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16_闇落ち女騎士

鳥の鳴き声で俺は目覚めた。昨日はあのまま寝てしまったようだ。隣を見るとクリスさんはまだ寝ている様だった。


起こさない様に、部屋を出て商会の外でも散歩しようかと思ったら、商会長に呼び止められた。


「ルーシアさん、例の騎士団についてですが、聖王国の支店の者から情報がきました」


「えっ?聖王国からですか」


「当商会には、魔道通信用の水晶が各支店に設置されています。通信コストが高いので、そう易々とは使えませんが」


「それは、わざわざすいません」


「気にしなくて大丈夫ですよ。それで調査結果ですが」


ゴードン支店長から報告を受けた、こんなに詳細にわかるものなのか、なんて調査力なんだ。キール商会は敵に回さない方が良さそうだな。


得られた情報は最高の物だった、これで吸血鬼対策の目処がたった。俺はうきうきで散歩を終えて、部屋に戻った。クリスさんは既に起きていた。


「昨日はすいません」


「いえ、疲れていたのでしょう。異国での旅は疲れますからね、気にしませんよ」


異国?クリスさんも、何処から俺たちの情報を手に入れたのか?


「クリスさんの準備が出来次第、南に向かいたいのですが」


「わかりました、準備出来たら知らせますね」


昼前に、クリスさんの準備が出来たので、ゴードン支店長に挨拶してヴァインセンを出てレバン平原に向かった。支店長からは、南は危険だと忠告されたが、危険だから、危険じゃ無くする為に、俺達がこれから向かうのだ。


レバン平原に近づくにつれ暗雲が立ち込めてきた。比喩じゃない、本当にレバン平原の上空を黒い雲が覆っている。アンデットが陽の光を遮ろうとしているのか?やっぱり吸血鬼だろうか・・・。想定される事態の中で最悪の事態が起きそうだ、こう言うのを何て言うんだっけ、あー、あれだマーフィーの法則だったか。ふふふ、しかし、準備は万全だ。失敗はしない!勝ち筋は用意されているのだ。


「クリスさん、お願いがあるのですが」


「ん?何でしょうか」


馬車の御者台で隣に座るクリスさんに話しかけた。メアは荷台に乗っている。


「犠牲の剣を貸して欲しいのです」


「・・・何を言っているんですか?」


「あれ?ああ、聖ロワンナの殉教剣の事ですよ」


「・・・・だから何を言ってるんですか?私がそれを持っているとでも?」


「えっ?腰に差している、その剣の事ですよ」


馬車が止められた。クリスさんはこちらを警戒して睨みつけた。


「あなたは何者ですか・・・、何を隠しているんですか?」


「えっ?姿も、身分も、目的も隠しているクリスティーナさんに、隠し事を非難されるとは思いませんでした」


クリスさんは馬車を飛び降りると剣を抜き、構えた。


「私の質問に答えなさい」


こちらも、メアが御者台に移動してクリスに対峙した。


「では言います。俺の目的は王国を救う事です。そのためには、ゴブリンもアンデットも邪魔なので、排除しようと行動しています」


「義侠心で王国を救おうと?それを私に信じろと言うのですか」


「いえ、義侠心なんて無いですよ?見返りがあるのでやるんです」


「なんだ、その見返りとは」


「いやね~、王国を救うと混沌の神々がご褒美をくれるんですよ〜」


俺はお年玉の額を皮算用する子供の様な笑顔をクリスに見せた。


「なるほど、悪しき存在の一味だったか」


「なんのつもりですか?」


「当然、お前達を討伐する」


「それ・・・、なんの意味があります?」


「意味?」


「貴方が馬鹿じゃ無いなら、討伐しようとしたらどうなるか、わかるんじゃ無いですか?」


「私が負けるとでも言うのか?」


「いえ、そうじゃなくて」


「なら、何だと言うんだ」


「まず、戦えばクリスティーナさんとメアが相打ちになります」


「私には聖剣がある」


「メアは幾つもの体を持っています」


メアは俺の意図を察したか、コミュニケーション用のメアを、隣にもう一体出した。


「ちっ、化け物が」


「貴方がその聖剣の力で、メアを一体道連れにしても、まだまだメアはたくさんいます。相性の問題です。なのでクリスさんは、聖剣に頼らず戦わないといけない。結果は良くて相打ちですよ」


