53. 拒絶の雨
拒絶の雨を越えていきます。
僕たちは、
目の前の異様な豪雨を見上げていた。
土砂降りと晴天の境界は、
まるで見えない壁でもあるかのように一直線に分かれている。
自然現象ではありえない。
「人の侵入を拒む術式……あるいはそれに類する現象ですね」
レーヴァが静かに告げた。
「アクアリスを守るためのものか、
あるいは侵入者を拒むためのものか」
「どっちにしろ歓迎はされてなさそうだな」
僕がそう言うと、
レーヴァは足元の石を一つ拾い上げた。
「確認しておきましょう」
そう言って、
豪雨の中へ放る。
次の瞬間。
石は雨へ触れた瞬間にじゅうっと音を立て、
みるみるうちに溶け落ちた。
「は?」
思わず間抜けな声が漏れる。
「……あまり当たらない方がいいですね」
いや、
それは見れば分かる。
「普通に入ったら死ぬだろこれ」
「ええ。 普通なら一分も持たないでしょうね」
リンも眉をひそめる。
「蒼麟旅団でも突破できないわけだ、こりゃ」
つまり、
ここから先は本当に“人外の領域”ということだ。
――――――
「ですが」
レーヴァが一歩前へ出る。
「この程度で、
私を遮ることはできません」
静かに腕を差し伸べた、その瞬間。
僕たちを中心に、
景色が陽炎のようにわずかに歪んだ。
「防御結界です。
結界の外へ出ないよう、
私から離れないでください」
そのまま、
僕たちは雨域へ足を踏み入れた。
直後。
凄まじい轟音と共に、
豪雨が結界へ叩きつけられる。
だが。
雨粒は触れた瞬間、
白い蒸気となって消えた。
雨は一滴も通さない。
だがその代償に、
視界は一瞬で真っ白に染まった。
「前見えねぇ!」
「マコト、手を!」
リンが叫ぶ。
差し出された手を掴む。
「絶対離すなよ!」
「そっちこそ!」
蒸気。
雨音。
熱気。
視界も聴覚も奪われ、
上下感覚すら狂いそうになる。
ただ前へ進んでいるはずなのに、
本当に進めているのかすら分からない。
しかも足元は悪い。
ぬかるみ、
滑り、
何度も体勢を崩しかける。
「くっ……まともに歩くことすらできねぇ!」
「本気で侵入を拒んでやがる……!」
雨音で叫ばないと会話も届かない。
まるで世界そのものに拒絶されているようだった。
――――――
どれほど進んだのか。
時間感覚も距離感も曖昧になった頃。
「――抜けます」
レーヴァの声が響いた。
次の一歩で、
唐突に雨音が消える。
白い蒸気が晴れ、
視界が開けた。
「……っ」
思わず息を呑む。
そこに広がっていたのは――
巨大な湖の上に築かれた、
幻想的な白亜の都市。
……だったはずのもの。
無数の建物は半ば水没し、
白壁は崩れ、
尖塔は折れ、
街全体が静かに朽ち果てていた。
水面へ沈みゆく建造物群。
崩れた橋。
傾いた塔。
割れた街路。
だというのに。
その光景は、
息を呑むほど美しかった。
「……これが」
誰ともなく呟く。
「アクアリス……」
死の街。
その名に相応しい、
美しくも禍々しい都が。
僕たちの眼前に、
静かに広がっていた。
まるで、
今なお誰かを待ち続けているかのように。
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死の街アクアリスへ、ようやく辿り着きました。
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