5_勇敢な旅人達は、素晴らしき新世界に船出する
「ルーシア起きろ」
「メア、どうしたんだ?」
地面で寝たせいで首を寝違えたようだ。痛みに耐えながらメアを見上げる。それにしても美女に朝起こしてもらえるなんて、ラブコメ主人公みたいだな。
「ルーシア、祭始島の遺跡を覚えているか?」
「あー、あの歴史がありそうな所だよな覚えているよ」
「あそこが混沌の神⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎を祀っていることがわかった」
神の・・・なんだって?メアが何か訳のわからない音を発したので聞き返した。
「えっ、なんて?」
「そうか、人間には混沌の神の名は聞き取れない様だ」
「なるほど・・・それで?」
「混沌の神は誓約者に試練を与える。試練を達成すれば報酬が手に入る」
「なるほど、その報酬欲しさに誓約するとして、どんな試練をすれば良い?」
「今与えられているのは[滅びの運命にある人間の王国ザンクランドを、己が手で滅ぼせ」と、[滅びの運命にある人間の王国ザンクランドを救え]の二つだ」
「おかしくないか?」
「混沌の神は相反する試練を出すことがある、どちらを達成するか選ぶのは誓約者だ」
それもおかしな所だけど、既に滅ぶ運命にある王国を滅ぼすのと、救うのじゃあ難易度が違いすぎないか?その分報酬が多かったり、少なかったりするのだろうか。
「その誓約、メアはもうしたのか?」
そう聞きながら、俺はメアについて何も知らないことに改めて気づく。何者で、なんでそんな知識があるのだろうか。
「さっき誓約した。その方がルーシアの目的の近道だから」
「俺も契約した方が良いのか?」
「その方が報酬は増える」
「危険は無いか?」
「無い事はないが私が守ってやる」
力強く胸を叩きながら、メアがドヤ顔をしてくる。にしても危険はあるんかい・・・。
「所でメアは何者なんだ」
「私は私だ」
「なんでそんな知識があって、色々出来るんだ?」
「知らない。・・・ルーシアはなんで自分が、色の識別を出来るか知っているか?」
前世の世界で、医療の知識の勉強をしていれば、答えられたのかも知れないが、メアはそういうことを言いたい訳では無く。誰しもが、自分の体の事についてさえも、知らない事の方が多いだろうと、メアは言いたいのだろう。
「まー、確かに知らないな」
「そうだろう」
はぐらかされてしまった。まー、人の過去をあまり詮索するのも良くないか。
「じゃあ、話を戻して、メアは混沌の神からどんな報酬が貰えるかはわかるか?」
「能力の増大、強力なスキルや武器、また亜神になる事も出来るみたいだ」
「強力な武器か・・・。ゴブリンと敵対するなら必要になりそうだな。じゃあ誓約しとくか」
祭始島に行く前に、ログハウスの中を確認したが、メーメルはまだベットで熟睡していた。遭難で体力を失っていたからだろう。起こすのも悪いしこのまま置いて向かうか。
メアと祭始島の遺跡に、鬼終島に来るときに使ったガレー船で向かって、儀式を行った。てっきり魔法陣を描いたり、なにか特別な儀式をするのかな、なんてワクワクしていたが、祭壇の前で祈るだけで拍子抜けだった。これで俺たちは混沌の神へ誓約した眷属になったみたいだ。祈るだけで眷属にしてくれるなんて寛大な神様だな。まあ、来るもの拒まず、去る者許さずの恐ろしい神かもしれんけど。
与えられた相反する試練の内、どちらを選ぶかは、大陸について色々、情報を集めてから考えることにしよう。王国を救う方向で進めたいが、そんな無理してまで救う必要はないしな。
鬼終島のログハウスに戻ると、メーメルがログハウスの外の広場で、キョロキョロと周りを探してい。彼女は俺とメアを見つけると、息を切らせながら駆け寄って来て抗議してきた。
「良かった〜!あなた達に置いていかれたかと思って焦ったじゃない!」
「メーメルすまない。少し出かけて来ると言おうかと思ったけど、君が寝てたから、起こすのも悪いと思ったんだ」
「それにしても、書き置きを残すとか他に方法があるじゃない」
まー、言われてみれば確かにそうだ。俺はバツが悪そうに目を逸らすと、作業用のメアが、トレーで食べ物をログハウスに運んでいるのが見えた。彼女が落ち着くのを待って、食事を提案する事にする。
「本当に悪いと思ってるよ。所で食事にしないか?」
「食事!頂けるなら喜んで!」
メーメルは常に何か考えてそうな、油断のできない商人タイプの人間かと思っていたが、可愛い反応するものだ、よっぽどお腹が減っていたのだろう。
ログハウスに3人で入って食事を始める。
「それにしても、島でこんな料理を用意できるなんて凄いわね!これもメアさんの使い魔の力なの?」
「そう、メアは優秀だから料理も作れる」
メーメルは満面の笑みで、どこに入るんだという勢いで、食事を食べている。相当お腹が空いていたんだな。
「メアさんは食べないの?」
メアは即答せず、こちらを向いて来た。説明は俺に任されたみたいだ。
「メアはさっき食べたんだ」
メアが普通の食事を食べれるのか、後で聞いておいた方が良さそうだな。今後もこういう機会が無いとは限らないしな。
「そう、、、」
それから夜まで広場で3人で雑談した。たわいもない会話の中にも、この世界の情報は色々と転がっているから、油断せず会話して少し疲れた。
この世界の文明度は、都市部においては、ウィーン体制前後位だと分かった。メーメルと出会った時に、彼女が黒いタイツを履いていたので、結構文明が発展しているんじゃ無いかと思っていたけど、その予想は間違っていなかった。
但し、この世界では、火器は殆ど使われていない等、前の世界とは違う文明の発展の仕方をしていた。高度な天文学が発展していたのに、マヤ文明で車輪が実用化しなかったように、例えば、この世界では魔法が存在することから、火器があまり発展しなかったのかもしれない。
幸いな事に、眼鏡とかは普通にあるらしいので、視力が悪くなっても最悪大丈夫そうだ。俺は前世では目が悪く眼鏡は体の一部と言えるほどの必須アイテムだったんだ。今の体は視力が悪くないけど、眼鏡をかけていないと何か足りないような気がするし、お金を稼げたらどこかの街で買ってもいいかもな。
「それにしても凄いスピードね」
メーメルは、とんでもない勢いで2棟目のログハウスを建てているメア達を見て言った。作業用メアはハンマーを片手にくぎを加えながら、頭に鉢巻を巻いている。鉢巻は・・・はたして必要か?メアも汗をかいたりするのだろうか?