出発する前に支店長から聖剣の話を聞いた俺は、街を出る前にメアに事前に確認しておいた。メアの答えは、犠牲の剣の力でクリスがメアとの相打ちを狙っても、聖剣の能力が【刺した物と刺された者の互いの肉体を失わせる」であるので、メアにとっては体の一つが失われるだけで、被害は軽微だと。


「なら、人類の敵と相打ちするまでだ」


「無駄死にですよ?」


「無駄死にでは無い、人類の脅威を倒せるのだ」


「いや、だって、わざわざ聖剣を盗み、アンデットと刺し違え殉教し、騎士団や教会を後悔させようって、あなたの目的が達成できなくなるんですよ?メアという脅威をまだ誰も知らないんですから」


「だから見逃せとでも言うのか、馬鹿な。・・・それに私はそんな下賤な目的で行動していない」


「本当に良いんですか?このままだと、聖剣を盗んでアンデット討伐に向かったけど、途中でのたれ死んだ愚かな女と思われますよ?」


「・・・そ、それがどうした!それが自己犠牲だ、お前達化け物には生涯、理解できないだろうがな」


「じゃあ、見逃して俺達に協力した後を考えてみましょう」


「・・・後?」


「そう後です。まず、メアは肉体の一つを犠牲に、レバン平原の強力なアンデットを倒します。それは容易に可能だと思いませんか?」


「・・・続けろ」


「その後、私たちとクリスさんは協力してゴルドを討ちます。メアもクリスさんも単独では倒すのは厳しいかもですが、協力すればゴルグを倒せそうじゃ無いですか?」


「確かに・・・私が二人いれば、ゴルグを倒せるだろう」


「王国は救われ、多くの無垢の民が救われます」


「確かに、お前たちと相打ちになれば、アンデットとゴルグによって王国も公国も滅ぼされ、帝国すら危ういかも知れない。だが、協力した後、お前たちがそれ以上の脅威にならないと言えるか?」


「ゴルグのゴブリン軍を倒した後を気にしているんですね。奴らを倒せば、私は王国からお礼を貰えるでしょうね、最低でも伯爵、多ければ公爵領規模の領地を」


「一貴族として満足すると?」


「それだけの貴族になれば、騎士団も欲しくなりますね」


「一体・・・何の話だ?」


「私は騎士の知り合いがいません、公爵領の騎士団長を探さないといけませんね」


「まさか、私を地位で誘惑するつもりか?悪魔らしい発想だな」


「どうです?」


「断る、悪魔と取引などしない!」


「地位には興味が無いと?」


「無い!」


「本当に?」


「・・・断じて無い!」


「はー、嘘は良く無いですよ」


「・・・嘘ではない」


「1番強く、1番の功績をあげている私が、女であるというだけで評価されない。このままでは、生涯ただの一騎士のまま・・・、公国か王国で生まれていれば、私はもっと評価されているはずなのに」


「・・・・!?」


「そう思ったことが無いと心から言えますか?一度もそう言った考えが、頭をよぎった事が無いと?理不尽だと、不当な扱いに、怒りの感情が湧いた事が一度も無いと?」


「・・・・」


「その沈黙が答えじゃ無いですか?貴方の功績で汚れ仕事を、永遠させ続けられるのはどう考えてもおかしいですよ」


「そんな事は無い。・・・私は現状に満足している。そっ、そんな考え・・・よぎった事は無い」


彼女は消え入りそうな声でそう言ったが、そんな奴が殉教しに異国まで来るか?毎週欠かさず教会に行ったりする程、信心深くも無いのに。


自暴自棄になって剣を盗んで来たんじゃないのか?


