45. 蒼鱗旅団
蒼鱗旅団との接触回です。
まずはご挨拶(?)から。
蒼鱗旅団に会いに行くと決めた翌日。
「では、向かいましょう」
当然のように歩き出すレーヴァに、
僕は慌てて声をかけた。
「待て待て。 どこに向かうつもりだ?」
「蒼鱗旅団本部です」
「いや、いきなり本拠地は失礼じゃないか?」
「何がですか?」
本気で分かっていない顔をするな。
「普通はこう……紹介とか手順とかあるだろ」
「不要です」
「そういう問題じゃない」
「最短距離で目的地へ向かう。 合理的です」
「合理性だけで人間関係築けるなら苦労しないんだよ」
横でリンが深く頷く。
「姉ちゃんに言っても無駄だよ、にーちゃん」
……その通りすぎて反論できない。
そして案の定。
「……何の用だ」
蒼鱗旅団本部の門前で、
僕たちは屈強な門番に止められていた。
石造りの重厚な建物は、
冒険者ギルドというより小規模な砦に近い。
いかにも“有力ギルドの本拠”という風格だった。
「蒼鱗旅団団長へ面会を求めます」
レーヴァが平然と告げる。
「アポは?」
「ありません」
「帰れ」
ほら見ろ。
「死都アクアリスについて伺いたいことがあります」
その瞬間。
門番の目つきが変わった。
「……誰の差し金だ」
「私の判断です」
「ふざけるな。
その名を軽々しく――」
「待て」
低い声が割って入った。
奥から現れたのは、
二十代前半ほどの男だった。
精悍な顔立ちに青灰色の短髪。
軽装ながら隙のない佇まい。
――強い。
ひと目で分かる。
男はレーヴァを見て眉をひそめた。
「……その赤髪。
例の“ラビラリンズで暴れてる新人”か」
「悪評届いてんじゃねーか」
ガルドは鼻を鳴らした。
「色々と聞いているぞ」
「曰く、迷宮都市のギャングを崩壊させたとか」
「ギャング崩れって何!?」
「……あ」
リンが目を逸らした。
「いや待て。 何それ初耳なんだけど」
「に、にーちゃんは知らなくていいやつ」
「知らなくていいやつって何!?」
「曰く、高難度迷宮を一日で三つ踏破したとか」
「それは……まあ、あったけど」
「曰く、ナンパしてきた冒険者を半殺しにした上、
その場にいた取り巻きごと全員叩きのめしたとか」
「何やってんだよ!?」
「いや、あれは向こうが――」
リンが言い訳しかける。
「お前もいたの!?」
「曰く、模擬戦で領主軍の兵士1000人を1人で壊滅させたとか」
「何でそんなことになってんだよ!?」
「鍛え方が足りませんでした」
「何をしたんだよお前は」
「曰く、迷宮の壁を蹴り砕いて最短ルートを作ったとか」
「……それも事実なのか?」
思わず聞いてしまった。
やめろ。
頷くな。
ガルドは最後に肩を竦めた。
「挙句に地形を吹き飛ばしたという噂まである」
「だ、誰だそんな話盛ったやつ!?」
ガルドはそんな僕らのやり取りを眺め、
小さく息を吐いた。
「……追い返すより話を聞いた方が早いか」
門番へ顎をしゃくる。
「通せ」
――――――
通された先は、
無骨な応接室だった。
豪奢さはない。
だが調度品一つ一つに統一感があり、
実用と品格を両立した空間だった。
やがて扉が開く。
入ってきたのは二人。
一人は壮年の大男。
灰髪混じりの短髪、
顔に刻まれた古傷、
そして立っているだけで空気が張り詰めるような威圧感。
もう一人は青髪の美女。
冷たい美貌に理知的な眼差しを宿している。
「蒼鱗旅団団長、ハルヴァードだ」
「副長のセレナです」
先ほどの若い男が壁際へ下がる。
「ガルドだ」
こちら側も軽く名乗りを返し、
勧められるまま、席に着いた。
だが空気は重い。
最初から歓迎されていないのがよく分かった。
「……で?」
ハルヴァードさんが低く問う。
「アクアリスについて聞きたいそうだな」
「はい」
答えたのはレーヴァだった。
「死の街アクアリスについて、情報提供を求めます」
瞬間。
室内の空気が凍った。
「……何故だ」
低く、抑えた声。
「我々にはあの地へ向かう必要があります」
「理由を聞いている」
鋭い視線が突き刺さる。
レーヴァは一切怯まない。
「探し物があります」
「答えになっていない」
「答える必要性を感じません」
おい。
おい待て。
空気読め。
ガルドが壁際から一歩前へ出る。
「……随分舐めた口利くじゃねえか」
低い声音だった。
先ほどまでの冷静さを保ったまま、
だが明確に怒気を滲ませている。
「アクアリスがどんな場所かも知らねえガキが、
軽々しく踏み込んでいい場所じゃねえ」
「だからこそ情報を求めています」
「ふざけるな」
短く吐き捨てたその一言に、
逆に怒りの深さが滲んでいた。
セレナさんも冷え切った声で告げる。
「遊び半分で関わる話ではありません」
「遊びではありません」
「ならば尚更です」
ハルヴァードさんが口を開いた。
「――帰れ」
重い一言だった。
「その程度の覚悟と説明しかできん者に、
語ることは何もない」
レーヴァが僅かに目を細める。
「感情論で必要情報を秘匿するのですか?」
ピシリ、と。
空気が凍り付く音が聞こえた気がした。
「……今、何と言った」
ハルヴァードさんの声色が変わる。
まずい。
これは本格的にまずい。
だがレーヴァは止まらない。
「過去に囚われ、感情で判断を誤る。
非合理的かと」
「レーヴァ!!」
僕の制止も遅かった。
ガルドが一歩踏み出す。
「……上等だ」
殺気が膨れ上がる。
ハルヴァードさんは静かに立ち上がり、
僕たちを見下ろした。
「……力づくで通るというなら、試してみろ」
低く、重い声だった。
「我らの誇りを踏みにじってなお、
その先へ進む覚悟があるならな」
――完全に、やらかした。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
情報収集のための接触だったのですが、
案の定、穏便には進みませんでした。
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引き続きよろしくお願いいたします。