「あ〜、これは俺も凄いと思ってる」
「・・・2人は割と最近知り合ったの?」
「あー、2、3週間前位かな」
「ふ〜ん」
メーメルは俺とメアの関係性を、探ってきてるのかな。何て説明すれば良いか悩むが、変に誤魔化そうとしてボロが出そうだし、そのまま答えることにした。
「出会った時にメアが死にそうだったから俺が助けたんだ。それでメアは恩返しって事で、俺に色々してくれるんだ。な~、メア?」
「そうだ。ルーシアは命の恩人、私はルーシアの為に働き、尽くす、この世界が終わるまで」
ちょっと、メアさん???これはメーメルに俺達の関係性がおかしいと思われたかもしれない。そっと、メーメルを見ると笑顔でこちらを見て来た。なんと言うかご機嫌を取ろうと、謙っている様な表情にも見えた。
「ルーシアは良い人なのね」
「良い人・・・では無いかな?」
良い人は、相手が先に攻撃してきたとは言え、ゴブリンが虐殺されるのを容認したりしないだろう。
そんな話をしている間に、この島に2棟目のログハウスが出来た。
「ルーシアはこっち」
メアは新しいログハウスを指差す。
「メアさんは?」
「メアはそこにいる」
メアは切り株を指差し、真顔で答える。
「そんな悪いわよ!ログハウスのベットは広いし、私と一緒に寝ましょう」
メーメルはそう言うと、メアを最初のログハウスに、手を引いて、連れて行った。ドナドナされているなか、メアは俺に用があれば呼んでと言って消えて行った。可愛い女の子が一緒のベットか・・・。てぇてぇな!そんなくだらない事を考えながら、俺も自分のログハウスのベットで眠りにつくことにした。ログハウスは前と同じ様な作りだったが、奇妙な壁飾りが、何かセンスが良さそうな物にアップグレードされていた。
それから船が出来るまでの数日は、3人で散策したり釣りをしたり、話したりなどした。俺は釣りに興味無かったけど、メーメルが好きらしく、メアも楽しんでいるようだった。ちなみに釣果は、俺が0、メーメルが3匹、メアが36匹だった・・・。一人漁業みたいな釣果の奴がいた。俺も驚いたがメーメルは驚愕していた。
「ルーシア、船が出来たぞ」
俺たちはメアの先導で、この前に見た乾ドックについた。沖にデカいガレオン船が、錨を下ろして停泊していた。
「凄い!商会の持っている1番大きい船よりデカいわよ」
100人位乗れそうだ。船から浜辺までボートが迎えに来た。
「乗って」
俺とメーメルは言われるがまま、送ってもらってガレオン船に乗り込んだ。
「凄い迫力だ」
「もっとデカい船を作りたかったけど、節約した」
そうか、これから向かう大陸には、敵にすれば8万のゴブリンがいる。魔石を節約するに越したことはない。戦闘用のメアが何人作れるか、他にも色々メアと一度話をしないといけないな。
「ルーシア、船に名前をつけるか?」
「ん~、そうだな、フェルディナント号とかで良いかな?」
「それはなんて意味だ?」
「勇敢な旅人って意味だよメア」
我ながら酷い船名だが、俺はこういう、まともな人が顔をしかめるような。ブラックユーモアが好きなんだ。
「メーメル、大陸に近つけば、地形から近くの街がわかったりするか?」
「ええ。王国、公国間は、何度も行き来しているからだいたいわかるわ」
俺たちは海を南下し始めた。この海は大陸の人たちからは、北海と呼ばれている様だ。島がどんどん見えなくなると、周りが全て海しか見えなくなり、強い不安を感じた。
大航海時代の船乗りの勇気には本当に感服する。




