラス中の視線を集める。
英文の回し読みが停止し、教師が怪訝な顔でこちらを見る。
気まずーーい沈黙の時間が流れた。
座りながら頭を下げ、謝罪の意を見せる。
それを受け取ると、注意喚起とでもいうようなガンを飛ばされた。
そして、何事もなかったかのように音読が再開された。
ゆっくりと後ろを振り向く。
「何か」は何事もなく後ろで座っていた。
しかも面白そうにこちらを見つめ、今の状況は何なのかと興味津々で説明を求めていた。
まぁとりあえず、消えたわけではなかったから一安心ーーー
「ちゃんとそこにいたみたいね~~」
二度目の1500m走が開始された。
しかし、今度は50mさえ走れそうになかった。
心臓がどうやらこの状況を諦めてしまったらしい。徐々にいつものスピードに戻り始める。
頭も機能しなくなってしまった。言い訳がまるで出てこない。
「さあ、どんな言い訳を聞かせてくれるのかしら?」
「・・・・・・・・」
「なんか言いなさいよ、ほら」
「・・・・・・・・」
「何も言いたくないの?」
「・・・・・・・・」
「Give up?」
「・・・・・・Give up」
「OK.gg」
小田谷が左手でグッドマークの形を作った。
これにて、必死の抵抗が終了した。
頭がガクッと落ち、みじめな敗北感を味わった。
肩の力が完全に抜け、小田谷のほうを見た。
小田谷はにやにやした目でこちらを見ていた。
どんな話が聞けるのかワクワクしている目だ。妹のノノにそっくりである。
きちんと説明するしかなさそうだ。
恥じらいや悔しさはもう捨てるしかない。
あっという間に5時間目が終わり、太陽が顔を出し始めた。
小田谷は顔をこちらに向け、話が切り出されるのを待っていた。
ちょうど太陽が小田谷を照らし、その光を返すようにやさしく微笑んでいた。
この時間を十分に楽しんでいるようだった。
俺は、小田谷にどこまで「何か」のことを話そうか頭を悩ませていた。
小田谷は頭がなかなかに切れるから、迂闊に情報を与えたくない。
ああ、どうすれば何事もなく終わるのだろう...
頭を抱え、この話を丸く終わらせる方法を探し求めていた。
そして、そんな二人の状況をハマダは理解して、遠目で眺めて面白がっていた。
また話の種が一つ増えた、きっとそんなことを思っているのだろう。
面倒ごとが増えるばかりだ。
きっと、雲は俺にだけ雨を降らせているに違いない。
そんなことを思ってしまう今日この頃であった。
適宜修正入れていきます。




