69. 決着
決着です。
白く染まった視界が、
ゆっくりと色を取り戻していく。
焦げた石の匂いと、
焼けた空気が肺を刺した。
レーヴァテインを手にしたまま、
マコトは崩れた大広間の中心を見据える。
そこには、
一人の女が膝をついていた。
全身は黒く炭化し、
ところどころ崩れ落ちている。
それでもなお、
蒼い光がその身体を無理やり繋ぎ止めていた。
ミスティだ。
神剣の力で、
主の肉体を辛うじて維持しているのだと理解する。
「……まだ動けるのか」
思わず身構える。
だが。
「警戒しなくていいわ」
エミリーが力なく笑った。
「もう……
指一本動かせないもの」
その声音に、
先ほどまでの狂気はなかった。
ただ、ひどく疲れ果てた女の声だけがあった。
マコトはレーヴァを下ろし、
ゆっくりと近づく。
「……終わったのか」
「ええ」
エミリーは静かに頷いた。
「ようやく……
終われるわ」
その時、背後で瓦礫が崩れる音がした。
「ってぇ……」
「リン!」
振り返ると、
瓦礫の中からリンが上体を起こしていた。
「生きてたのかよ!」
「誰がこんなんで死ぬかよ……」
立ち上がろうとして失敗し、
その場にへたり込むリンを見て、
エミリーが小さく笑った。
「元気な子ね」
その表情は、
先ほどまで別人のように穏やかだった。
「……話しておくわ」
エミリーが静かに目を閉じる。
「全部、終わる前に」
マコトは黙って耳を傾けた。
「私の名前は――西辻英美里」
その名に、
マコトの目が見開かれる。
「……やっぱりか」
「あなたも、
同じなのでしょう?」
エミリー――英美里が、
かすかに笑う。
「その顔を見れば分かるわ」
息を吐く。
否定する意味はなかった。
「……ああ、剣 真人だ」
英美里は小さく頷き、
空を仰いだ。
「スタンピードのきっかけを作ったのは、
風剣の勇者」
その声音に、
明確な憎悪が混じる。
「通称――強奪の勇者」
初めて聞く名だった。
「奴の能力は“奪う”こと。
対峙した人間はスキルを奪い取られるわ。
多くは命とともに」
マコトの背筋に冷たいものが走る。
「アルフレッドは、
あいつに殺された」
拳を握るエミリー。
「そして、
ミスティを奪われないためには、
限界まで力を使うしかなかった」
「アイツにミスティを渡したら世界が滅びるわ」
その手が、
震えていた。
「……私ね」
エミリーが、
ぽつりと呟く。
「あの人との子を……
授かっていたの」
誰も言葉を失う。
エミリーは、
どこか遠くを見るように微笑んだ。
「生きていてくれたら……
あなたたちと同じくらいになってるのかしらね」
その声は、あまりにも優しかった。
「あの人と、
私の子よ」
静寂が落ちる。
「そんな私が」
震える声で、
それでもはっきりと言い切る。
「自分から街を壊すわけないじゃない」
「……なのに」
英美里は自嘲気味に笑う。
「正気を失って、
壊していたら意味ないわよね」
沈黙が落ちる。
「ごめんなさいね」
そう呟いて、
英美里は胸元の赤い宝石の首飾りを撫でた。
「あなた」
その声音は、
恋人へ向けるものだった。
そして再び、
マコトを見る。
「ミスティがあなたのものになれば、
あいつは必ず狙ってくるわ」
「……強奪の勇者」
「ええ」
頷く。
「おそらく、あいつは、
スタンピードを自在に起こす手段を持っているわ」
「っ……!?」
「迷宮都市なんて格好の獲物ね、気をつけなさい」
その警告の重さを、
誰も軽く受け止められなかった。
「油断してはダメ、同郷の者として忠告するわ」
真っ直ぐに、
マコトを見据える。
「守りたいものがあるなら……」
その瞬間だった。
エミリーの身体が、
大きく崩れた。
「っ……!」
『エミリー!!』
蒼い光が激しく明滅する。
ミスティが必死に肉体を繋ぎ止めようとするが、
崩壊は止まらない。
『嫌……!
まだ……!』
「ミスティ……」
英美里が、
苦しげに微笑む。
蒼き神剣の悲鳴のような声が、
大広間に響いた。
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一部も残りもうわずかです。
二部以降も構想はありますが、続きを読みたい方はブックマーク・評価等で応援をお願いします。
反響いただければそちらも執筆しようと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。




