54. 狂気の守護者
ようやく、
アクアリス編のボスたちが登場です。
雨域を抜けた先。
僕たちは、
静まり返った死の街アクアリスへ足を踏み入れた。
足元には半ば水没した石畳。
崩れた建物。
傾いた塔。
街そのものは確かに朽ちている。
だというのに――
「……妙だな」
リンが低く呟いた。
「妙?」
「崩れてるくせに、
荒れてねぇ」
言われて気付く。
瓦礫は散乱していない。
水没した街路にも、
邪魔な障害物がほとんどない。
まるで。
誰かが定期的に整えているかのように。
「管理されている……?」
思わず呟いた、その瞬間。
「――ええ」
女の声が響いた。
「当然でしょう?」
ぞくり、
と背筋が粟立つ。
いつの間にか。
前方の崩れた噴水の上に、
一人の少女が立っていた。
年は十代後半ほどに見える。
長い黒髪を揺らし、
白いワンピースを纏ったその姿は、
この廃都に似つかわしくないほど整っている。
だが。
その笑みだけが、
決定的に壊れていた。
「この街は――」
少女は、
両腕を広げて告げる。
「――あの人が愛した、
大切な街なのだから」
恍惚とした声音。
熱に浮かされたような瞳。
「だから私が守るの」
うっとりと、
恋を語るように。
「壊させない。
汚させない。
奪わせない」
その笑みが深まる。
「だって――」
少女は、
真っ直ぐ僕たちを見た。
「あの人がいなくなった今、
この街を守ってあげられるのは私だけだもの」
……駄目だ。
一目で分かる。
こいつは、
完全に狂っている。
――――――
「エミリー」
その背後に、
もう一つの声が重なった。
水面が揺れる。
そこから現れたのは、
一人の女性。
深い青を基調としたドレス。
長い髪。
穏やかな微笑。
だがその髪にも衣にも、
ところどころ墨を垂らしたような黒が混じっていた。
美しい。
だが、
この女性もどこか壊れているように見える。
「……ミスティルテイン」
レーヴァが低く呟く。
女――ミスティは、
穏やかに微笑んだ。
「お久しぶりですね、
レーヴァテイン」
その声音は柔らかい。
だが、
纏う気配は底知れない。
「なぜ今もその女に従っているのですか」
レーヴァが問う。
「あなたなら、
すぐにでも自由になれるでしょうに」
ミスティは困ったように微笑み、
隣のエミリーへ視線を向けた。
「この子を守ってあげられるのは、
もう私だけですから」
その声音は優しい。
本当に、
庇護者が子を見守るような声音だった。
だが。
その優しさが、
逆に不気味だった。
――――――
「ふふっ」
エミリーが笑う。
「ねぇミスティ」
「はい」
「この人たち、
街を汚すつもりでしょう?」
「ええ、
恐らくは」
「じゃあ――」
エミリーが、
腰の剣へ手を掛ける。
狂気に染まった笑みを浮かべたまま。
「その命で償いなさい」
瞬間。
殺気が爆ぜた。
同時に。
ミスティの周囲で、
大量の水が浮かび上がる。
「レーヴァ」
ミスティが静かに告げる。
「少しだけ、
お相手願えますか?」
レーヴァが一歩前へ出た。
「マスター」
「分かってる」
セトを構える。
リンも双短剣へ手を掛けた。
エミリーが嗤う。
「さあ――」
「私の街を汚した報い、
その身で知りなさい」
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
エミリーとミスティは、
かなり気合いを入れて作っているキャラクターなので、
ここから先の戦闘や掘り下げも楽しんでいただければ嬉しいです。
次回、戦闘開始です。
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