17_真祖
「あらあらあら〜、また、家畜がわざわざ食べられに来たの〜?」
まだ、レバン平原の最北だというのに、それは現れた。青みがかった白い肌に、血のような赤い瞳、そして牙、まだ、暗雲の下でも無いのに、太陽の光の影響を受けていない。
「ルーシア、真祖だ」
なぜ、最悪の目を引いてしまうのか?犠牲の剣を手に入れて無かったら、負けてたぞ、全く。メアとクリスは抜剣し、吸血鬼に向けて剣を構えた。
「やあ、貴方の様な、綺麗な女性に、家畜って呼ばれるなんて嬉しいな〜」
実際、綺麗な外見だった。人間を誘惑して血を吸う存在だ、見た目は美しくて当然か。長い黒髪に、大きな胸、尻、太ももが扇状的なドレスから見えている。
「・・・嬉しい事言ってくれるじゃない〜、貴方は?」
「ルーシアという」
「・・・そう」
沈黙が生まれた。襲いかかってくればすぐに反撃するというのに、何だろうこの間は?・・・最高位の吸血鬼だ、馬鹿ではないだろう。こちらが、真祖に対峙しているというのに、冷静に構えているのを見て、自分への対抗手段があるかも知れないと警戒しているのだろうか。
「私、生まれたばかりなのよ~」
「知っている。だから見逃して欲しいと?」
「生意気ね〜、違うわ。愚かな人間共が、私の領地で死体漁りをしていたから、さっき倒して美味しく頂いたのよ~。だから、私は人間より自分が強いともう知っているのよ。見逃して貰う立場ではないわ」
「領地?レバン平原が自分の物だと」
「そうよ〜、他に吸血鬼はいないし、私の物よ〜」
「傲慢だな。では、なぜ襲いかかってこないんだ?」
「そうね〜、それが問題なのよ」
「何の問題だ」
「言おうかしら、どうしようかしら」
「・・・」
「ま~いいか。私ね、生まれた時から、貴方達人間を食べ物だと思ってるの、多分私たちアンデットはそういう存在なのよね」
「一般的にはそうだな」
「一般的?」
「知性を持つ高位のアンデットは、状況によっては生者と取引したり、共闘したりする事があるらしい、聞いた話だがな」
「ふ〜ん、そうなの、それかしらね?そこの女2人は血を吸って、拷問して惨殺したいのだけど、貴方はそうしたくない気がするのよね~。初めての感情だからわからないけど?」
えっモテ期か?
「それで迷っていると」
「そうね〜、どうしようかしら、困ったわ」
そう言うと、真祖は、座り込んで考えだした。するとメアが真祖に近づいていった。まだ、犠牲の剣を使うなと、言おうか迷っていると。
「お前は最高位のアンデット真祖だ。ルーシアが欲しいと思うのは当然だ」
「お前も、その女も、普通の人間よりかなり強いわね。なんでその男に従っているのかしら、どんな理由か知らないけど、私にはプライドがあるのよ」
「従う?従っていない、尽くしている。この世界で1番大切な存在だから、その輝きを失わないように」
メアさん!?えっやっぱ俺モテ期か?
「言いたい事はわかるわ、家畜と共感なんて屈辱的だけど」
これは交渉出来るのでは?王国を救う邪魔をしなければ、いや、この真祖を配下に加えれば、ゴブリン軍もゴルグも、もう怖くない。どう楽しくゴブリン軍を料理するか悩むくらいだ。
いっちょ、言うだけ言ってみるか。
「俺たちはお前を討伐しに来た」
「知ってるわ、大層な戦力だし」
「理由は、お前が、人間の王国を襲うと思ったからだ」
「そうね、もう少ししたら、そうしてたかも?土足で人の土地に入ってきた、生意気な家畜には躾が必要だもの」
「そうか、だが、お前が人間の王国を襲わなければ、俺たちはお前と戦う必要が無くなる」
「ふ〜ん、でも、この土地を人間が私の領地と認めないんじゃない?私が襲わなくても、人間の方から攻めてきて結局戦いになるんじゃないかしら?貴方は欲しいけど、同じくらい領地も欲しいのよね〜」
「そこで、朗報なのだが、今、王国はゴブリンとの戦争に負けていて、存亡の危機だ。だから王国を助ければ領地を貰える」
「貰えるかもでしょ。くれなかったらどうするのよ」
「王国との交渉には伝手がある。それに、最悪王国が、俺たちの要求を拒否すれば、俺たちが王国の敵になって、力で正当な報酬を勝ち取れば良い」
「なるほどね〜、私は貴方に協力して、ゴブリンを殺せば良いのね〜。でも、家畜に従うのは業腹ね」
「まあ、聞いてくれ。俺は最低でも、公爵規模の領土を貰うつもりだった。レバン平原についても、追加で王国と交渉しよう、広さ的に伯爵領規模だとおもうが」
「生意気、あなたが爵位で上になろうとしてるじゃない」
「互いに独立した対等な同盟で良い。人間がつけた形式的な位に拘る必要は無いだろう」
「ふ〜ん、どうだか、何だかんだで、最終的に貴方に従わされてる様な気がするのだけど」
「駄目か?」