彼女が剣を盗んで出奔した話は、既に聖王国のキール商会支店にも知られていた。何か飯の種になるかと、商会は彼女の素行を調査したそうだが、彼女は騎士団にあまり馴染めてなかったらしい。いつも一人で故郷の村にさえ友人がいなかったそうだ。


彼女の力は異常だ、恐怖や嫉妬もあったのだろうが、親でさえ彼女を怖がった。幼少期の孤独な環境のせいで、人づきあいが苦手な性分になってしまったのも、騎士団での孤独を深めた原因だろう[みんな私を怖がって避ける、私は誰にも・・・]そんな心の叫びが聞こえてきそうだ。


「皆、貴方をもっと尊重すべきだったのです。貴方の貢献に、貴方の犠牲に、私が公爵でNo.1、メアが家宰でNo.2、クリスさんが騎士団長でNo.3、どうです?ザンクランド王国公爵の騎士団長様?俺とメアと仲間になりましょう」


「・・・・・・仲間」


どれ位たったか、彼女の心には色々な事が巡っているのだろう、下を向いたまま、長い沈黙があった。いざとなったらメア頼みで、俺は全力で逃げるしかないが、彼女は自暴自棄になっているかもだが、王国の民を自分の殉教に巻き込みはしないだろう。アンデットとゴルグを倒した後はどうかわからないけど、今は俺達と手を組むしかないはずだ。


「私は・・・別に地位欲しさ・・・ではない。ゴブリンとアンデットを倒し王国を救い。お前たちが悪しき事をしないか監視するためだ」


それは、こちらと手を組むクリスの中でギリギリ自分を許せる言い訳なのだろうがそれじゃ困るな。


「では、俺の騎士になると」


「・・・ああ」


「ああ、では困るけど」


「・・・貴方の騎士として、常に誠実に裏切らず、貴方の命と誇り、領土、領民、財、その全てを命をかけて守り、貴方の敵と戦います、この命がある限り貴方に忠誠を捧げる事を誓います」


「状況によっては、お前がこれまで敵としていた者たちと、交渉したり同盟したり、お前がこれまで味方だった者たちと敵対するかも知れない、それでもか?」


「はい、二言はありません、我が君」


これが闇落ち女騎士さんですか。ま~完全に闇落ちしたのか、表面上今は従うしかないと臥薪嘗胆しているのかわからないけど、今はそれで良い。


そうだ、彼女が騎士の姿を隠し、男の商人に見えるようにしていた手段を聞いておかないと、何故か俺には最初から女騎士に見えていたけど。


メアに聞いたら、メアには男の商人に見えていたらしい。俺には青い狼が骸骨を噛んでいる意匠が描かれた胸甲が、最初から見えていたのだけど何でだろうか?


まあ、わからない事を考えていても仕方ないか、剣を借りてさっさとアンデットを倒しに行くか。


「クリス、お前はどうやって姿を偽っていたんだ?」


「・・・我が君、こちらの魔道具です」


首飾りを見せられた。なるほど、これがそうなのか。魔道具とはゴードンさんの魔導通信の水晶の様な、制作過程か使用時に魔法が必要な物の事らしい。


「なるほど、それか、解除して置いてくれ」


「わかりました」


彼女が姿の偽装をやめたらしい、いや俺には変わっているかわからないけど。


「メア、クリスの姿は変わったか?」


「・・・・・・」


「メア?」


「・・・変わったぞ」


何の間だったんだ?栗色の髪に、意思が強そうな青い瞳、背は俺たちより高い、歳も上に見える、二十歳位だろうか?顔もメーメル程では無いけど整っているし、特に固まる容姿でも無い気がするけど。


「メア、どうしたんだ?」


「別に、何でも無いぞ、クリス、剣を寄越せ」


「・・・どうぞ」


ま〜、メアがNo.2でクリスがNo.3と言ったから、この関係で良いのか?メアは俺に対してもこんな感じだし。


一件落着した俺たちはレバン平原に向かった。


-------------sideクリスティーナ-------------


私には力がある、物心ついた頃には喧嘩で誰にも負けなくなっていた。


田舎の寒村に、私の噂を聞いた騎士団が勧誘に来たのは15の時だった。


私を気味悪がっていた両親は、二束三文で私を騎士団に売り払った。それから今まで両親に会っていない。村に親しい人はいなかったし、いい思い出も無かったから戻る理由もなかった。


