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10_メーメルの献身

「メー姉、無事で本当に良かった!」


フランシスは涙目になりながら、私の無事を喜んでくれている。彼は私の従兄弟で同じ街で生まれ育った。小さい頃は良く一緒に遊んだものだ。

スミット家の一族は代々、ミュールズ公国の公都で蹄鉄鍛冶屋を営んでいる。その中で私とフランには、一族では珍しく商人の道を目指した。幸い商才があったようで、フランはザンクランド王都支店長に、私は公都本店の帝国向けの隊商を統括する幹部に出世出来た。


「ありがとう、フラン」


フランはフランシスの愛称で、親しい人は彼をそう呼ぶ。


「他の者はどうなりましたか?」


「残念ながら・・・、助かったのは私だけよ」


「そうですか・・・。でもメー姉が無事で本当に良かった。あの日から何をするにも集中出来ず、そろそろ故郷に、訃報を書かなければと焦ってました」


「フランもやらねばならぬ事を、後回しにする事があるのね。・・・それで、バレンはどこ?」


あの野郎、会ったら何発か、顔面をぶん殴ってやる。今この場にいなくて命拾いしたわね・・・バレン。


「公国に戻って、王国支援の仕事を続けています」


「そう・・・、私が死んだと聞いて、さぞ喜んでいたでしょう」


バレンは私が商会の幹部になった後、事あるごとに私に嫌がらせをしてきた。30も後半の大の大人のバレン様は、僅か17歳の私に対して執拗にライバル心を燃やしてきた。私が消えて清々してるに決まってる。


「いえ・・・。今まで見た事がない様な青白い顔でした。かなり責任を感じていた様に見えましたけど」


「・・・そう、バレンの奴が?以外ね・・・」


「自責の念かはわかりませんが、あの日から1日も休まず献身的に働いているそうです」


・・・私はバレンに偏見があったのかも知れないわね。別にバレンは無能じゃない。どころか、キール商会の幹部として十分な能力がある。今回判断を誤ったのは、王国存亡の危機への対処として、私と同じ様に出来る限りのことをしようとしたからかもね。


ま〜。私なら信用を失ってでも、他の取引先向けの積荷を積んだ船の荷を下ろさせ、王国支援船団に加えさせていたけど。王国と公国が滅べば商会も無くなる、他の商会が我が身大事に出し惜しみをして、キール商会だけが一時的に損をしたとしても、最終的に王国からそれ以上の利益を得れるように、恩を売り、交渉で利益を勝ち取るのが商人の腕の見せ所なのよ。


ただ、一商会の幹部にこの判断を求めるのは酷かも知れないわね。顔面パンチは2、3発で許してあげましょう。


「そう・・・。あまり彼を恨むのも悪いかもしれないわね」


「それで、彼らにはどの様な対処を?」


「あの女の方、おそらく帝国の宮廷魔術師レベルの大魔法使いよ」


「えっ!?本当ですか?」


帝国とは公国の南にある、人口1000万人超えの大国で、旧統一帝国の正統継承国を自称しており、人口だけなら世界一の大国。その中でも宮廷魔術師に選ばられるのは、わずか100人程、それだけ高いレベルの魔法使いと同等レベルの魔法使いと言えば、大陸北方ではかなり珍しい。フランが信じられないのもしょうがない。


「だから、お礼は多い方がいいわ」


「で、あれば1万枚でどうでしょう?」


「妥当ね。それに、王国銀貨じゃなく、帝国銀貨で払いましょう」


「そこまでですか?」


「もしも彼らがこの地を去ったとして、王国銀貨では無く、帝国銀貨で私たちがお礼を支払ってた事の意味を知れば、私たちの誠意が伝わるはずよ。それに二心を悟られずに済む」


王国を出れば当然、王国の通貨の価値は下がる。その上、王国が滅びれば、王国の貨幣の価値は金の価値でしか無くなる。彼らが王国外に出た時、それらの事情を知れば、私たちの誠意の気持ちに気づいてくれるはず。常に最悪な状況でも利益を得れるように手を打つのが一流の商人なのよ。


「二心?」


「私は、王国の為に、彼らをゴブリンと戦う様に誘導したいの、彼らにそうと悟らせないようにね」


「なるほど・・・。大魔法使いが王国に加勢してくれれば・・・あるいは」


「まー。それだけで王国を救えるとは流石に思ってないけど、王国を救う為に、打てる手は全て打つつもりよ。たとえ女の武器を使ったとしてでも・・・」


「色仕掛けですか?彼らは恋仲では無いのですか?」


「まだ確信していないけど、あの二人はそういう雰囲気じゃないのよね。ここに来るまで何度か、男の方と二人で話したりとか、恋仲なら彼女が嫉妬したり不快に思いそうな機会が結構あったのだけど、特に彼女が、不快に思ったり、嫉妬したりする事は無かったわ」


彼女にライバル視されてないとは思えない。私は昔からかなりモテる方だ。今まで愛を告げられた機会は、両手で足りないほどある。客観的に見て私は顔もスタイルも良いし、家事も得意だ。男に好かれる要素を多く持っている。男勝りの、この性格がなければもっと多くの男性に好意を持たれているだろう。それに金持ちだし、彼を籠絡する自信は十分ある。というか、既に彼は私に気があるそぶりがある。


