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3話 見知らぬ街

2話の続き。

「もう一人の俺」から逃げるようにリビングに向かうリョー。

妹のノノとの楽しい(?)談笑も束の間、母と...もう一人の俺がリビングにやってきた。

知らぬふりで、高校へ行く準備をするも、その間に「何か」はよれも汚れもそっくりの制服を自ら生成し、身に着けていた。

その事実に俺は驚愕していた。


 雲がやわらかく太陽を包み込み、陽はあまり出ていなかった。ブレザーを着ていても首筋に触れる冷たい風がじわじわと体感温度を下げていく。

もうマフラーが必要なのだろうか。季節は秋でも気温の変化に気をつけろとニュースキャスターは言っていたが、冬がフライングして日本にやってきている気がする。


この寒さを何とかしてくれないものか。横に半歩分の距離を置いて、「何か」は俺の後をついてきた。そして当たり前のように、家を出る前まではなかった俺と同じリュックサックを背負っている。


赤信号で歩を止めると、「何か」も同じく止まって俺が歩き始めるのを待っていた。


 歩いていて分かったことだが、「何か」は人には見えないらしい。

顔、制服、背丈までもが完璧に一緒な二人組が歩いていたら、少しは目をぱちくりさせたり、軽く二度見をされてもおかしくないと思っていたが、最寄りの駅に着くまでそんなことは一度もなかった。

しかし、「何か」はどこまでついてくるのだろうか。このまま学校でも俺の隣で授業を受けるつもりなのか。

いつもぼんやりと歩いている通学路も今日は考え事ばかりで落ち着かない。


「何か」は、知らない公園を歩いている幼稚園児のよう目を輝かさせて、あたりをきょろきょろさせ、時々見知らぬものを発見した驚きを伝えるかのように、俺の方を見ながら静かに歩いていた。



「・・・!!・・・・・・!!」



また何かを見つけたらしい。自転車のようだ。「何か」の横を颯爽とすり抜けていった。


そう、すり抜けていった。

「何か」はものに触れることができない。薄々気づいていたことだが、持つことやつかむこともできない。おそらく、「何か」が自分でコピーをしたものしか触れられないのだろう。

「何か」はそのことを特に気にかけてはいないようだった。


見知らぬものを見つけては、目の奥の星がキラキラと輝かしていた。

顔をこちらに向ければ、笑顔と驚きの顔であふれていた。



そんな「何か」の笑顔を見て、微笑んでしまう自分がいた。

さっきまで気味悪がっていた「何か」が、今はほんの少しだけ年の離れた弟のように見える。

「何か」が自分そっくりでなければまた違う感じ方をするだろうなと、少し残念に思うのだった。


 と、そんなこんなで最寄り駅に着いた。改札を通って駅のホームへ向かう。もちろん、「何か」に切符を買ってあげる必要はなかった。機械も人も、「何か」を認知していなかった。無賃乗車の言い訳を駅員に伝える必要もなさそうなので、かまわず駅のホームへ向かった。


高校までは電車を1本乗り継いで登校している。5駅目で乗り換え、そこから次の電車で4駅また乗れば高校の最寄り駅に辿り着く。


駅のホームでも「何か」は周りをきょろきょろしながら、この場所を楽しんでいた。

電車が来たら驚くだろうな、とそんなことを考えながらのんびりと顔を眺めていた。

やがて、到着のアナウンスが聞こえると、「何か」をみつめた。

目が合って、きょとんとしている。

反応が楽しみになってふいに笑顔がこぼれた。


間もなく、電車がやってきた。

「何か」は目を真ん丸にして、電車をじっと見ていた。まるで初めて雪が降っているのを見た子供のようだった。

思った通りの反応すぎて、ふっと息がこぼれる。

幼い時の記憶が蘇ってきそうだった。


電車が停車し、乗客が降り始めると人の流れに従って自分も動き始めた。

いつものように、俺は奥に詰めて乗車した。一番近くの吊革につかまって発車を待つ。


「何か」のほうを見た。まだ電車に乗れていない。どうやら人の乗り降りに戸惑っているようだった。しかし、ドアの周りが開けても入ってこなかった。


いや、入ってこれないのか?

見えない壁がそこにあるかのようだった。


「リョー・・・」


「何か」が俺を呼んでいるように見えた。


発車メロディーが鳴り終わった。


状況を理解したが、体が追い付かなかった。


ドアが閉まりはじめた。


やっと動き始めた時には遅かった。


ガタンと音をたててドアが閉まる。


電車はゆっくりと発車し始めた。






「何か」はそっと電車に触れた。 

その手はドアをすり抜け、指先から先だけがこちらに透けて見えた。




「何か」は駅のホームで動かないまま、だんだんと離れていく自分をひたすらに眺めていた。

追いかけてくることもせず、ただ茫然と立っていた。


それから電車は時間通りに、予定通りに走り続け、

気が付けば俺は学校の最寄りの駅に着いていた。

「何か」の純粋無垢な目だけが頭の中で波のように何回も何回も、押し寄せては引き、押し寄せては引いていった。



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