「・・・・・ふ〜ん、隠す気がないんだ〜」
また、長い沈黙が始まった。
「真祖、ルーシアはこの世界で最も貴重な存在だ。提案を断ればそれを永遠に失うぞ」
ちょっとメアさん、俺を持ちあげすぎだろ。俺にそんな価値ない気がするけど、俺ちょっとメアさんの高評価が怖いっす。
「は〜、はいはい、家畜の癖に生意気なのよ。呑めば良いんでしょ、呑めば」
何かを諦めた様なため息をつくと、真祖は姿を変えた。さっきまで20歳後半位の美女だったのに、俺と同じ位の姿の少女の姿になってしまった。戻して><
「条件を呑んでくれてありがとう。なぜ姿を変えたんだ?」
「あの姿は私の誇り高き姿よ。間違っても、誰かに従ったり、対等になったりしない高貴な姿なの。貴方と同盟するならあの姿のままではいられないの、プライドの問題よ」
彼女が仲間になったのは、メアのよくわからない話はさておき、こちらを警戒しているからだろう。実際、こちらはメアが犠牲の剣を使えば容易に彼女を倒すことができる。それを知られたら対策されて負けるだろうけど。
「なるほど、所でどの位の戦力を持ってる?」
「早速、顎で使うつもり?良い度胸ね」
「えーと」
「あ〜、名前ね、無いわよ、今まで必要じゃ無かったから」
「不便だな」
「じゃあ、あんたがつけなさいよ」
「家畜がつけていいのか?」
「仮よ、いずれ相応しい名前を考えるわよ」
「シエラとかどうだ?」
彼女のギザギザの歯を見ながら、適当に言ってみた。
「ふ~ん、まあ、取り敢えずそれでいいわ」
俺は手を差し出した。
「何それ?血でも吸わせてくれるの?」
「立ち上がるのに、手を貸そうと」
彼女は目を逸らしながら俺の手を取った。彼女が立ち上がって、ドレスの汚れを払ってるのを背に、クリスの方を向いた。
「シエラとは、同盟する事になった、悪いな」
「我が君の方針であれば、受け入れます」
クリスは闇落ちモード継続中の様だ。暫くは心の整理が必要だろうが、犠牲の剣はメアの手にあるし、シエラも味方になったから、もう、クリスは怖く無いな。
「下位は6000、中位は100体位、数えたわけじゃ無いから、気配でざっくりだけど」
「?」
「あんたが、戦力を聞いたんじゃ無い!物忘れの激しい家畜ね」
そうだった、律儀に答えてくれたのか。
「結構いるな〜、従うのか?」
「あんたは、感じてないかもだけど、私って〜、かなり恐ろしい存在なのよ~。生者も死者も、私を見れば震えながら涙を流し、せめて一思いに殺してくれと懇願するものよ。私が従えって言えばありとあらゆる存在が、黙って従うのが当たり前なの、普通わね」
「何事にも例外はある。勉強になったなシエラ」
「あ〜、マジで、一回その頭蓋を噛み砕いて、脳みそ啜ってあげようかしら?貴方がどんな悲鳴をあげるか楽しみ」
「メア、ヨーグ族への騎行の進捗はどうだ?」
無視すんなって、シエラが騒いでるが、気にしないでおこう。
「村を14ヶ所焼いて、1476体のゴブリンを殺した」
「順調だな」
「言われた通り、軽騎兵は1000体で止めてあるから、襲撃のペースはこれ以上上がらない」
「それで良いんだ。シエラが仲間になったんだ、もう、細かい心配はいらない」
「え〜、今そのシエラが絶賛、貴方に激怒している所だけど大丈夫そう?噛み付くわよ」
「シエラ、メアに、ここから北東のライン大森林って場所でヨーグ族ってゴブリンの部族を襲わせているんだが、ゴブリン軍が援軍を送って来てメアの邪魔をしにきたら、その軍を引きている奴を脅迫して欲しいんだ。従えって」
「あれ〜?ルーシアって会話が通じないタイプ?私今あなたに怒ってるんだけど」
「シエラ、頼むよ」
「・・・やれば良いんでしょ、やれば!ただ、あまり調子に乗るなよ家畜が!」
シエラはツンデレ属性なのかも知れない、可愛い奴だな。言葉使いが、前の姿と変わっているのは、さっきまでは誇り高い私ってロールプレイをしてたからなのかな?それとも生まれたばかりで、まだ自我が固まっていないのかもしれない。
「シエラは、ゴブリン軍が来るまでここで待機してくれ。メアを一体置いておくから何かあったらメア経由で連絡してくれ」
クリスとの交渉の時に出したメアをシエラの所に置いておく。と言うか、何の気なしにそう言ったが、メアを使えば遅延ゼロで遠方と通信が出来るのか、これって結構凄いアイディアなんじゃ無いか?
「わかった、シエラに着いていく」
馬車で待機していたメアが歩いてきて、そう言った。同じ顔が2人だからなんか違和感だな。
俺とメアとクリスは、ヴァインセンに戻った。
計画は順調すぎる位順調だ。勝った後、王国というパイをどう切り分けるか、考えないといけないな。それにメーメルに王国との交渉の手助けして欲しいと頼まければ、楽しくなってきたぞ〜。




