13_キール商会ヴァインセン支店
無事、ヴァインセンに着いた。
ヴァインセンは、王都程堅牢そうではないけど、それでも1重の石造りの城壁に囲われている。
メーメルに聞いて知ったが、王国は殆ど石材が取れないらしく、石材はミュールズからの輸入に頼っているみたいだ。だから、北部の港から離れた、南に行けば行く程、石材建築が少なくなるそうだ。
「最前線の南が最も防御力に劣るのは、石材が無いので仕方ないこととは言え残念ですね」
「仕方ねぇんです。南にまで石材を運んだら輸送費で、王国が傾いちまいます」
「それはまずいですね。ベレトさん、王国は何か他に南に対する対策はして無かったんですか?」
「王国は、昔、船で北から上陸した船乗り達が、この王国を作ったんです。それでその後、南へどんどん領土が広がったのは良いんすが、領土が広くなりすぎて、王国は南を木の城壁の街で守のに不安を感じたんでしょう、騎兵を育てること注力したみてーで、レバン平原で負けるまで、王国は1万の騎兵を有する騎兵大国だったんでさー」
「なるほど、王国はそういう歴史があったんですね」
「すいません」
「ん?」
「俺は物心ついた頃からずっと傭兵で、あまりかしこまった言葉でしゃべれねぇんです」
「全然大丈夫ですよ。俺は戦士に戦う事を求めたとしても、言葉使いを求めたりしないです」
そんな事を気にしていたのか、ベレトさんは真面目な人なんだな。
ヴァインセンの城門に近づくと、北門には長い行列が出来ていた。これは何時間も待たされそうだなと考えていると、ベレト隊長が槍の先に旗をつけて、穂先を天高く掲げた。
すると向こうの方から役人が走ってきた。
「キール商会の方ですね」
「キール商会、王国支援船団の地上護衛を担当している隊長のベレトだ」
そういうと彼は何か書類を役人に見せた。
「確認できました。ではこちらに」
並んでる列をどんどん抜かして街に入った。何か悪い事をしている様な気がしてくる。移動途中、メアが馬車を一人で乗っている人を睨みつけていた。知り合いなのか?馬車での一人旅は珍しいが、そんな事で睨みるけるような不必要な事をメアはしない。きっと何か理由があるはずだ。後で聞いてみよう。
まず、ベレトさん達とキール商会のヴァインセン支店に行くことにした。支店長が挨拶したいそうだ。
支店は王都程の大きさでは無かったが、デカい厩舎があった。王国は騎兵大国と言っていたが、商会は馬の販売もしているのだろうか?キール商会は、ただの貿易会社ってわけじゃ無いのかもしれない。
ヴァインセン支店長は40代後半位の白髪のダンディーなおじさんだった。フランシスやメーメルの例があったから、また若い人が出てくるのかと思ったが、逆に安心した。キール商会は純粋に実力主義なのだろう。支店長は話が面白く、思わず長居してしまった。商人のトーク力恐るべきだ。
急用で、支店長が一時離席した。さっきの疑問をメアに聞いておこう。
「メア、さっき列を抜かしている時に、馬車で一人旅をしている人を睨んでいたのはどうしてだ?何かされたか?」
「睨んではいない、警戒はした」
「警戒?なんでだ」
「かなり強い、あの場で襲いかかってきたら、ルーシアを連れて逃げるしか無かった」
「えっ!?あいつがか?」
「そうだ」
そんな強そうには見えなかったけどな、筋肉もりもりでもないし、戦えるタイプに見えなかった。
「ルーシア、戦う力を測る時、見た目は重要じゃ無いぞ、肉体的に弱そうに見えても、強力な魔法を使うかもしれないと考えろ」
「な、なるほど。わかった、気をつける、ありがとうメア」
そう考えると、馬車で一人旅で護衛がいないのは、戦いには自信があるという事か・・・。そういう事も考えないと・・・勉強になるな。
「ちなみに、俺がいなきゃ勝てるか?」
「軽騎兵を呼び戻せば勝てる」
「今の状況だと?」
「互角だ、わからない」
「戦うとしたら、戦闘用のメアを出すのか?」
「いやこの体で戦う」
いや、その体はコミュニケーション用じゃ無いのか?とも思ったが、良く考えると、俺の護衛にメアが手を抜くとも思えない。このメアは相当のリソースを注いでいるんだろうな。
支店長が戻ってきた。
「すいません、離席してしまって」
「いえ、全然大丈夫ですよ。所で旅の途中、青い狼が骸骨を噛んでいる旗を見たのですが、何処の旗かご存知でしょうか?」
「それは・・・確か聖王国のアンデット討伐を行っている騎士団に、そのような旗の騎士団がいたと思うのですが、実際見たことや、取引した事は無いですな」
聖王国はミュールズ公国の南西、帝国の西の半島にある宗教国家で、多くの宗教的な騎士団を抱えているそうだ。前世で言うチュートン騎士団やテンプル騎士団の様な集団なのだろうか?
