13、従者はやっぱり楽しい
私がエーリカさんの従者でいるのも、今日を含めてあと3日になった。そんな日に、私はエーリカさんに誘われて遠出をすることになった。ジョブを従者から御者に変更して、久しぶりに馬車で風を切る感覚を楽しんでいた。少しずつ風景に木が混じり始めてきた。
「もうそろそろね。」エーリカさんが目を細めて丘の上を見ながら言った。
「何があるのか楽しみです。」わざわざ私と遠出をしたということは、よっぽど見せたいものがあるのだろう。それが何なのかと、期待がどんどんと膨らんでいく。
「期待は裏切らないはずよ。」
「もっと楽しみになってきました。」
「絶対に驚くわよ。」フフフとエーリカさんが笑い出した。
私たち2人の笑い声と共に、どんどん馬車が丘を登って行った。もう少しで一番上に着きそうである。私の期待はもうはち切れそうである。
「どう、スゴいでしょ!」
「うわぁ。」
私の目の前に広がっていたのは、きれいなピンク色の雲、そう桜である。まさか、この世界でもお花見をできるなんて思ってもいなかった。これなら、もっと期待していても良かった気がした。
「どう、ハルヒ?」
「スゴいです。さすが、エーリカさんですね。」
「あなたの言っていたお花見とは、このようなことで良いのかしら?」
「はい、もちろんです。」
「では、昼食にしましょうか。」
「私が準備しますよ。」彼女が持ってきてくれたシートを引いて、その上で朝起きてから作った弁当の蓋を開けた。
エーリカさんは本当にスゴい。勉強やらお稽古やらで時間が無いはずなのに、いつの間にこんな弁当を作ったのだろうか。弁当を作るのは始めてなはずなのに、器用に食材が並べてあった。私が作る料理より美味しそうに仕上がっていた。
「どうですか?」
「...。」
「ちょっと違いましたか?」ふと顔を上げると、エーリカさんが心配そうな目で私の顔を覗き込んでいた。
「あ、いえ、大丈夫です。」
「本当に?」
「はい、美味しそうで驚いていただけですから。」
「そねなら良かったです。」目の前に咲き誇る桜のように、彼女の顔も笑顔でいっぱいになった。今日はきれいなもの尽くしのようだ。
「では、食べましょうか。」
「そうね、もうぺこぺこよ。」
「お、美味しいですね。」びっくりするほど美味しかった。この世界の料理にあまり慣れていないのだが、思っていたよりも美味しいということが分かった。
「そうね...。」
「どうしましたか?」何だかエーリカさんに元気がなさそうだった。さっきまでは、あんなに笑っていたのに。一体どうしてしまったのだろうか。
「その...。」
「何でも言ってください。私は大丈夫ですから。」
「ハルヒが来た時は大変だったのよ。執事から料理人までが反対してきたので、その対処に忙しくて...。そして気付いたら、あと3日になっていたんです。その...だから、もうちょっと時間が欲しかったなぁと。」
「...。」急にそんなこと言われても困る。ちょっと俯き加減に言われても困る。今までお世話になっていたのを知ったから余計に困る。
「暗い話はここまでにして、お花見をしましょう。」
「そうですね、折角ここまで来たのですから。」
エーリカさんと2人きりになれたし、エーリカさんが頑張って準備してくれたし、エーリカさんも楽しみにしていたようだし、エーリカさんの従者でいるのもあと少しだ。それに、最低限度の礼儀として楽しまなくては。
その後は、楽しく雑談をしながら昼食を食べていると、西の空が赤くなってきた。丘にいるのも相まって、水彩画を見ているような気持ちだった。少し眺めていると、隣のエーリカさんがもじもじし始めた。
「どうしましたか?」
「折角ですが、もう帰らなくては。遅くなるかもとは伝えていますが、あまりに遅いと怒られてしまうので。」
「エーリカさんも大変だね。」やっぱり良家のお嬢様だから、帰りが遅くなるのはマズいのであろう。十分に楽しめたし、ここは帰っておくのが無難だろう。
「私というよりかは、主にハルヒですよ、怒られるのは。」
「えっ?」
「私の従者なのですから、職務放棄だと思われてしまいますよ。」
「あ...。」行きに馬車を運転した時に、ジョブを御者に変更していたのだ。従者でなかったから、どうりで危機感を覚えなかった訳だ。
「さあ、帰りましょう。」
「はい、急ぎましょう!」
エーリカさんにその話を聞いた時からしていた嫌な予感は、しっかり命中してしまったようである。お屋敷のドアを開けた途端、メイド長から説教が飛んできた。エーリカさんの執り成しもあり、何とか夕食抜きで済んだ。
「良いですか、今日明日は部屋に籠っていてくださいっ!」
「メイド長さん。」
「いいから!」
「はい、分かりました。」
私の言い訳くらい聞いてくれても良い気がするが、仕事だから上司の命令を聞く必要があった。それに、エーリカさんに迷惑もかけられないし。ふと窓の外を見ると、満月がまん丸に輝いていた。色々あったが、私の心も満ち足りていた。最後に、遠出ができて良かった。
さて、次の仕事はとは何でしょうか?
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
もし面白いなと思っていただけたなら、ポイントやリアクションもお願いします。
今後とも八咫烏をよろしくお願いします。




