5話 「何か」の正体
4話の続き。
友達のハマダは眼鏡をかけているが、髪で隠れてしまっている。ゲームが好きで、会話の内容は大体スマホゲーム。
隣の席の小田谷奏子も眼鏡をかけていてロングヘアーだが、眼鏡は隠れておらず、チャームポイントとして成立している。文芸部所属。
4時間目の授業が終わると、昼休憩に入る。
ハマダが俺の席にやってきた。前の席の椅子を借りて座ると、そそくさと弁当箱を広げ始めた。
こちらもリュックから弁当箱を取り出し、食べる準備をする。
「今日の授業もいい子守歌ばかりでしたよ~」
先に話を切り開いたのはハマダ。週の半分はこの話から始まる。
「仕方ない、こちらから学ぼうとしなければ頭に内容が入ってこないのだから。」
「そうはいってもですねぇ、頭が頑張ってくれないんですよ。勉強が楽しいと頭が思ってくれれば楽なんでしょうが。」
「ま、まずは授業中に寝ないようにすることだな。」
「そうですね・・・まずはそこから頑張ってみましょうか。」
そう言って、授業寝ない日のほうがめっきり少ないもんだから、信用ならん。
「それはそうと、などナギの劇場版見ました?」
「見てないな。面白いのか?」
「面白かったですね...必ず劇場で見るべきだと思います。うね先生の作るキャラはどれも魅力的ですからね...!新キャラもめちゃくちゃよかったですよ!」
かなり好評である。いつもは饒舌なハマダが素直にほめるのだから、これは期待大だ。
それから、いつものように僕らはゲームの話で盛り上がる。キャラ性能や、新イベントの話、ときどき期末テストの話なども交えて。
そして、昼飯がお互い食べ終わったタイミングで聞こうと思っていたことを切り出した。馬鹿にしないことをはじめに約束して。
「...きのうから幽霊が見えるんだ。しかも、今日起きたら俺そっくりになっていたんだ。自分以外には見えないんだけどさ。それで、通学中幽霊は後をついてきたんだが、なぜか電車に乗ることができなくて駅で別れたんだんだけど・・・なあ、これ何なんだと思う?」
「......うーん、変な冗談は言わないような人だとは思うんですが、それにしても信じがたい話ですねぇ(笑)」
にやにやしていた。しかし、たぶん馬鹿にしているわけではない。見たことなかった俺の側面を発見して喜んでいるような顔だ。
「いまごろ幽霊はどっかに行っちゃったのではないでしょうか。もし姿が見えるようになってしまったら、ナンパ師になって今頃街を歩いているかもしれませんねぇ」
「それは嫌だな...」
「幽霊と一緒にかわいい女の子が歩いているかもしれませんよ?」
「もっと嫌だ」
変なうわさ話が立ってしまうことが一番不安なのである。
ただ、と言ってハマダは話を続ける。
「これはあまり考えられないですね。何しろ、急に見えることなんて多分ないでしょうし。それに、幽霊はこの世に存在しないと思ってますから。僕が思うに、そいつは幽霊ではない気がするんですよ。」
幽霊ではない...?では何なんだ?
そんな俺の顔をハマダは読み取って淡々と告げる。
「駅でその何かと別れた時、嬉しいと思いましたか?きっと、そうは思っていないはずです。どこかで心配する気持ちがあったんじゃないですか。」
痛いところを突かれた気分だった。否定したいところだが、ハマダの真っすぐな目を見て誤魔化すのはやめようと思った。
「そうだな...ちょっとだけあった。」
「そうですね...だとしたらきっと...」
「・・・」
「それは、リョーの想像上の「何か」だと思います」
「想像上の......何か?」
「はい、想像上の「何か」です」
目をピクリとさせハマダの顔をまじまじと見る。
「イマジナリーフレンドという言葉が近いと思いますね。悲しい時や不安な時に表れるあなただけの想像上の友達です。詳しいことは分かりませんが」
・・・驚いた。その考えにびっくりしたり意外だと思ったりしなかったことにだ。
「...心当たりがあるみたいですね。もしその「何か」を追っ払いたいのなら、私にはどうしようもありませんよ。それはリョーにしか解決できないですからね」
「...ああ、そうだろうな」
きっとこの答えを待っていたのだろう。
ゆっくりとその答えに頷いた。
「何とかしてみるよ」
「進展があったら教えてくださいね!こーゆー話は大好物ですから。」
満足そうな顔でハマダも頷き返す。
「それと、どうせならもうすこしその「何か」と一緒にいてもいいんじゃないですか?別に姿がそっくりな以外に嫌なとこがないなら一緒に過ごすことも一興かもしれませんよ?」
「...考えてみる」
曖昧な返答しかできなかったが、「何か」に対する見方がいつのまにか少し変わっていることに気づいた。
しかし、これからどうなるかはまだ見えない。「何か」がまだ存在しているのかも分からないし、もしから俺じゃない姿になっているのかもしれないし。
予鈴のチャイムが鳴った。浜田は自分の席にゆっくりと帰っていった。
そして、5時間目が始まると、ハマダは机に頭を伏せ、俺は机の上にゆっくりと教科書とノートを広げた。
右を見ると、小田谷さんはぼーっと頬杖をついていた。きっと退屈なんだろうな、顔からそんなことが読み取れた。
窓の方を見ると、雨が弱まっていた。下校の時間にはきっとおさまっているだろう、そう思った。
しばらく空を眺めていると、窓からひょっこりと顔が出てきた。
それは俺の顔だった。
目が合うと、目をぱちくりさせてこちらを見つめた。
そして、やさしい笑みが浮かんだかと思うと、ぽつぽつと涙をこぼし始めた。
ああ、下校までに雨が収まるか、わからなくなってしまった。
明日、たぶん休みます。m(__)m