「なぜ、王国にいたんでしょうか?」
「それはレバン平原が原因かもしれません」
「レバン平原?」
「ルーシア様達は、海を渡って王国に来たと聞いています。そちらでは戦が終わった後、死体をどう処理するか存じ上げませんが、こちらでは戦いが終われば、必ず戦場跡の供養をします。そうしなければアンデットが大量に出てきて、周囲の街や村を襲ってしまうからです」
「なるほど、今回は、王国が大敗して、戦場後の供養をする余力が無かったと聞きました。だからレバン平原がどうなっているか、聖王国のアンデット対策の騎士団が確認しにきた可能性があるんですね」
「恐らく、そう思われます」
これって聖王国による、王国への内政干渉なんじゃないのか?ま〜、俺が気にしてもしょうがないことだけど、アンデット対策をしてない王国も悪いとも思うしな。近隣国でアンデットが大量発生するかもしれなければ心配もするだろう。
「所でゴブリン達はアンデットに襲われたりしないんですか?」
「いえ、アンデットにとっては、生者は等しくすべて敵のはずです。ただ、知性を持ったアンデットとは、状況に応じては生者でも交渉が可能な時もありますが・・・、基本的には襲われると考えて良いでしょう」
「じゃあゴブリン達はなんで、戦場後の処理をしなかったんですかね?」
「理由はわかりませんが、推測するなら・・・、ゴブリン達からすれば、もし敵地でアンデットが大量発生したとしても、一旦、故郷に戻り休息し、アンデットが退治された後、また改めて王国を攻めれば良いと考えているのかもしれません。それか、供養を担当するゴブリンの神官達も、王国の様に治療で手が開かないほど、軍に被害が出ていたかもしれません」
「なるほど、そういった可能性もあるんですね・・・。色々と教えて頂きありがとうございました。宿が決まりましたら連絡します。では」
立ち去ろうとすると支店長に静止された。
「お待ちを、今ヴァインセンは避難民で溢れかえっていて、宿は全部埋まっています」
そうか・・・、王都が避難民でいっぱいなら、前線はもっと避難民で一杯なのは当たり前の事か・・・、困ったな。
「参りましたね」
「良かれば商会の客室を使いませんか?」
「よろしいのですか?」
「出張や、新任で来た従業員用の部屋が、2部屋用意出来ます。貴賓室では無いのですが・・・」
「いえ泊まれれば充分です、ありがとうございます!」
「では用意させます。支店の近くなので戻られましたら案内します」
「わかりました。このご恩は忘れません。所でその客室ですが、泊まる人数が増えても良いですか?」
「他にお連れの方がいるのですか?」
「まだわからないのですが、もしかしたら増えるかもしれません」
「わかりました。人が増える際は申し付けてください」
「はい、では」
恐らく、今外に列に並んでいる人達も今日の宿に困ることになるんだろうな。
今度こそ支店を出た。まずは王都でメーメルと、昼食を食べに入った酒場の様な場所を探そう。こちらでも王都のように酒場に傭兵達が集まっていれば情報が集まるかもしれない。




