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59. 白花の墓所

二人での探索はもうしばらく続きます。

焚き火の熱を感じながら、

 ゆっくりと意識が浮上していく。


 重かった瞼を開くと、

 最初に見えたのは揺れる炎だった。


 落下。


 激流。


 救命措置。


 リンを抱えて必死に岸へ這い上がった昨日の記憶が、

 遅れて脳裏へ蘇る。


 ぼんやりとした頭のまま身体を起こしかけ、

 そこでようやく自分が下着姿のままだったことに気付いた。


「起きたか、マコト兄ちゃん」


 焚き火の反対側から、

 既に服を着終えていたリンが声をかけてくる。


「早く服着ろよ。

 風邪ひくぞ」


 そう言って、

 少し頬を赤くしながら乾いた服を投げてきた。


「ああ……」


 服を受け取り、

 袖を通す。


 服には焚き火の熱が移っていて、

 ひんやりしていた身体へ心地よい温もりが広がった。


 身体の重さも、

 昨日よりはずっとマシだった。


「ほら」


 次にリンが差し出してきたのは、

 先ほどまで自分が飲んでいたらしい金属カップだった。


 中から湯気が立っている。


「白湯だけどな」


 受け取って口を付ける。


 温かい。


 冷え切っていた身体へ、

 じわりと熱が広がっていく。


「……生き返る」


「だろ?」


 リンが少し得意げに笑った。


「少し食っとけ」


 今度は携行食を放って寄越す。


 手に取ると、

 こちらもほんのり温かかった。


 焚き火の横には、

 布で包まれた携行食がいくつか置かれている。


 食べやすいように温めてくれていたらしい。


「……準備良すぎないか?」


「だから言っただろ。

 準備が大切だって」


 そう言って肩を竦めるリンに、

 思わず苦笑する。


 実際、かなり助けられていた。


 持っていた荷物の大半は流されてしまったが、

 火種も、毛布も、携行食も、

 全部リンが守りきったものだ。


 もしレーヴァに任せきりで、

 リンが準備してくれていなければ、

 普通にここで死んでいた可能性すらある。


 そこでふと、

 腰元へ視線を落とした。


「……セト」


 在るべきはずのセトがそこになかった。


 濁流に呑まれた時、

 流されてしまったのか……


 その時だった。


 ちゃぷん、と水音が響く。


 リンが即座にアルバとノクスを抜き放った。


 僕も解体用ナイフへ手をかけ、

 身構える。


「……マコト兄ちゃん」


「ああ」


 視線を向けた先。


 水路の縁から、

 銀色の剣身がゆっくりと浮かび上がった。


 見慣れた形状。


 独特な鍔。


「…………セト?」


 水を滴らせながら、

 セトがぎこちなく宙を滑るように近付いてくる。


 途中で高度が落ち、

 一度石床へ転がった。


 だが、ふらつきながら再び浮き上がる。


「……お前……

 動けるのか」


「ガンバリマシタ」


 思わず言葉を失う。


 以前のセトなら、

 あの激流から自力で戻るなど不可能だった。いやいや、そもそもここまで自律的に動けなかったはずだ。


「キノウハオタノシミデシタネ」


「元気そうで何よりだよ……」


 思わず脱力する。


「……地味に成長してねぇか、コイツ」


 リンも呆れたように呟いた。


 セトはどこか誇らしげに、

 刀身をぴんと立てていた。


――――――


「……とにかく、

 出口探すしかないな」


「だな」


 装備を整え直した僕たちは、

 地下空間の奥へ進み始めた。


 通路の両脇には、

 等間隔に石碑のようなものが並んでいる。


 崩れて読めないものも多いが、

 名前らしき文字が刻まれているものもあった。


「……墓地、か」


 地下だというのに、

 空気は妙に澄んでいた。


 湿った地下特有の淀みがない。


 静かで、

 清浄で、

 どこか心を落ち着かせる空気だった。


「……やっぱ変だな」


 リンが周囲を見回す。


「ああ。

 地下――いや、死都とは思えないくらい、

 ここは妙に安心する」


 石造りの通路を進む。


 壁面には、

 規則的に古い紋章や彫刻が刻まれている。


 そして。


 しばらく進んだ先で、

 僕たちは足を止めた。


 周囲の墓碑より、

 一回り大きい。


 中央に据えられたその墓碑には、

 今なお鮮明な紋章が刻まれていた。


「……これ」


 その墓前には、

 白い花が静かに供えられていた。


 地下の空間には不釣り合いなほど、

 瑞々しい花だった。


 まるで、

 つい最近供えられたみたいに。


「誰かが来てる……?」


 リンが小さく呟く。


 この空間だけが、

 死都の中から切り離されているようだった。


 静かで。


 清浄で。


 まるで、

 誰かが今も大切に守り続けているみたいに。


now loading......

窮地を乗り切ったセトが地味にレベルアップしました。


面白いと思っていただけましたら、 ブックマーク・評価で応援いただけると励みになります。


引き続きよろしくお願いいたします。

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