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49. 若き挑戦者

少し息抜き回です。

 重い沈黙が、

 しばらく部屋を支配していた。


 誰もすぐには口を開けなかった。


 ハルヴァードさんの語った過去は、

 それほどまでに重かった。


 やがて。


「……お茶でも淹れましょう」


 ぽつりと言うと、

 ソフィアさんが立ち上がった。


 ほどなくして運ばれてきた温かい茶が、

 少しだけ場の空気を和らげる。


 カップを手にしたリンが、

 小さく呟いた。


「……なんつーか、

 想像以上に重ぇ話だったな」


「ああ」


 僕も頷く。


「正直、

 もっと単純な話かと思ってた」


「そうでしょうね」


 ソフィアさんが静かに応じた。


「だからこそ、

 皆あれほど感情的になったのです」


 そう言ってから、

 彼女の視線が僕へ向く。


「ですが」


 わずかに微笑んだ。


「それでも踏み込むと決めた貴方は、

 思ったより男らしい方のようですね」


「え?」


 その瞬間。


「……興味深い発言ですね」


 背後から、

 静かな声が響いた。


 嫌な予感しかしない。


 振り返る。


 案の定、

 レーヴァが無表情で立っていた。


「マスターへの評価が高いようで何よりです」


 にこりともせず言う。


 怖い。


 ソフィアさんが小さく笑う。


「安心してください。

 取るつもりはありません」


「そうですか」


 レーヴァはなお疑わしそうだった。


 ……何なんだこの空気。


――――――


 蒼鱗旅団本部を出た直後だった。


「待て!!」


 背後から声が飛んだ。


 振り返ると、

 そこには先ほど訓練場で見かけた少年が立っていた。


 息を荒げ、

 真っ直ぐこちらを睨んでいる。


「……誰?」


「ユークだ!」


 知らん。


 そのままユークは、

 真っ直ぐ僕を指差した。


「お前!

 ガルドさんに何した!」


「何したって……普通に戦っただけだけど」


「嘘つけ!

 ガルドさんが負けるわけねぇだろ!」


「いや負けたけど」


「絶対卑怯な手使ったに決まってる!

 もう一回俺と勝負しろ!」


「何でそうなる」


「いいから来い!」


「断る」


「逃げるのか!?」


「面倒だからだよ」


「ふざけんな!」


「……ユーク」


 低い声が割って入った。


 振り返れば、

 ガルドが立っていた。


「ガ、ガルドさん!?」


「うるせぇぞ」


 ぴしゃりと言い放つ。


「俺が負けを認めた相手に、

 見苦しい真似すんな」


「で、でも……!」


「でもじゃねぇ」


 完全に正論だった。


 ユークは悔しそうに唇を噛み、

 それでも諦めきれない様子でこちらを睨んだ。


 ……と思ったら。


 視線がリンへ向く。


「お前もだ!」


「は?」


 リンが眉をひそめる。


「そんな奴らに騙されてるんだろ!?

 目ぇ覚ませよ!」


「……あぁ?」


 リンの声の温度が下がる。


「ガルドさんを倒したのだって、

 どうせ卑怯な手だ!

 そんな奴らについてくとか――」


 次の瞬間。


 拳が炸裂した。


「ぶへっ!?」


 ユークが綺麗に吹っ飛ぶ。


 地面を二、三度転がり、

 そのまま仰向けに倒れた。


「な、何言ってんだこのクソガキ!!」


 真っ赤になって怒鳴るリン。


 対して。


 倒れたユークは、

 頬を腫らしながらも――


「……つ、強ぇ……」


 うっとりしていた。


 その視線が、

 至近距離のリンを捉える。


「……え」


 間抜けな声が漏れる。


「ち、近くで見たら……

 めちゃくちゃ可愛くねぇか?」


「は?」


 リンが固まる。


「髪も綺麗だし……

 その髪留めも似合ってるし……」


 青い宝石のついた髪留めを見て、

 ユークがぼそぼそ続ける。


「……普通に好みなんだけど」


 リンの顔が、

 みるみる真っ赤になる。


「お、俺と付き合ってくれ!!」


「気持ち悪ぃ!!」


 再度拳が振り下ろされた。


 僕は空を仰いだ。


 ……何か、

 面倒な関係が始まった気がする。


now loading......

ここまでお読みいただきありがとうございます。


思った以上に面倒そうな子が現れました。


ブックマーク・評価・感想等いただけますと励みになります。


引き続きよろしくお願いいたします。

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