50. 旅立ちの準備
出発準備回です。
投稿遅れてしまいました。
翌日。
宿でのんびりしていたところ、
部屋の扉が乱暴に叩かれた。
「おい!
来いってさ!」
扉を開けると、
そこにいたのはユークだった。
「……間に合ってます」
「何だその反応は!」
「いや、知らない人だし」
「知り合いだろうが!」
そうだったか?
「ハルヴァードさんが呼んでる!
渡したいものがあるって!」
それだけ言うと、
ユークは胸を張った。
……伝令役を任されているあたり、
一応信頼はされているらしい。
――――――
というわけで、
僕たちは再び蒼鱗旅団の本部を訪れていた。
応接室には、
ハルヴァードさんとソフィアさんが待っていた。
「これを持っていけ」
そう言って差し出されたのは、
一枚の古びた地図だった。
アクアリス周辺の旧街道と防衛線を記したものらしい。
「こんなの残ってたんですね」
「使える保証はない」
ハルヴァードさんは淡々と言う。
「十五年前の地図だ。
地形も何もかも変わっていると思え」
それでも、
何もないよりはありがたい。
「もう一つ忠告しておく」
ハルヴァードさんの目が鋭くなる。
「アクアリスに近づくにつれ、
周辺環境そのものが変質している」
「変質?」
「水脈の暴走、
異常気象、
魔物の凶暴化」
淡々とした説明のはずなのに、
それだけで危険が伝わってきた。
「街に着く前から地獄だと思え」
軽く言うことじゃない。
「加えて」
今度はソフィアさんが口を開く。
「アクアリス周辺では、
目で見える認識も当てにならないそうです」
「そうです?」
「ええ。
我々も深部までは踏み込めていませんので」
なるほど。
つまり実質未踏破地帯か。
「最後に一つだけ言っておく」
ハルヴァードさんが低く告げる。
「情けをかけるなら死ぬぞ」
その言葉の意味は重かった。
エリスは哀れな被害者だ。
だが同時に、
間違いなく敵でもある。
「……分かってます」
僕は頷いた。
ハルヴァードさんはそれ以上何も言わなかった。
――――――
本部を出ると、
遠巻きにこちらを見ている影があった。
「……あ」
ユークだった。
目が合った瞬間、
びくっと肩を震わせる。
そのままリンを見て、
顔を赤くした。
「…………」
「おいユーク」
背後からガルドが現れる。
「うわっ!?」
「何してやがる」
「べ、別に何も――」
「修練の途中だろうが」
そのまま首根っこを掴まれた。
「あっ、ちょ、待っ――」
「行くぞ」
ずるずると引きずられていく。
「何なんだあいつ」
「知らねぇよ」
リンは心底嫌そうな顔をしていた。
――――――
その後、
必要な物資を揃えるため市場へ向かう。
「保存食よし、
水袋よし、
回復薬よし」
リンが手際よく確認していく。
「ずいぶん慣れてるな」
「そりゃ冒険者だしな」
当然だろ、
という顔だった。
レーヴァは荷物を見て首をかしげる。
「マスター、
私がいれば不要では?」
「だからって全部任せるのは問題だろ」
「私では不足だと?」
「そういう話じゃない」
備えは大事である。
――――――
準備を終えた頃には、
日も傾き始めていた。
宿へ戻り、
荷物を整理し、
早めに床へ就く。
明日からは、
未知の領域へ踏み込むことになる。
眠りにつく直前。
ふと、
ハルヴァードさんの言葉が脳裏をよぎった。
――情けをかけるなら死ぬぞ。
あれは忠告だ。
同時に、
願いでもあったのだろう。
おそらく僕とエリスは同じ転生者だろう。
もし本当にエリスと対峙するなら。
僕は、
どうするのか。
答えの出ない問いを抱えたまま。
水の都アクアリスへの旅が、
いよいよ始まろうとしていた。
now loading......
ここまでお読みいただきありがとうございます。
迷宮都市編はひとまずこの辺りまでとなります。
次回以降、死の街アクアリス編へ突入です。
ブックマーク・評価・感想等いただけますと励みになります。
引き続きよろしくお願いいたします。