もう少し彼らの関係性を調べてからになるけど、女の方は彼の方針で動いていそうだから、彼を落とす方が確実。それに彼女と友達になるのは正直難しそう。ログハウスで二人になった時に、結構フレンドリーに接したつもりだったのだけど、王国の為に、ゴブリンと戦ってと頼める程、信頼関係を築けなかった。


「フランシスさん、大変です!」


商会の密偵が慌てて報告しに来た。


「何があったんです?」


「王国軍がレバン平原で大敗しました」


「メー姉!」


「フラン・・・、何があっても王国を救う方針は変わらないわ。詳細の話を教えて頂戴」


「はっ」


・・・最悪な報告ね。王も王子も主要な貴族も全滅。


王国はかなりまずい状況ね。


でもやるしかない。


王国が滅び、公国も滅べば、私は帝国に逃げるしかない。帝国は伝統的な国だから、今の様に商人としては働くことが出来ない。女の私は娼婦か良くて貴族の情婦になるしかない。それは・・・嫌だ!


ここが踏ん張りどころね!全身全霊で王国を救う。私のより良い未来の為に・・・。



ルーシア達との話し合いが終わり、彼らを王都に案内出来る事になった。


服はどうしましょう?これは流石に露骨過ぎるかしら?私は胸の所に大きな穴が空いた服を持ちながら悩む。勿論、色仕掛けは最後の手段だけど、種を撒いて置く必要はあるはず。


私は今までの人生モテてきたけど、私から誰かにアプローチをかけたことは無かった。仕事が楽しくて、恋愛している暇なんてないと思い。誰かと付き合おうと思ったことが今まで無かった。


結局、さんざ悩んだあげく、清楚に見える様な無難な服を選んだ。あまり彼らを待たせるわけにはいかないし、これでしょうがない。でも・・・彼に、受けが悪かったらどうしよう・・・。こんな事、初めて考えた。


友達から恋愛について、相談された時も、私は今まで誰かを好きになった事が無いから、あまり親身に話を聞けなかったけど、これは・・・きついわね。


別にルーシアに恋愛感情は無いけど、それでも彼に好きになって貰おうとしてる今、彼に気に入られなかったらと考えると吐きそうになる。


何故、ここまでするのか・・・。着替えながら考える。

王国が滅んだあとの公国の危機を未然に防ぐためは勿論、

出来ればザンク人にも死んでほしくない。同じ人間だからが理由ではない。


我々、ミュールズ人には大なり小なり親ザンクランド感情がある。それは過去の[2度の大恩]と呼ばれる逸話が理由。かつてミュールズ人が現聖王国がある半島に住んでいた時、祖先は聖王国に迫害されていた。当時ザンク人も同様に迫害されていて、彼らは迫害を逃れるため、北に向かう船団を用意して後に、[果てへの航海]と呼ばれる冒険に出発した。その時、私たちの祖先はザンク人のフレン、ベルグが率いる船団に同乗させてもらったのだ。


私たち分の船を用意するのに、出航が3か月遅れると知った多くのザンク人の多くは反対した。夏に出航し実り豊かな秋に新天地に到達する計画が崩れるからだ。だが、フレンとベルグは私達の祖先を受け入れてくれた。これが1度目の大恩だ。


新天地を目指す船団は最初、現ミュールズ公国がある土地を見つけた。だが、そこはザンク人が生活するには手狭だった。そこでフレン、ベルグは、この発見した土地をミュールズ人に与えて、自分達は当てのない航海を続けることにした。


その際、フレンは後のミュールズ公国の公爵になる一族の祖先の族長に「これ以上、当ての無い航海に付き合わせるわけにはいけない。この土地を君たちに与える。君たちの人数なら十分の広さのはずだ。それと食料も分け与える」と言った。それに族長は感激し跪いて号泣しながら「ありがとうございます。この御恩は決して忘れません。部族の長として、我々はいずれ必ずこの御恩に報いると誓います」と誓った。これが2度目の大恩だ。


北の越冬は厳しいものだった、我々の祖先は最初の冬を超えるのに1割の死者を出したそうだ。地獄の越冬だったのだろう・・・。

しかし、後に真冬に、現ザンクランドに到達したザンク人達が、冬越えに4割の死者を出したと我々は知った。ミュールズには冬の寒さに子供が駄々をこねた時、両親から「ザンク人はもっと寒かったのよ」と我慢させる慣用句が今でも残っている。


何千年前の話だ、気にする必要は無いと言う人もいるかもね。でも、少なくとも私も、判断を誤ったバレンもこのザンク人に対する、後ろめたい思いを含んだ感謝の感情がある。商人としての私の信条としても、受けた恩は倍で返さなくちゃね。フレンとベルグが天国で私たちの祖先を助けてよかったと思うように・・・。


着替えが終わった、彼らが待っている早くいかなきゃ。涙を拭って歩き出した。

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