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42. 周到なる慰労

レーヴァの計画が明るみに出ます。

「本日は慰労も兼ねて、遠出します」


「……本格慰労じゃん」


思わずそんな感想が漏れた。


貸切馬車に乗り込み、

僕たちはレーヴァの案内で街を出た。


「目的地は、迷宮都市近郊の湖です。

 保養地として整備されており、

 上流階級にも人気の避暑地ですね」


「へえ、そんな場所あったのか」


「湖!? 釣りできる!?」


説明を聞いた瞬間、

リンの食いつき方がおかしかった。


「可能です。

 良い釣り場も押さえてあります」


「マジで!?」


リンが一気に上機嫌になる。


さらに馬車に揺られることしばらく。


坂を登りきったところで急に視界が開けた。


そこに広がっていたのは、

空をそのまま映したような巨大な湖だった。


湖畔には白壁と木造を基調とした瀟洒な建物が並び、

遊歩道には花壇まで整備されている。


どう見ても高級保養地だ。


その中心に建つ、

ひときわ大きな宿を前にして馬車はその足を止めた。


「……慰労ってレベルじゃないだろこれ」


「頑張った部下への還元は上司として当然の務めです」


僕らは部下だったのか。

高級宿に泊まれるなら何でもいいけど。


――――――


案内された部屋は、

湖を一望できる最上階の角部屋だった。


広い。

無駄に広い。


テラスまでついている。


「これ一泊いくらするんだ……?」


「話はついておりますので、気にしないでください」


誰とだよ……気になる。


「……ここまでされると、

 周到すぎてちょっと怖いんだが」


「準備は万全を期すべきでしょう」


「慰労で使う言葉かそれ?」


――――――


部屋に荷物を置いた後、

レーヴァが大きな白いテーブルの上に周辺の地図を広げた。


「リンにはこちらを準備しています」


示された先は、

湖の中央に浮かぶ小さな中洲だった。


宿から専用の小舟で渡れるらしい。


「えっ、あそこ行っていいの!?」


「本日は貸切です」


「マジで!?」


リンの目が輝く。


「魚影が濃く、足場も安定しており、

 釣りには最適かと」


「最高じゃん!!」


完全に釣られている。


その隙に、

レーヴァがリンへだけ小さく囁いた。


「本日はお戻りにならなくて結構です」


「……は?」


「私は今夜、マスターを仕留めますので」


「おまっ――」


「ごゆっくりどうぞ」


にこやかに言い切るレーヴァに、

リンの顔が引きつった。


――――――


その後。


リンは後ろ髪を引かれながらも、

釣りの魅力に抗えず旅立っていった。


「にーちゃん、生きて帰れよ……!」


「なんでそんな別れの挨拶なんだよ!?」


――――――


夕食。


案内されたのは、

湖を一望できる個室だった。


夕焼けに染まる湖面を眺めながら、

卓に並ぶ料理を見る。


「……なんか妙に豪華じゃないか?」


「慰労ですので」


「いやそれにしてもだぞ」


見たこともない鍋。

艶のある肉。

滋養強壮と書いてありそうな薬膳スープ。


どう見ても方向性がおかしい。


それでも空腹には勝てず、

ひと通り口にした。


――――――


食後。


湖畔を二人で歩く。


夜風は涼しく、

水面には月明かりが揺れていた。


遠くで虫の声が聞こえる。


「本日は楽しんでいただけましたか?」


「……まあな。

 正直かなり」


「それは何よりです」


そう微笑むレーヴァの横顔を見て、

ふと胸が高鳴る。


……いや、

さっきから妙に身体が熱い気がする。


夜風に当たっても引かない。


むしろ熱はじわじわ増している。


「……大丈夫ですか?」


「いや、なんかちょっと熱いというか……」


「そうですか」


その返事が妙に含みを帯びて聞こえた。


――――――


部屋へ戻った後、

せっかくなので備え付けの浴室を利用した。


広々とした湯船に浸かり、

身体の疲れは取れた――はずなのだが。


「……なんで余計熱くなってるんだ?」


湯上がりの火照りだけではない。


明らかに、

熱の質がおかしい。


寝巻きに着替えて部屋へ戻る。


そこで――

思わず息を呑んだ。


風呂上がりのレーヴァが、

深紅のドレスに身を包んで立っていた。


濡れた赤髪を軽く払う仕草すら絵になる。


普段の装いとは違う、

あまりにも完成された美貌。


「……どうしました?」


その一言で、

理性が飛んだ。


気づけば、

彼女を抱き寄せていた。


「っ……!」


柔らかな感触。

甘い香り。

そしてさらに加速する熱。


そこでようやく確信する。


「お前――」


至近距離で、

その紅い瞳を見つめた。


「ひょっとして盛ったな?」


レーヴァは、

否定せず微笑むだけだった。


now loading......

ここまでお読みいただきありがとうございます。


周到な慰労でした。

計画性が高い相手は、敵に回したくないものです。


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引き続きよろしくお願いいたします。

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