騎士団所属の魔導士によれば、この力は、無意識の内に身体強化の魔法を、私が使っている事から生まれているらしい。私の魔力量は異常らしく魔法攻撃に対する耐性もあるらしい。


騎士団でも、誰も私に敵うものはいなかった。ここでも私は孤独だった、別にいじめを受けているわけでは無い。ただ、周りは私を怖がり、腫物を触るように接されるだけで、それは私にとっては村で生きていた時と同じ普通の事で気にならなくなっていたけど。


騎士団で働いて5年、私は人生について、考えるようになってきた。自分の人生の終わらせ方だ。


私にも憧れの存在がいる、聖ロワンナだ。私の騎士団の名前にもなっている彼女だ。


彼女は聖王国を救う為に、犠牲の剣を使い。国を危機から救った。彼女を讃える歌は吟遊詩人に多く作られ、物語として子供に読み聞かせる絵本に使われている。私も幼き頃に彼女の物語に涙した記憶がある。


私もそうなりたくなった。


生きていても楽しい事は何も無い。私を好きな人も、私が好きな人もいない。こんな孤独の人生に飽きてしまった。だから、せめて死後に皆に好かれたい、そう思って衝動的な行動を起こしてしまった。


王国がゴブリンに襲われたと知った私は、犠牲の剣を盗み王国に走った。


王国を救い、王国の聖ロワンナになる為に・・・。


王国には、ここ数年、任務でよく赴いてた。私はこの地を気に入っていた。私の最後の地として悪くないと思えた。


私が、ヴァインセンについた頃には、王国はゴブリンとの決戦に敗れた後だった。ゴルグと刺し違えようと思っていたけど、レバン平原に強力なアンデットが出るのかも気にしなければいけなくなった。


私が倒せるのはどちらか一体だけだけど、どちらを残しても王国は滅びてしまうだろう。そうなれば私を惜しんで歌ってくれたり、私の物語で涙してはくれる人は誰もいなくなってしまうだろう・・・。


ヴァインセンでルーシアという、男と同室になった。男と同じ部屋で寝るなど、経験したことの無い事態に、本来なら緊張するはずだが、私は、先の絶望で頭がいっぱいだった。どちらを倒すか・・・。


なんの為に、私は王国に来たんだ。私の最後すら何の意味が無いなんて・・・。剣を盗んでしまったのだ、もう聖王国に帰ることもできない。


唯一の希望はこの男たちが、レバン平原のアンデットを討伐しようとしていることだ。あのメアという女はかなりの力があると感じる。彼らがアンデットを倒せれば、後は私がゴルドと刺し違えて、当初の目的を達成できる。


しかし、この考えは間違っていた、こいつらも人類の敵だったのだ。


この男は私がアンデットと刺し違えようと王国に来たと思っている。まあ、ゴルドと刺し違えようとしていたんだ、似たようなものだが・・・。


男は私を部下にしようと、勧誘してきた・・・。


なんだろう、この感覚は・・・、この男も、女も私を恐れていない・・・。男にいたっては私を便利な手駒にしようとすら思っているみたいだ。


このメアという女は、なぜ、私と同じ程の力を持っているのに、この何の力も無さそうな男に従っているのだろうか?


同じ力を持っていて・・・同じ主君に従う・・・仲間か・・・。


自分の感情に説明がつけることが出来ない、でも結局、この男に騎士として従う道を選んだ。


私はおかしくなってしまったのだろうか?メアに「クリス、剣を寄越せ」と言われて何故か嬉しいと思ってしまった。私は皆が恐れるように、普通の人間じゃなく、元来、化け物だったということなのだろうか。


「クリス、これ」


メアが剣を渡してきた。かなりの刀匠が鍛えた業物にみえる。


「これは?」


「私が作った。お前にやる」


「・・・ありがとうございます」


誰かから手作りのプレゼントを貰ったのは、これが初めてだった。


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